3月15日に決勝が行なわれる予定だったNTTインディカー・シリーズ開幕戦セントピーターズバーグ。しかし、その2日前の13日、すでにレースウィークエンドに入っていたなかで、イベントの中止が発表された。 日本でも新型コロナウイルスの感染者が増…

 3月15日に決勝が行なわれる予定だったNTTインディカー・シリーズ開幕戦セントピーターズバーグ。しかし、その2日前の13日、すでにレースウィークエンドに入っていたなかで、イベントの中止が発表された。

 日本でも新型コロナウイルスの感染者が増えていたことから、「アメリカへの入国禁止」になっては困ると、筆者は2月下旬、慌てて渡米した。だが、いざ到着してみると、フロリダ州オーランドウはいつもと変わらぬノンビリした雰囲気だった。

 日中は強い日差しが照りつけ、気温は摂氏30度近くまで上昇。南国ムードに満ちていた。この時点で感染者はゼロ。なぜかマスクや手の消毒液、消毒ジェルはすでにドラッグストアの店頭から消えていたが、春休みを堪能しようという人々が、ビーチ、ショッピングモール、そしてテーマパークに溢れていた。



すでに仮設スタンドなどが作られたインディカー・シリーズ第3戦ロングビーチも中止に

 3月に入ると、事態が急転した。ワシントン州やニューヨーク州で感染者が続出した結果、3月9日にプロバスケットボールのNBAがオーナー会議を開き、シーズンのど真ん中にもかかわらず、即刻のシリーズ中断を発表したのだ。アイスホッケーのNHL、サッカーのMLSもこれに追随した。民主党の大統領候補選挙が佳境を迎えつつあったが、テレビはウイルスの話題で持ちきりになった。

 メジャーリーグベースボール(MLB)はまずプレシーズンゲームを無観客で行なうと発表し、その後に開幕の延期を決めた。大学バスケットボールNCAAのトーナメントも無観客試合で行なうと発表→全面ストップという経路を辿った。

 インディカーはセントピーターズバーグでの公式練習が始まる直前の木曜日、「無観客で開催。金曜はサポートレースのみで、インディカーは土日の2日間イベントに変更」との発表を行なっていた。そして金曜日にサポートレースの走行が始められたが、午後になってレースの中止が決定された。

 主催者のインディカーは、4月中に開催予定だった第2戦バーミンガム(アラバマ州)、第3戦ロングビーチ(カリフォルニア州)、第4戦オースティン(テキサス州)のキャンセルもアナウンスした。この日の夕方4時(東部時間)、アメリカ政府は国家非常事態を宣言。インディカーがギリギリで下した開幕戦キャンセルは正しい判断だった。

 予定されていた4レースについて、インディカーは当初、今年中に代替日程を見つけ、復活開催させることを検討していた。しかし、1週間ほどしてから、どのレースも今年はキャンセルという結論を出した。

 セントピーターズバーグとロングビーチはストリートレースで、日程変更はほとんど不可能だった。セントピーターズバーグの場合、すでに膨大な費用を使って架設のコースを完成させており、プロモーターとすれば強行したいところだっただろう。実際、やってやれないことはなかった。100マイルほど東のディズニーワールド、ユニバーサルスタジオは日曜まで営業していた。

 開幕戦を含む4レースがキャンセルされたと知った佐藤琢磨は、「ショック」と話した。彼が得意とするコースは、キャンセルされた4レースの中に3つも含まれていた。

「ショックだけれど、どうしようもない。僕らだけではなく、世界中がこういう状況なのだから、開幕戦がキャンセルになったのは仕方ない。最初は無観客でもレースが開催できるという話になっていたので、ファンの方々は少なくともテレビでなら応援ができると思っていた。それがなくなってしまったのは無念だ。

 ここはみんなで乗り越えるしかない。自分たちができるのは、手を洗うことなど、ガイダンスに沿って感染しないようすること。世界的な感染を早く食い止め、収束してもらう。その後、いろいろなイベントが大々的に開催されることになったら、インディカーもその中のひとつとして復活してもらえればいい」

 琢磨は「自分たちには考える時間ができた。テストで走って得られたデータをどれだけ分析でき、どれだけ前に進めるか。今の時点では正直わからないけれど、やるしかない」と、この事態に対してポジティブに向き合おうとしていた。

 一方、アメリカで人気絶大のストックカーレースを主催するNASCARは、セントピーターズバーグと同じ週にジョージア州アトランタでレースを開催するはずだったが、こちらも金曜日、プラクティス開始直前に延期を決定。同時に3月の3レースと、4月中のレースすべてを延期すると発表した。スケジュールを調整し、全レースを今年中に行なう意向を示している。

 スポーツカーのIMSAは、伝統の12時間レースと世界選手権の1000マイルレースをセントピーターズバーグの翌週に同じフロリダ州のセブリングで開催予定だった。ところが、3月11日にドナルド・トランプ大統領が、「ヨーロッパからの入国を禁止」と宣言。ドライバーの多くやチームの大半がアメリカに来られなくなったため、耐久ダブルヘッダーは延期を余儀なくされた。10月に日程を変更して開催する予定だ。

 いまのところインディカーは、5月の2週目に、インディアナポリスのロードコースでのイベントでシーズン開幕する予定だ。すでにシーズンインしていたNASCARとIMSAも、5月からはスケジュールどおりに開催したいという思惑でいる。

 しかし、いくつかの州で外出禁止令が出されるほど、アメリカの感染拡大は悪化の一途をたどっており、5月に世の中が正常化するのは難しい状況に陥っている。「過剰に反応し過ぎ。スポーツイベントはやっても大丈夫」と言う人もいれば、「もう今年は全部キャンセルするしかないのでは?」と、悲観的になっているファンもいる。

 世界最大のレースであるインディアナポリス500は、果たしてどうなるか。

 104回目のインディ500は5月末開催で、その2週間前からプラクティスを行なうのが恒例だ。だが、現実的には世界一の歴史を誇るレースも、戦争以外での初めてとなる延期の決断を下さなければならなくなる可能性は高い。F1は5月末、つまりインディ500と同じ週末のモナコGPの中止をすでに発表している。耐久レースのル・マン24時間は、すでに6月からに9月への延期を発表している。「インディ500も秋に開催。そしてそれがシーズン最終戦になるというのも、いいじゃないか」という声も出ている。

 感染拡大はまだ鎮静化しそうもないが、レースを含むスポーツが行なえる平穏な世界に戻ることを祈るばかりだ。