Never give up! 
日本フィギュアスケート2019-2020総集編(9)

 女子選手としてトリプルアクセルを世界で3番目に成功させ、そのドーナツスピンは「世界一美しい」と言われた中野友加里さん。2010年に現役引退後はテレビ局に入社、社会人生活を送っていた。昨年、退社して再びフィギュアスケート界での活動を始めた。

 そんな彼女に、4回転時代を迎えたフィギュアスケート界のジャンプの技術について語ってもらった。まずは若手ロシア勢の台頭で激変した女子から--。


中野友加里

 1985年8月25日、愛知県生まれ。現役時代の成績は2005年GPファイナル3位、2006年四大陸選手権2位、2008年世界選手権4位など

 女子フィギュアはこの1シーズンで、技術的な部分ががらりと変わってしまいました。まさか女子でも4回転を跳ばないと勝てない時代になるとは思いませんでした。3回転を跳んだら次は3回転+3回転、その次がトリプルアクセルというのが、これまでの一般的なステップアップでしたが、それを飛び越えて、何種類もの4回転を跳ぶ選手が出てきました。

 ロシアの女子選手が台頭した一番の理由は、それがまさに「ロシア勢」だったことにあると思います。4回転を跳べば勝てるという考えが生まれ、ひとり成功すると、同じリンクで練習している選手は「私も跳べるかも」と思うようになります。身近にお手本となる選手がいることが大きいのです。新しい種類のジャンプを跳ぼうという欲も生まれます。

 もちろん、若いうちから徹底した指導を受けることの恩恵もあります。特に女性は、少女から大人の身体に変化すると、高難度のジャンプは跳びにくくなります。身体が出来上がる前に、技術を体に染み込ませる指導をすることで、大技を身につけることができます。何と言っても練習量がすごい。私たちの頃は、地上での練習といえば筋トレとバレエぐらいでしたが、いまは地上で回転する練習も当たり前のように行なわれています。

 女子選手の4回転を見ていると、高さのあるジャンプではなく、回転速度をうまく使ったジャンプだと感じます。身体が細いことをうまく利用して、糸のように回るイメージで、少女らしい小柄な体型を生かしたジャンプです。

 そんななかで、アンナ・シェルバコワ選手とアレクサンドラ・トゥルソワ選手は、小さいながらも力で跳んでいるように見えます。それを試合本番でできるのは、やはり相当な鍛錬を積んでいるからに違いありません。

 彼女たちは、体格的にもいまが一番いい状態なのでしょう。

 ただしそのジャンプは、跳び上がるのと同時に回り始める、もっと言えば、回りながら跳び上がるようなところがあります。いい悪いは別として、それを身につければ4回転を回り切れる可能性は高くなります。逆に判定でそれを「回転不足」と厳しく取られるようになると、何らかの対応をしなければならなくなるでしょう。

 それに対して、アリョーナ・コストルナヤ選手のトリプルアクセルは、次元が違います。4回転が入らないショートプログラムでの群を抜いた高得点にそれが表われていますが、高さ、幅、回転速度が、すべて理にかなっている。それをいとも簡単に跳ぶことができるというのは、天性の才能だと思います。

 彼女に関して言えば、そのスピードにも衝撃を受けました。プログラム全体でスピードに乗りっぱなしで、こんな女子選手は昨今、見たことがありません。才能をうまく生かしたスケーティングの質です。ジャンプをしても失速することがないので、流れを壊さずに、トリプルアクセルをプログラムの一部として跳ぶことができています。ライバルが4回転を跳んでも勝てるだけのものを持っているのです。

 一方、紀平梨花選手は、教科書に載っているお手本のようなトリプルアクセルを跳びます。

 一番すばらしいのは軌道。トリプルアクセルを跳ぼうとすると、「回らなきゃ、回らなきゃ」と、中に入ろうとする意識が働くのですが、彼女は回り込まず、真正面を向いて、跳び上がってから回転しています。それほど高さのあるジャンプではありませんが、幅を使って、スピードを落とすことなく、リズミカルに跳び上がります。軌道が美しく、空中の姿勢もすばらしいです。

 紀平選手は4回転サルコウも正統的な跳び方をしています。きっと、成功すると見栄えのいいジャンプになります。もっと力がついてきたら、高さ、迫力も出てくるのではないかという気がします。