2020年シーズン開幕で見つけた今季要注目のJリーガー(5)西村恭史(清水エスパルス/MF) J1において、テレビ観戦を含め、過去に一度も見たことがない日本人選手は、そう多くはいない。ライターを長く続けていることもあるが、大抵の選手は、これ…

2020年シーズン開幕で見つけた
今季要注目のJリーガー(5)
西村恭史(清水エスパルス/MF)

 J1において、テレビ観戦を含め、過去に一度も見たことがない日本人選手は、そう多くはいない。ライターを長く続けていることもあるが、大抵の選手は、これまでにどこかで目にしている。名前さえ聞いたことがない選手となると、これは本当に珍しい話になる。

 今季のルヴァンカップ初戦、川崎フロンターレvs清水エスパルスの一戦だった。配布されたスタメン表には、初めて見る名前が載っていた。記者失格と言われそうなので、目を凝らしてみた。

 西村恭史--2018年、清水エスパルスに入団。ルヴァンカップにこそ、出場経験はあるが、J1のリーグ戦でピッチに立ったことはなく、2019年夏には、J2のファジアーノ岡山にレンタル移籍している。



今季の活躍が期待される西村恭史

 だからといって、西村は、J2で十分な経験を積んだうえで、再び清水に戻ってきたわけではない。岡山でも一切、出場機会を得ていないのだ。

 J2の舞台でも一度も出場機会を得られず、再びJ1の清水に復帰するや、即スタメンを飾った。

 岡山でなぜ、出場機会に恵まれなかったか。その理由は定かではないが、それでいながら、清水に戻るやスタメンを飾った理由には、妥当性を感じる。

 身長185cmの、ひょろっとした長身MFは、清水の中で最も目を惹くプレーをしていたからだ。

 試合は1-5。清水は川崎に大敗したが、サッカーそのものは、決して悪くなかった。川崎よりパスワークが冴えた時間もあった。

 西村は、その起点になっていた。

 ルヴァンカップには、U-21の選手を最低ひとり、スタメンで起用しなくてはならない決まりがある。清水にとって、西村はその該当者。試合開始当初は、U-21枠を満たすための要員か、くらいにしか思っていなかったが、気がつけば、筆者はこの日初めて名前を知った20歳のMFと、その対面で構える川崎の、五輪代表に名連ねる21歳のMF田中碧を比較していた。

 その翌週に開幕したJ1リーグ。清水は、ホームのIAIスタジアム日本平にFC東京を迎えた。

 シーズン前の下馬評は、清水が降格争い候補で、対するFC東京は、横浜F・マリノスとともに優勝候補に挙げられていた。

 1-3という結果だけを眺めると、FC東京の順当勝ちに見える。実際、ディエゴ・オリヴェイラ、レアンドロ、アダイウトンの3トップは、終盤、爆発的なプレーを見せた。「FC東京、強し!」を印象づけた。

 だが、清水も捨てたものではなかった。どちらがいいサッカーだったか。目に新鮮だったのはどちらか、との視点に立つと、清水に軍配を上げたくなる。

 その清水で、西村はスタメンとして活躍。Jリーグ初出場を初先発で飾ることになった。

 ポジションは、4-2-3-1の守備的MF。ひと言でいうなら、低い位置で構えるパッサーだ。連想するのは、バルセロナのセルヒオ・ブスケツ。日本のクラブで言えば、横浜FMの扇原貴宏だ。

 清水の監督は、横浜FMで過去2シーズン、アンジェ・ポステコグルー監督を脇で支えたピーター・クラモフスキー。扇原的な要素が不可欠と踏んだとしても不思議はない。

 その指揮官が抜擢した西村は、頭の位置が高く、視野が広い。ショートパスが鋭く、パス回しにテンポがある。長身なのに、バランスもいい。どんな態勢でもけれんみなく、ボールを受けることができそうなのだ。プレーに安心感もある。

 加えて、高い位置に飛び出していく。前方にスペースを見つけては、そこに入り込み、ボールを受けようとする。扇原やブスケツとの違いを挙げるならばそこだ。

 モダンな選手に見えてしまう。強者FC東京を向こうに回しても、臆する様子はなかった。幅の広いオールラウンダー的な動きを、シンプルかつナチュラルに披露していた。

 この選手、新鮮。イケるんじゃない--とは、筆者が抱いた直感だ。

 出身は、大阪の興国高校。同校サッカー部の出身と言えば、ヴィッセル神戸の古橋亨梧がいる。選手のJリーグへの供給能力は、近年増すばかりで、西村の学年だけでも、プロ入りした選手は5人を数える。

 プロに入って2年間、西村は完全になりを潜めていた。表舞台に立つことはあまりなかった。2017年にU-18日本代表候補のトレーニングキャンプに招集されているが、東京五輪の候補選手に選ばれた過去はない。そこに、存在としての面白さを感じる。

 先述のルヴァンカップの川崎戦。西村は、田中碧に代わって川崎側でプレーしたとしても、十分やれたように見えた。続くFC東京戦しかり。西村がFC東京にいれば、その攻撃は外国人選手頼みの現状からもう一歩踏み出した、面白いサッカーができたのではないか。

 実力と知名度との間に、いい意味で最もギャップを抱えた選手。いいサッカーをするうえで欠かせない選手。川崎戦、FC東京戦で、その片鱗を見た気がする。

 リーグ再開後、まず目を凝らしたいのは、この20歳の大型MFになる。