3年目のサウスポー櫻井周斗(DeNA)は、試行錯誤しながら自分と向き合ってきた。「自分はどんなピッチャーになりたい…
3年目のサウスポー櫻井周斗(DeNA)は、試行錯誤しながら自分と向き合ってきた。
「自分はどんなピッチャーになりたいのか?」
オープン戦では3度の先発を含み、4試合でチャンスをもらったが、9イニングを投げて7つの三振を奪ったものの、被安打8、四球14個、防御率4.82と決して芳しいものではなかった。

3年目のブレイクが期待されているDeNAの櫻井周斗
通常であればファームでの調整を言い渡されてもおかしくはないが、ラミレス監督はことあるごとに「ストレートは150キロを超えているし、ポテンシャルは高い。それに球種のコンビネーションをもうちょっと見てみたい」と、櫻井に強い興味を示していた。
たしかに投球内容を見ると、昨年までとはまったく違うピッチャーになったといっても過言ではない。以前の櫻井はストレートを軸にスライダーとチェンジアップで勝負するピッチャーだったが、今季の内容はストレートとスライダーの使用を減らし、カットボール、チェンジアップ、ツーシーム、そして昨季は1球も投げていないというカーブを組み合わせバッターと対峙している。
櫻井はこのドラスティックな変化について次のように教えてくれた。
「昨年のデータをアナリストさんに見せてもらいコーチと話した結果、被打率の高いボールを減らし、打たれないボールを増やしていくということになりました。結果、指標的によかったチェンジアップやツーシーム、そして練習をしてきたカーブがものになってきたので使っていこうと」
新たな武器として選んだカーブ。オフにはDeNAのファーム施設に訪れたシンシナティ・レッズのトレバー・バウアーに積極的にアドバイスをもらうなど、目的と意識を持って取り組んできたボールである。結果、カーブはオープン戦でまったく打たれることはなかった。
「思いどおりストライクが取れているので、自信を持って投げられている球種のひとつですね。昨年は大きなスライダーを代用し組み立てていたのですが、緩急や体の負担を考えたとき、しっかりとカーブが投げられたほうがいい。最近は日米問わず、一流の先発ピッチャーはスローカーブやナックルカーブ系を使って活躍している人が多いので、そういう意味からも自分のレベルを上げたいという思いがこもったボールです」
新たな櫻井の象徴的な場面となったのが3月14日の日本ハムとの試合だ。1回に一死満塁の状況で迎えたのは好調の4番・中田翔である。櫻井は初球に真ん中高めのカーブで見送りのストライクを奪うと、インローのツーシームで空振り、アウトローのチェンジアップでボール、さらにカットボールでファウルを誘うと、最後はアウトローのカットボールで空振り三振を奪った。以前の櫻井とは異なる見事なコンビネーションだった。
「あの時、じつはラミレス監督から『データ的に見て、強打者タイプの右バッターは初球にカーブなんてまず待ってはいない』と言われていたんです。実績もある方ですし、すごく説得力があるなって。たぶん去年までの自分だったらインコースへのカットから入って、真っすぐをからめて最後は膝元へのスライダー。
そういった意識が染み込んでいたんですけど、ずいぶん考えるようになりました。カーブから入って、ツーシームはすごく自信があったので空振りもファールも取れる。次はチェンジアップで攻めて、それがダメだったらカットを見せて、最後はツーシーム」
櫻井はつづく大田泰示に対しても、カーブ、ツーシーム、チェンジアップの配球で三球三振に打ち取った。
「いい攻め方、コンビネーションができたと思うし、ああいうピッチングができれば被打率は低く収まると自信を持つことのできたシーンでしたね」
思考が変化していったひとつの要因として櫻井が挙げたのは、大家友和ファーム(二軍)ピッチングコーチの存在だ。入団時から師事する大家に櫻井は、ほかの若手投手もそうであるように、登板後にレポートを出し続けてきた。
「大家コーチが口を酸っぱくして言っていたのは『何で?』を大事にしろということです。たとえば、初回にある球種を打たれたけど、何でそのボールを選択したのか。今回はカーブが少なく、スライダーが多かったのは何故か。バッターの傾向なのか、それとも自分の状態を見てのことだったのか。他には脚があるチームが相手だった場合など、理由やシチュエーションを自分で考えられるようにするためにレポートを書きます。
単に今日はスライダーがよかったからこう攻めましたではなく、相手チームの状態や、初回から無理をする必要がないとか、もっと深いところを考察し、自分自身納得できるような意味合いも込められています。それをみっちりやってきたことは、今の自分のなかで生きていると思いますね」
また櫻井といえば、学生時代から鋭く割れるスライダーを最大の武器とし、昨年も決め球として使ってきたが、今年はほとんど投げていない。それは「何で?」なのだろうか。
「スライダーに関しては去年の被打率は低いですし、自信をもって投げられる球種なので、今季投球内容が変わっていくにあたって、帰れる場所じゃないですけど、迷った時に使うといった位置づけです。たとえばカーブの調子が悪ければ、スライダーを代用するなど、オプションとして使うことができる。僕のなかでスライダーに関して課題はなく、今はほかのものに目を向ける時期かなって」
14日の日本ハム戦で櫻井は、高校時代にしのぎを削り合った清宮幸太郎と対戦した。当時、日大三のエースだった櫻井は、2年秋の東京大会で早実の清宮幸太郎と対戦し、スライダーを武器に5打席連続三振に打ち取った。
だが、今回の対戦ではスライダーを1球も使うことなくカットボール、ストレート、チェンジアップ、ツーシームで勝負をした。
「武器も変わり僕のピッチングのスタイルは変わってきていますし、相手も成長してレベルが高くなっている。結果的にフォアボールにはなってしまいましたが、新しい自分で勝負ができたのはよかったと思います」
入団当時はストレートとスライダーの2ピッチの投手だった。そう言うと櫻井は「今とはまったく別物ですよね」と苦笑した。今年21歳になる青年からはあどけなさが抜け、大人のピッチャーになった。
数字的には苦しんだオープン戦であったが、ピッチングスタッフの木塚敦志コーチと川村丈夫コーチから「苦しい時期だろうけど、絶対に逃げるな。状態が悪いことと向き合って逃げなければ絶対によくなるはずだから」と、背中を押された。
そして3月18日のロッテとの練習試合で櫻井は2回を投げ、3安打、2失点ではあったが、これまでにない手応えを感じたという。
「今年初めて、ピッチングができた試合でした。それまではピッチング以前の問題でしたからね。自分の狙いどおりにストライクが投げられましたし、ようやくスタートラインに立てたのかなって。打たれて失点はしましたが、球種の選択であったり、それこそ大家コーチに言われていた、何でそのボールを投げるのかという部分でも答を出せましたし、あとは修正していければという感じでした」
この日のピッチングに対しラミレス監督は「失点はしたが前回よりも進化があった。下半身の使い方が良くなったことで出力も上がった。そうするとうしろ足の使い方もよくなるし、カーブでストライクを取れていた。クイックも終始安定したタイムを出していたしね」と及第点を与えている。
現在、新型コロナウイルスの影響によりプロ野球の開幕が大幅に遅れているが、櫻井はまだレギュラーシーズンでローテーションを任せてもらえる状況にはない。チャンスはもらうものではなく、自らつかむもの。いかにひとつでも多くアウトを取るかを模索するチャレンジは続く。
「大事なのは、結局、自分がどうしたいのかだと思うんです。どんなピッチャーになりたいのかといえば、ほかの人と違うタイプのピッチャーを目指したい。昨年はリリーフではロングをやったり、ワンポイントで投げたり、いろいろな経験をさせてもらいました。
また先発ならばバッティングも問われるでしょうし、どんなシチュエーションにも対応できる、時代のニーズに合うようなピッチャーが理想ですよね。そう考えれば僕にしかできないことは結構ありそうですし、開幕が延期になったことをプラスに捉え、どんどん形にしていきたいと思います」
目下の課題は、制球を安定させるためのフォームの再現性。櫻井は「最後は腕が振れるか、振れないか」と、力強く静かに語った。