新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、日本のプロ野球のオープン戦はすべて無観客試合で行なわれています。そして先日、…

 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、日本のプロ野球のオープン戦はすべて無観客試合で行なわれています。そして先日、日本野球機構(NPB)は3月20日からのシーズン開幕を延期することも決定しました。



2015年に行なわれたMLB史上初の無観客試合

 やはりオープン戦と違い、公式戦で無観客試合を敢行することは球団経営への影響も大きく、苦渋の決断だったようです。斉藤惇NPBコミッショナーは、「個人的な感覚だが、最後の最後の選択、ほとんどあり得ないに近い」と述べていました。

 一方、メジャーリーグはロブ・マンフレッド・コミッショナーと各球団オーナーが電話会議を行ない、3月26日(日本時間3月27日)に予定どおり開幕する方針を固めました。ただ、無観客試合で行なう可能性などについては示唆せず、今後の状況に合わせて方針変更することもあると伝えています。

 そんななか、感染拡大が深刻化するワシントン州のジェイ・インスリー州知事は3月11日、250以上の集会や行事を禁止するという声明を発表しました。それによって、ワシントン州シアトルに本拠を置くマリナーズは3月26日からのホーム開幕7連戦が開催不能となり、場所を移しての開催を検討しているようです。

 マリナーズの開幕戦では、イチロー球団会長付特別補佐兼インストラクターが始球式を務め、第2戦では菊池雄星投手が先発する予定でした。状況がどう変わるのか、気になるところです。

 また、すでに緊急事態宣言が出ているサンフランシスコに本拠を置くジャイアンツも、3月24日にホームで恒例となっているオークランド・アスレチックスとのオープン戦を中止するなど、各地で新型コロナウイルスの影響が出始めています。今後、最悪の場合は無観客試合も検討せざるを得ないのか、予断を許さない状況です(その後、メジャーリーグ機構はオープン戦の中止およびシーズン開幕を最低2週間延期すると発表)。

 メジャーリーグの長い歴史を振り返ると、かつて無観客に近いような試合はありました。1882年9月28日にナショナルリーグのトロイ・トロージャンズ対ウースター・ルビーレッグスという、今はなきチーム同士の試合で、観客がたった6人という記録が残っています。

 また、1966年9月22日に旧ヤンキースタジアムで行なわれたニューヨーク・ヤンキース対シカゴ・ホワイトソックス戦は、約6万5000人収容の巨大なスタジアムにもかかわらず、低迷の続くヤンキースの暗黒時代だったこともあり、観衆わずか413人という今では信じられない不入りでした。

 ただ、1967年のデトロイト、1968年のボルチモア、そして1992年のロサンゼルスで起きた大規模暴動や、1989年ワールドシリーズ開催時にサンフランシスコ周辺を襲ったロマ・プリータ地震、さらには2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件でも、メジャーリーグの試合は延期されたことがあっても、無観客で試合が行なわれたことは一度もありませんでした。

 しかし2015年4月12日、メリーランド州ボルチモアで警察に拘束された黒人男性が死亡した事件を巡り、抗議デモ隊の一部が暴徒化しました。市街地では警察車両の破壊、店舗の略奪、放火などが発生。州知事は非常事態宣言を出し、州兵を動員して鎮圧に乗り出しました。

 そのため、ボルチモアに本拠を置くオリオールズは観客の安全を優先し、4月27日にオリオールパーク・アット・カムデン・ヤーズで予定されていたシカゴ・ホワイトソックス戦を、安全上の理由から試合開始約40分前に急遽中止。マンフレッド・コミッショナーは「ファン、選手、審判員ら試合に関わるすべての人の安全を最大限確保するための決断」と、中止の理由を説明しました。

 また、さらに混乱が続くようなら、ボルチモアから近い距離にある首都ワシントンのナショナルズパークに会場を移して試合を行なう考えも示唆。その後、2日連続で中止が決定しました。

 ただ、メジャーの過密日程の都合上、3連戦すべてを中止にすると、今シーズンの試合が消化できなくなります。そのため、4月29日の試合は異例の無観客試合という形式で、予定より5時間早めて午後2時過ぎに行なうことになったのです。

 こうして、メジャー史上初の無観客試合はボルチモアで行なわれたわけですが、4万6000人収容のスタンドに人影はなく、異様な雰囲気のなかでプレーボールとなりました。

「遠くダッグアウトにいる選手たちの話し声まで聞こえた」

 ホワイトソックスのセンター後方にあるブルペンで待機していたカルロス・ロドン投手が、試合後にそう語ったほどです。それほど静寂したなかで淡々と進み、地元オリオールズが8−2で勝利。試合時間も2時間3分という異例の早さでした。

 その一方で前例のない試合だけに、報道陣は普段の3倍ぐらいの人数が押し寄せ、テレビやラジオは通常どおりの実況中継が行なわれました。また、球場周辺にはフェンスの隙間から覗き見する熱心なファンが数百人も集まり、隣接するホテルのベランダから観戦する人の姿もあったようです。

 ちなみに当時、無観客試合によるオリオールズの損失額はいくらだったのか。

 1試合あたりの観客動員数2万5000人にチケット代平均25ドルをかけ合わせると、入場料収入が約60万ドル。それに駐車場や売店などの収入を合わせると、およそ100万ドル(約1億円)の損失だったと言われています。

 その試合でオリオールズの4番を打ったのは、今年鳴り物入りでオリックスに入団したアダム・ジョーンズ外野手です。当時は「スポーツは黒人・白人に関係なく、人々をひとつにするもの」と残念がっていました。しかし今回、日本のオープン戦での無観客試合についてはまったく異なる状況だけに、「この決定は正しいと思う」と理解を示すコメントを残しています。

 対戦相手のホワイトソックスの先発を務めたのは、現在ジャイアンツに所属するジェフ・サマージャ投手。当時の無観客試合について「あまり楽しくなかった」と振り返り、「やっぱりファンがいない球場ではプレーしたくない」と語っていました。ただ、カリフォルニア州などで緊急事態宣言が出ている感染拡大の状況について、「とにかく人々の健康が一番。野球は二番目だ」と言っています。

 日米ともに新型コロナウイルスが一刻も早く終息に向かい、各地の球場で大勢のファンとともに新しいシーズンが始まることを願う気持ちでいっぱいです。