「ロナウジーニョはちょっと愚かだ。何が起こっているのか、わかっていない」

 そう言ったのは、ロナウジーニョとその兄アシスの弁護士アドルフォ・マリンである。

「彼には法を犯したという意識はなかった。愚か者だとしか言えない……」



拘置所での様子も伝わってきたロナウジーニョ photo by Reuters/AFLO

 ブラジルで、最近のお騒がせ選手と言えばネイマールだった。そろそろ28にも手が届く年齢だというのに、その行動はいたって子供。ただ、その原因は父親にあると言われている。彼は息子を決して手放そうとしない。ネイマールのことを決めるのはすべて父親だ。幼いころからそう育てられてきたネイマールは、だから責任を負うということを知らない。彼は父親の被害者だという見方もある。

 それと似ているのがロナウジーニョだ。彼の弁護士によると、ロナウジーニョはいつでも兄アシスの言うなりだという。ロナウジーニョにとってアシスは、ネイマールにとっての父と同じ存在だった。

 ロナウジーニョの子供の頃の夢は、アシスのようなプロ選手になることだった。9歳年長の兄は、ブラジルの名門グレミオに入団。また、ロナウジーニョの父は、彼が8歳の時に自宅のプールで溺れて亡くなっているので、兄はロナウジーニョとって父親代わりでもあった。

 やがてロナウジーニョは兄以上の選手となり、兄はその代理人となった。アシスはロナウジーニョがプレーに専念できるように、それ以外のことはすべて取り仕切った。ロナウジーニョはただ楽しくボールを蹴っていればよかった。おかげで彼は今でも夢の国に住んでいて、今回の問題の詳細もわかってはいない。

 しかしロナウジーニョは本当に愚かなのか。100パーセント、ノーだと言える。世界中を魅了したプレーは、愚か者にはできはしない。

 ペレは「もし新たにサッカーの神様と呼ばれる選手がいるなら、それはロナウジーニョ以外にはいない」と、繰り返し言っていた。

 ディエゴ・マラドーナは「ロナウジーニョのプレーを見る度に悲しくなる。彼と一緒にプレーすることができなかったからだ」と言っている。

 リオネル・メッシは「ロナウジーニョは僕にとってすべてだ。兄のような存在で、サッカーは試合に勝つことだけでなく、楽しむものだと教えてくれた。彼のおかげで今の僕がある。僕のヒーローであり、兄弟だ」と語る。

 ロナウジーニョはただ子供なだけだろう。サッカーは彼を夢見させてきた。まるで『千夜一夜物語』のように、多くのお金に美しい女性、華やかなパーティー、スポンサー……望めばなんでも手に入った。彼が笑ってボールを蹴れば、世界は彼にかしずいた。

 今回のパラグアイのパスポートにしても、彼は風変わりなプレゼントぐらいにしか思っていなかったのだろう。

 しかし彼はいまだに、世界でも最も混乱している国のひとつであるパラグアイで拘留されている。そして事件は、彼のあずかり知らぬところで、警察、司法、政治家を巻き込む大きな問題に発展しつつある。

 パラグアイのある大臣は「パスポート偽造にはマフィアが関係している」と言っている。この件で、警察に留め置かれているのは彼ら兄弟だけではない。少なくとも7人のパラグアイ人が捕まっており、政府の役人が2人、責任を取って辞任している。パラグアイの大統領は、真実がわかるまで追求し続けると宣言。一方、ブラジルの法務省はパラグアイ政府に、この件に対する説明を求めている。

 塀の中で過ごすロナウジーニョの様子も伝わってきている。刑務所の食事は彼らの口には合わないようで、3食とも、弁護士がレストランのテイクアウトやロナウジーニョが大好きなハンバーガーを買って差し入れしている。ロナウジーニョは少なくとも日に10回、留置所内の小さな店に行き、冷えたミネラルウォーターを買っている。

 パラグアイの気温は35度、湿度は90%近いが、部屋には扇風機しかない。快適な環境に慣れているロナウジーニョにはつらいだろう。短パンにサンダル姿で他の囚人たちと話をしている写真も撮られている。彼らがいる刑務所には200人の囚人がいて、その中には詐欺罪で捕まった元パラグアイサッカー協会の会長もいる。

 暑さのほかにロナウジーニョ兄弟が悩まされているのが蚊だ。拘置所は木の多い場所にあるので、やたらと蚊が多い。だから弁護士は食事とともに虫よけと、虫刺されの薬を差し入れしている。

 2人の部屋は夜の9時に施錠されるが、それまでは刑務所内は自由に動ける。部屋にはテレビはあるが、トイレとシャワーはほかの囚人と共同だ。

 パラグアイの情報筋によると、最初の数日、ロナウジーニョは非常にフレンドリーだったようで、ほかの服役者のサインの求めにも気軽に応じていたという。だが、数日前からその様子が変わり、あまり部屋から出てこなくなったそうだ。

「彼はかなり落ち込んでいるようだ。2日もすれば釈放されると信じていたようだが、パラグアイの裁判所はそれを許さず、へたをすれば取り調べの続く半年間、勾留される可能性もある」

 彼らが勾留されている刑務所長のサンティアゴ・クエンカは、ロナウジーニョのこうした精神状態の変化を心配している。

「我々は彼らのもとにカウンセラーも送った。彼らは重要な参考人でもあるので、できるだけ心身が健康であるよう心掛けている」

 刑務所では、刑務官と囚人が一緒になったいくつかのチームが作られ、フットサルのトーナメントが行なわれている。ロナウジーニョはこの試合に出るよう誘われ、最初は丁重に断っていたが、最近では参加することを承諾したと言われている。パリ・サンジェルマン、バルサ、ミラン、フラメンゴでプレーした選手の”パス”を今、囚人たちのチームが待ち望んでいる。

 ロナウジーニョには息子がひとりいる。この3月8日に15歳になったが、ロナウジーニョはそれを祝うことができなかった。それどころか、自身の40歳の誕生日(3月21日)も、拘置所内で迎えることになりそうだ。