バルセロナの不安定な魅力7

 今年2月、バルセロナのジョゼップ・マリア・バルトメウ会長が渦中の人になった。クラブが契約していたPR会社が、SNSでリオネル・メッシやジェラール・ピケを批判するメッセージを発信。契約交渉を有利にするためだとされ、その工作容疑が持たれたのだ。

 バルトメウ会長は即座に、「(PR会社と契約した理由は)マーケティング目的」と疑いを否定。選手にも釈明した。しかし現体制と反目するビクトル・フォント(会長選への立候補を表明している起業家)などの陣営を誹謗中傷する内容もあったため、果てしなく「黒」の印象が残った。

 バルトメウ体制は火の車だ。


リオネル・メッシとネイマール。

「MSN」が一世を風靡した

 スポーツディレクターのエリック・アビダルは、その手腕が疑問視されている。FWルイス・スアレスの控え探しの交渉は失敗続き。下部組織「ラ・マシア」の若手選手を売り出す一方、チームの強化はできていない。「選手が力を出し切っていない」という軽率な発言は選手の不評を買った。リーガ・エスパニョーラを連覇し、今シーズンもリーガは首位、チャンピオンズリーグ(CL)も勝ち上がっていたエルネスト・バルベルデ監督をあっさり解任したことも、禍根を残した。

 ジョゼップ・グアルディオラ監督が去って以来、強固だったクラブの理念は軟化していった。

 2010年7月、新会長に就任したサンドロ・ロセイは、4億ユーロ(約480億円)以上と言われた負債返済のため、マーケティング重視の方策を次々に打ち出した。胸スポンサーとしてカタール財団と合意。クラブ史上初めて、ユニフォーム広告を入れる決断を下した(2006年からユニセフのロゴを入れていたが、報酬はなく、むしろ寄付をしていた。ただ、これを導入したのがロセイで、一度ロゴを入れて抵抗を和らげる戦略だったとも言われる)。

「理念を捨てるべきではない!」

 ヨハン・クライフを筆頭に多くの人々が反対したが、ロセイは財政難を理由に押し切った。

 グアルディオラ、フランセスク・ビラノバが指揮をとっていた2012-13シーズンまで、現場は大きな動きは示していない。しかし、クラブは次第にコマーシャル至上主義に戦略を転換。各国のスター選手と契約し、グッズや放映権収入などを目論んだ。

 その象徴的選手が、2013-14シーズンに南米王者サントスから獲得したブラジル代表ネイマールだろう。その商業的価値は群を抜き、ナイキ社と組んだ世界戦略だった。

 しかし、マネーの動きをクラブの車輪にしたことで、ゆがみが生まれる。

 ロセイ会長はネイマール獲得に際し、不正なお金の流れがあったという告発で、批判の的になる。2014年1月には会長職を辞任し、幕引きを図っている。ただ、架空会社を使ったマネーロンダリングで、選手の肖像権で稼いでいた疑惑も出ていた。

 ネイマール自身は、バルサのプレースタイルに順応し、技術やひらめきを見せるようになっていった。ロマーリオ、ロナウド、リバウド、ロナウジーニョなど、ブラジル人とバルサの相性は悪くない。バルサの論理的に根付いたプレーモデルが、ブラジル人の自由闊達なプレーを触発し、思いがけない”出会い”を果たすのだ。

 2014-15シーズン、ルイス・エンリケが監督に就任したチームは、「MSN」(メッシ、ルイス・スアレス、ネイマールの頭文字)で天下を取った。リーガ、スペイン国王杯、そしてCLと三冠。欧州サッカー界に旋風を巻き起こした。

 しかしながらエンリケ・バルサのチーム構造は、クライフ以来のバルサの伝統には背を向けるものだった。実像は単純なカウンターサッカー。MSNの得点力だけで打ち負かす戦い方だった。

 それでもシャビ・エルナンデスがいた。プレーのテンポを作り出せた。しかしシャビが退団した2年目の2015-16シーズンは、リーガ優勝したものの、CLはベスト8止まり。3年目はアンドレ・ゴメス、リュカ・ディニュ(ともに現在エバートン)、サミュエル・ウムティティなど多くの外国人選手を獲得したが、攻撃は単調で相手に読まれ、リーガ優勝を逃し、CLもベスト8だった。

 その後、青とえんじの色は薄まり続けた。

 2016年3月、危篤状態だったクライフが亡くなった。

 2017年8月、ネイマールが反旗を翻し、パリ・サンジェルマンに2億2000万ユーロ(約260億円)で移籍。

 2017年8月、フランス代表ウスマン・デンベレをドルトムントから1億500万ユーロ(約125億円)で獲得。

 2018年1月、ブラジル代表フィリペ・コウチーニョ(現バイエルン)をリバプールから1億2000万ユーロ(約144億円)で獲得。

 2018年6月、アンドレス・イニエスタが退団し、ヴィッセル神戸へ移籍。

 ロセイのあとを受け、バルトメウが会長に就任した。彼はロセイの流れをくむ人物で、ネイマールの移籍不正疑惑にも関わっていた(検察からは懲役5年を求刑されている)。必然的に、”金の流れ”を止められない。各国の有力選手を買っては売りを繰り返し、チームを弱体化させている。ラ・マシアからは有力な若手は台頭せず、”資金稼ぎの工場”と化しつつある。

 クラブの持つ不安定さが、悪い方向に振れた。はたして、誰がこの窮状を救えるのか?
(つづく)