バルセロナの不安定な魅力9

 ヨハン・クライフが作り上げたバルセロナの下部組織「ラ・マシア」は、リオネル・メッシの”降臨”によって、ひとつの結実を得た。しかし、それで満足するべきではない。現在、未来にその伝統を継承するべきだろう。掲げた理念よりも重要なことは、何ひとつない。

 今のバルサは、セルジ・ロベルト以降、ラ・マシア組から主力を出せていない。それは危機と言える。また、プレースタイルも結果を優先した、退屈な戦いに変化しつつある。それに加えてメッシも今年33歳となり、終わりの時は近づいている。

 来るべき難局を救えるのは誰なのか?



ラ・マシア出身で現在17歳のアンス・ファティ

 ラ・マシアは、今も人材を育んでいる。

 17歳になるアンス・ファティは、メッシの後継者のひとりだろう。16歳でトップデビュー。アフリカ、ギニアビサウ(ポルトガルが元宗主国)出身で、幼少期に渡ったセビージャで下部組織に入団後、10歳でラ・マシアへ。当時から実力は別格で、久保建英とはチームメイトになっている。ファティは久保のパスを受け、ゴールを決めていた。

「Desborde y Velocidad」(崩しとスピード)

 それはラ・マシアのサイドアタッカーに対するスカウティングの基本となっているが、ファティは卓抜としたゴールセンスも備える。その点でメッシと共通している。ゴールに近づくたび、たいていの選手は技術の精度が下がるものだが、ファティは少しも落ちない。

 デビュー2戦目でいきなりゴールし、クラブ史上最年少得点記録を更新。昨年末にはチャンピオンズリーグ(CL)インテル戦で得点し、CL史上最年少得点者にもなった。

 ファティの課題は、メッシのように戦うたびに成長できるかどうかだろう。キケ・セティエン監督には、右サイドで起用される機会が多いが、これまで主戦場としてきた左サイドと違い、フィットできていない。17歳の選手には酷な要求だが、ピッチの中でどこにいても自分の生きる形を探し、周りを生かせる選手だけが、バルサでは生き残れるのだ。

 ファティ以外にも、注目すべき選手はいる。

 20歳のMFリキ・プッチは、今シーズンのバルサBを牽引している。センスだけでいえば、同年代では欧州屈指だろう。小柄だが、小気味よくボールをはじき、アンドレス・イニエスタ(ヴィッセル神戸)にも通ずる技術と戦術眼を持つ。ただトップでのプレー機会が継続的に与えられておらず、本人も高いレベルで連戦をするだけの力が備わっていない。濃厚にバルサ色を匂わせる選手なのだが……。

 18歳のMFニコ・ゴンサレスは、ビジョンに優れたプレーメーカーとして注目される。元デポルティーボ・ラ・コルーニャのMFフランの息子というサラブレッド。ジュニアユース時代は、久保とチームメイトだった。

 また、16歳のMFイライス・モリバは、すでにバルサBで得点を記録。大柄で体躯に恵まれ、ポール・ポグバ(マンチェスター・ユナイテッド)やヤヤ・トゥーレ(青島黄海)と比較される。16歳のMFマルク・カサドも、利発でプレーメイキングに優れる。”ジョゼップ・グアルディオラの系譜”を継ぐ選手と言えるだろう。

 ひとつ断言できるのは、バルサが目を向けるべきはラ・マシアだということだ。有力な外国人選手は、たしかにチームの浮沈に関わってきた。しかし、彼らに依存するようなチームに舵を切れば、バルサはそのアイデンティティを失う。

 危惧すべきは昨今、ラ・マシアからの流出が相次いでいる点だ。

 21歳になるMFダニ・オルモ(ライプツィヒ)などは最たる例だろう。バルサのユース昇格を”拒否”して退団。ディナモ・ザグレブとプロ契約を結び、今季は中心選手としてCLでプレーしていた。シーズン途中で引く手あまたとなって、ドイツを新天地に選んだ。

 現政権は今年の冬も、カルレス・ペレス(ローマ)、アレハンドロ・マルケス(ユベントスU-23)などラ・マシア組をイタリアのクラブにあっさりと売却した。アベル・ルイスもポルトガルのブラガへ期限付き移籍させてしまった。

 一方、デンマーク代表FWマーティン・ブライトワイトを30億円以上も投じて獲得したが、それは正しい補強だったのか。なにより、ラ・マシア育ちの久保を買い戻すことができなかったのは、明らかな失態である。移籍金0で手に入れられたのに、年俸100万ユーロ(約1億2000万円、バルサ側の提示は30万ユーロだったという)を惜しんだと言われるが……。

 バルサが”ラ・マシア路線”に回帰するなら、必然的にラ・マシア育ちの指導者が待望される。その最有力候補は、すでにカタールで指導者に転身しているシャビ・エルナンデスになるだろう。アル・サッドをアジアチャンピオンズリーグ準決勝に導くなど、着実に経験を積んでいる。頭の回転が速く、リーダーシップに優れ、バルサであらゆるタイトルを獲得するなど経験豊かで、おまけにカタルーニャ人と、資質は十分。グアルディオラの再来となるか。

 いずれにせよ、バルサは自らの戦いに殉じるしかない。たとえ敗れようとも美しく――。新時代も、”不安定な魅力”を放ち続けるのだ。