東京パラリンピックに向け様々な競技やアスリートの魅力に迫る、MEN’S NON-NOの連載「2020年TOKYOへの道」。今回は、パラ水泳の視覚障がいクラスのエース候補が登場。彼のスイマーとしての秘めたる矜持に迫った。

「高校生の頃に網膜の病気が判明した瞬間は、宇宙開発関係の仕事に就く夢が一気に吹き飛び、正直、人生が終わったと絶望しました」

 それから十数年。現在の富田宇宙の視力は明るい・暗いが判別でき、目の前の人やもののシルエットがぼんやりわかる程度に。そんな彼が今、パラ水泳の全盲クラスのトップスイマーとして脚光を浴びている。

「幼い頃に始めた水泳は高校でいったんやめました。病気のせいというよりは自分の中でひと区切りつけたくて。そしてまだ視力があった大学時代は2人1組で行う競技ダンスをやっていたのですが、視力の低下によってダンスの第一線で勝負するのが難しくなってきたので他に何かできるスポーツがないかと。そこで、やはり経験のある水泳をもう一度やろうと」

 転機は2017年。病気の進行に伴うクラス変更が、逆に彼をパラリンピックの金メダル候補へと押し上げたのだという。

「当初のS13クラスから、障がいの重度化により全盲のS11クラスに変更となって一気にメダルが狙える位置に。戸惑いはありましたけれど、それをプラスにとらえられるのがパラリンピックのよさでもありますよね」

 競技に臨むうえで最も大切にしているのは、意外にも"根性"なのだそう。

「もちろん泳ぐ技術は重要ですが、それ以上に見えない状態で日々練習場所の確保やタッパー(プールサイドでターンやゴールのタイミングを棒でたたいて知らせる人)の依頼なども自分でマネジメントしながら、練習を積むこと自体が難しいこと。だからめげない気持ちが必要です」

 パラリンピックの金メダルをめざしつつ、こんなビジョンも描く。

「こういう立場だからこそできるダイバーシティに向けた発信など、インフルエンサーというと大げさですが、人それぞれの多様性をより尊重できる社会に変えていくための研究や活動にも力を入れていきたいですね」

【プロフィール】

富田宇宙さん
とみた・うちゅう●1989年2月28日生まれ、熊本県出身。3歳で水泳を始め、高校2年時にしだいに視力が低下していく網膜色素変性症が判明。日本大学卒業後の2012年にパラ水泳と出会い、2017年のジャパンパラ競技大会400m自由形で全盲クラス(S11)のアジア記録を樹立。昨年の世界パラ水泳選手権では400m自由形、100mバタフライでともに銀メダル。今年の東京パラリンピックでの金メダル獲得をめざす。現在は日体大大学院/EY Japan所属。趣味は読書。