検証! 東京五輪「フリー観戦術」 ◆サーフィン編

 なかなか手に入らない東京五輪のチケット。ならば、チケットなしで生観戦できる競技を見つけ出し、チケット争奪戦のストレスなしにオリンピックを楽しもうじゃないか、というシリーズ企画。

 Sportiva編集部がフリー観戦できるかどうかを検証するためにピックアップした競技のひとつが、東京五輪で新たに正式採用された「サーフィン」だ。



本文中の①に該当する競技エリア。ここから選手がエントリーする

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 新競技のサーフィンについて語ってくれたのは、近江俊哉氏。世界のプロサーファーを統括する「WSL(ワールド・サーフ・リーグ)」のツアーエグゼクティブで、NHKのBS1『サーフィン・チャンピオンシップ・ツアー』の解説者も務めている。

「サーフィンの世界的な組織は2つあって、ひとつが我々のWSLで、もうひとつがアマチュアサーファーをまとめている『ISA(インターナショナル・サーフィン・アソシエーション)』になります。

 現時点では、WSLとISAのどちらのフォーマットで東京五輪の試合が行なわれるか、まだ詳細は決まっていないのですが、複数の選手が一度に海に入って、決められた時間内で競技を行ない、高得点を出した選手の上位50パーセントが勝ち上がって、次のヒートに進む形式が基本になると聞いています」

 つまり、4選手が海の中に入れば2選手が勝ち上がり、2選手が海に入れば1選手が勝ち上がる。それも、20分、30分、40分という決められた時間内で、選手たちは交互に波に乗って、波に向かって飛び、海がつくり出す波の渦(うず)をくぐり抜けながら、難易度の高いターンやエア、パイプなどの技を繰り出し、高得点を出した選手が勝ち上がっていく。

 近江氏によると、東京五輪でサーフィン会場となる千葉県一宮町の釣ヶ崎(つりがさき)海岸は、サーフィン競技にはピッタリのいい波が来る海岸とのこと。

「サーフィンができる海岸は、3通りあります。ひとつは『ビーチブレイク』と呼ばれる
砂浜の海岸。もうひとつは底が岩になっている海岸で、いわゆる磯の『リーフブレイク』。最後が川の河口に面している海岸の『リバーマウス』になります。

 釣ヶ崎海岸は完全に砂のビーチで、2つのジェッティ(人工の防波堤)が海岸の両サイドを挟んでいて、これにより海の底に砂が三角錐状に溜まりやすくなっています。その堆積した砂に太平洋からやってきた波が海底でぶつかることで、海面にはより大きな波が生まれ、日本の『ビーチブレイク』としては最高の海岸になるんですよ」

 そんな釣ヶ崎海岸は、観客にとってはどんなところなのか? 果たして、フリー観戦は可能なのか?

 こうした疑問を検証するチャンスが、昨年7月18日から21日の4日間にわたって現地で開催されたテストイベントだった。

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 九十九里浜の南端に位置する釣ヶ崎海岸──。

 主要な最寄駅となるJR上総一ノ宮駅へは、東京駅から総武線に乗って、千葉駅で外房線に乗り換え、所要時間は2時間弱(もしくは、東京駅から京葉線に乗って、蘇我駅で外房線に乗り換えても可)。取材時は上総一ノ宮駅から釣ヶ崎海岸までタクシーで向かったが、五輪本番ではシャトルバスの運行が予定されており、この区間のバスに乗っている時間が20分〜30分になる。

 最終的に、東京駅からの所要時間は乗り換えの待ち時間を含めて2時間半程度という感じだろうか(五輪本番の開始時間次第では、東京駅から始発の電車に乗らないと競技のスタートには間に合わないことも考えられる)。

 その釣ヶ崎のサーフィン会場は、大きく4つのエリアに分かれている。

 まずはビーチを中心とした、文字通り選手たちが競技をする「競技エリア」(①)。

 次に、その競技エリアの目の前に広がる砂浜が、観戦チケットを持っている人たちの「観戦エリア」になる(②)。



②の観戦エリア。スタンドなどは設けられないという

 そして、砂浜をちょっと上がった陸地側は、本部やジャッジルーム、選手やスタッフ用のテントなどが設営される「運営エリア」(③)。



③の運営エリア。競技の進行はここでコントロール

 さらに、運営エリアの脇には「イベントエリア」があり、五輪本番には、ここでサーフィン体験会やミュージックイベントが開かれ、飲食の店舗が並ぶ予定になっている(④)。



④のイベントエリア。まだ原っぱ状態

 そんな中で、観戦チケットを持っていない人たちがフリー観戦するのに適した場所はあるのだろうか?

 じつは競技会場を歩きながら、1ヵ所、目星をつけた場所があった。それが、砂浜の観戦エリアと陸地側のイベントエリアを分けている土堤になる(⑤)。



⑤の土堤。ここもチケットなしでは近づけないことが判明

 海の水が流れ込まないように、周りより一段高く盛られたこの土堤からは、選手たちとの距離が遠くてほぼ”点”にしか見えないとはいえ、それなりに競技の雰囲気を味わうことができそうだった。

 だが、そんな目算はテストイベントにあわせて開かれた説明会で、もろくも崩れ去ってしまう。東京五輪大会組織委員会の説明によれば、観戦エリアはもちろんのこと、隣接するイベントエリアにも「チケットがないと入れない」とのこと。となると、観戦エリアとイベントエリアの境界となる⑤の土堤もチケットなしでは近づけない。

 そこで、釣ヶ崎海岸の脇を走っている県道から競技を見られないかと、海岸の入口に向かってみるが、ここからの海岸はあまりにも遠い……。サーフィンの影も形も見ることができなかった(⑥)。



⑥県道から海の方角を向いても遠すぎて見えず......

 こうした検証の結果、東京五輪本番でサーフィン競技のフリー観戦ができる可能性は、ほぼゼロになってしまった。本当に残念である。

 また、運良くチケットを手に入れることができた人たちにとっても、やや気になる状況が見えてきた。

「海外のサーフィン大会は、観客がスタンド席から応援できたり、砂浜にそのまま座って観戦できたり、競技を終えて海から上がってきた選手を波打ち際まで入っていって称えることができたりするんですよ」(近江氏)というように、サーフィン競技では選手と観客の距離感が近く、両者が一体となって雰囲気を盛り上げるスタイルが主流になっている。

 しかし、テストイベントの説明会では次のようなコメントがあった。

「五輪本番の競技では、特にスタンド席の設置は予定していません。砂浜にブルーシートを敷いて、パラソルを置くことも検討していますが、同時に海辺に柵を設けて、観客が海の中に入るのを禁止することも検討しています」

 ブルーシートに柵? はじめはサーフィン観戦のグローバルスタンダードが五輪本番でも繰り広げられるイメージを思い浮かべていたが、そんな華やかなムードが急速にしぼんでいくようだ。

 確かに、五輪という世界的なビッグイベントであれば、安全面を考慮しなければならないのは仕方がない。だが、あまり管理しすぎてはサーフィンというアウトドア競技ならではの醍醐味が味わえなくなってしまう。会場設営についてはまだ検討中とのことなので、せっかく苦労してチケットを手にした観客が選手たちと一体感を味わえるような観戦方法の実現を期待したい。

 最後に、サーフィンの競技会場で観戦するために欠かせないポイントを近江氏にアドバイスしてもらった。

「まず、サーフィン観戦には熱中症対策が不可欠。それが帽子と水筒、あとはサングラスと日焼け止めになります。そして、競技を見るという点に関しては双眼鏡も持参するといいでしょう。さらに、スタンドがないのであれば、携帯できる折り畳みのイスも忘れずに持っていくといいですね。

 五輪だからといって、ピシッとした服装ではなく、砂浜を歩くので足元はビーチサンダル、それにTシャツ、短パンというラフな服装が一番です。できれば、バスタオルも背負えるバッグに入れて、両手をフリーにして、これから海水浴に行くような格好でかまいません」

 体力温存のため、見る試合を絞ることも大切だという。

「組み合わせ表を見て、例えば日本の男子なら五十嵐カノア選手のヒートだけを見に行くとか、目当ての選手が出る時間に砂浜に行く。それ以外は日陰で冷たいものを飲んで休んでいる。それぐらいのユルイ感じがいいと思いますよ」



サーフィン観戦の心得を教えてくれた近江俊哉氏

 また、近江氏は天候についてもこう忠告してくれた。

「サーフィンはどうしても自然との戦いになりますから、状況によっては競技を行なうかどうかのジャッジはシビアになります。例えば、濃霧であったり、雷であったり、強風であったり、地震であったり、逆に波がなかったりする時にも競技が行なわれないことがあるんです」

 実際、五輪本番ではサーフィンの競技日程は8日間も取られていて、そのうち可能と判断された4日間で競技が実施されることになっている。

 そうなると、観戦チケットを持っていても、競技が行なわれない4日間にかぶってしまったら何も見られないことも覚悟しておかなければならないのだ(※チケットは1日単位で発売されている)。

 とはいえ、たとえ競技を見られなかったとしても、それもまたサーフィン! 前述のように釣ヶ崎海岸には競技開催中の8日間、「イベントスペース」が設置されることになっている。観戦チケットを手にした人たちは、天候によるドタバタも楽しんでしまうぐらいのつもりで、東京五輪の1日を満喫してもらいたい。