日本が誇る韋駄天が、桜のジャージーを着て最後の大舞台に挑む——。

 2019年ラグビーワールドカップ(W杯)で日本列島をおおいに盛り上げた日本代表のエースWTB(ウィング)福岡堅樹(パナソニック ワイルドナイツ)が東京オリンピックに挑戦するために、ついに7人制ラグビー(セブンズ)男子日本代表の候補合宿に合流した。



福岡はセブンズでも世界トップレベルの瞬発力を発揮できるか

「まずはしっかり(オリンピックの)メンバーに選ばれることが大事です。リオデジャネイロ五輪でベスト4に入ったので、それ以上ということで、メダル獲得を目標に挙げたい」

 セブンズの合宿に参加したのは、2016年のリオ五輪に出場した時以来。

「あいかわらずキツそうなメニューをやっているなと思いました(苦笑)。ケガで(参加が)遅れたことに『仮病じゃないか?』といじられたりしながら、和気あいあいと明るい雰囲気で迎えてくれたので、入りやすかったですね!」

 祖父は開業医、父親は歯医者という医師一家に生まれた福岡は、かねてから2019年ラグビーW杯と2020年の東京五輪でプレーしたのち、現役を引退して医学部に入り、医師の道に進むことを公言していた。大学進学時は医学部に合格することはできなかったが、ラグビー選手として成功しても医者の夢をあきらめることはなく、東京五輪後の2020—21シーズンのトップリーグでスパイクを脱ぐ。

 福岡は当初、2019年のW杯後すぐにセブンズに転向する予定だった。だが、1月から始まった2020年のシーズン、開幕戦と第2節に出場して、しっかりトライを挙げてパナソニックの勝利に貢献。

「ラグビーの勢いが今、来ていることを感じています。ラグビー人気を冷めさせず、これを継続させるために、少しですが(トップリーグに)挑戦しました」

 ただ、その出場した第2節で右ひざを負傷してしまい、1月末に行なわれたセブンズの合宿には参加できなかった。所属チームであるパナソニックでリハビリし、2月末からのミニ合宿に参加、そして3月にようやく本格的に合流した。

「まっすぐなら、ほぼ100%走れるようになりました。横への動きができるようになったら、完全復帰します」

 合宿ではまだ別メニューだったが、全体練習への復帰も間近だという。

 セブンズはグラウンドやルールこそ15人制ラグビーとほぼ同じだが、もちろん違いも多い。7人対7人で広いグラウンドを駆け回り、試合は2分間の休憩を挟んだ前後半各7分、そしてオリンピックでは1日2試合・計3日間で行なわれる。

 福岡が大学2年時、「セブンズに行くことが15人制ラグビーでも生きてくる」と言って7人制ラグビー日本代表に福岡を送り込んだのは、当時15人制ラグビー日本代表の指揮官だったエディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)だった。その後も15人制ラグビーと7人制ラグビーの両方でプレーした経験は、大きな財産となったことだろう。

 ただ当然、15人制ラグビーと7人制ラグビーではゲーム性が違う。短時間で何度も長い距離をトップスピードでダッシュする高強度のランが必要となってくる。

 もちろん福岡は、そのことを十分に承知していた。

「自分の身体を、少しパワーからスピード、走るほうに特化していく。広いスペースを与えられたなかで勝負するので、何度もトップスピードで走れるフィットネスが必要になってくる。

 そういうところに特化する形で、体重も少し絞りたい。(ただ)リオ五輪時とは年齢が違うので、ベスト(体重)は違っている。明確な数字より、自分のコンディション、感覚を大事にしたい」

 一方、15人制ラグビーで培ったものもある。過去2大会、ワールドカップに出場している自負もある。福岡は「瞬間のスピードや、15人制ラグビーで培ってきたボールキャリー、ハイボールキャッチ、オフロードなど、生かせるところはあります」と意気込んだ。

 2歩目、3歩目でトップスピードに入ることができる福岡の瞬発力は、間違いなく世界トップレベル。日本代表にとって、大きな武器のひとつとなるだろう。タッチライン際から3メートルあれば突破できるスピードは、相手チームにとって脅威となるはず。本人も「スピードからの決定力には自信を持っている」と胸を張る。

 パナソニックを率いる世界的名将ロビー・ディーンズ監督も、福岡の活躍に太鼓判を押す。

「私はこれまで、ジョナ・ロムー、ダグ・ハウレット、ジョー・ロコゾコといったニュージーランド代表のWTBをコーチしてきました。その3人のWTBと(福岡)ケンキが違うのは、フィールドの上で彼は何でもできる。アタック、ブレイクダウン、ディフェンス……すべての面でチームに貢献してくれる。ケンキがピッチに立てば、チームはどんなことでも達成することができる」

 唯一不安があるとすれば、セブンズの試合でプレーする時間が少ないことだろうか。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、4月に香港とシンガポールで行なわれる予定だった大会は延期となり、東京五輪の会場となる東京スタジアムで行なわれるプレ大会も中止となった。5月、すでに招待されているロンドンやパリでの大会も、今後開催されるかは未知数だ。

 それでも、国際舞台を数多く踏んできた福岡に焦りはない。

「(新型コロナウイルスで)日本を含めて世界各国、いろいろ影響が出ているなかで、実戦は少ないかもしれないですが、それはコントロールできないこと。(大会が)限られた回数しかなければ、そのなかで高いパフォーマンスを発揮するだけです」

 昨年のラグビーW杯に続き、福岡は再びホームで国際大会を迎える。

「自国開催のW杯は、応援でどれだけ力をもらえるかを感じられた。7人制ラグビーはこれまで大きく取り上げられていないので、15人制ラグビーで得た知名度を7人制ラグビーでも活用して、日本を盛り上げていきたい」

 最後に、東京五輪への抱負を聞いてみた。

「自分がどうなっても、最終的に後悔しないような大会にしていければいい。本当に今できることを100%やって、最高の結果を得られるように、目の前のことを一生懸命やっていきたい」

 リオ五輪に出場した福岡だが、この時は大会1週間前にレギュラーの座を奪われ、ベスト4に大きく貢献したとは言いがたい。現在、日本代表候補は30名ほどで、12名しか東京五輪のピッチに立つことはできない。

 ラグビー人生最後となる大舞台で、福岡は有終の美を飾れるか。