桃田賢斗は、東京五輪までに本調子に戻るのか。多くの関心が寄せられている。3月6日、交通事故後初めての記者会見をした桃田…
桃田賢斗は、東京五輪までに本調子に戻るのか。多くの関心が寄せられている。

3月6日、交通事故後初めての記者会見をした桃田賢斗
バドミントン男子シングルス世界ランク1位の桃田(NTT東日本)は、昨季、世界選手権を2連覇。BWF(国際バドミントン連盟)の表彰で年間最優秀選手に選出されるなど、輝かしい成績を挙げてきた。東京五輪において、全競技を通じて高い確率で金メダル獲得を期待できる、注目選手として知られるようになった。
ところが、今年1月にマレーシアで行なわれた大会で優勝した翌日、帰国のために現地の空港へ向かう途中で交通事故に遭った。その後、右目の眼窩底骨折が判明して2月8日に手術を行ない、全治3カ月。長期の戦線離脱を強いられた。
実戦に復帰できるのは、早くても5月。予定どおりでも、そこからわずか2カ月ほどで東京五輪が開催される。復調が間に合うかどうかは、東京五輪を楽しみにしている日本のスポーツファンのみならず、世界中のバドミントン関係者の関心となっている。
3月6日に都内で行なわれた記者会見で、手術前に物が二重に見えていた現象が解消していることや、シャトルを打つ感覚に問題がないことなどを桃田自らが語ったが、実際の動きは近しい関係者しか確認していない。会見ではリラックスした表情を見せていたが、右目の涙袋には、手術痕も残っており、あっという間に元どおりというわけにはいかない。
2月29日にようやく所属チームの練習に合流し、身体を動かせるようになったばかり。本人もまだ試合を行なえる状況でないことは明言した。29日から3日間ほどチーム練習に参加して、桃田の状態を確認した日本代表の中西洋介男子シングルス担当コーチは、こう話した。
「まだ(目に)圧力がかかる動きはできないので、軽く流すような、身体をほぐすようなメニューが中心でした。今は、3割くらいの動き。まだ、全体練習に復帰するには、時間がかかりそうだなという印象です。3月中は、同じような調整が続くのではないかと思います。感覚は、そんなに落ちないと思うので、まずは、試合の体力や筋持久力を戻していくこと。どこまで戻るかが心配」
復帰戦は、5月に行なわれる国別対抗戦トマス&ユーバー杯(男子はトマス杯、女子はユーバー杯)が候補と見られている。
ただし、復帰までの道のりは、狂ってしまった。当初、日本A代表は3月11日開幕の全英オープンを戦ったあとに帰国し、19日からインドオープンに向けた合宿を行なう予定だった。桃田は、この段階での代表練習復帰が考えられていた。当然、別メニュー調整になるが、それでも朴柱奉ヘッドコーチ(HC)や中西コーチら代表スタッフが状態を確認し続けられれば、状況への対応はスムーズになる。
ところが、新型コロナウイルスのまん延によって、各国が日本からの渡航を制限する動きが見られるようになったため、日本バドミントン協会はA代表の選手たちを帰国させずに、五輪出場権レースを最後まで戦い切るプランに変更した。
A代表は、英国やマレーシアに拠点を置いて大会に出場。桃田が合流する機会は先延ばしになった。朴HCは、電話で桃田と話し「ステップ・バイ・ステップ。今は、チームで練習して下さい」と声をかけたという。海外合宿中もメールや電話でコミュニケーションを図る。
バドミントンの東京五輪出場権は、直近1年間の成績が反映される4月28日発表の世界ランキングで決まる。桃田は昨季、ハイペースで勝利を重ね、レジェンド(伝説)と呼ばれるスター選手も成し得なかった主要国際大会11勝という快挙を果たし、ランキングポイントを大きく積み上げた。
結果的に、この貯金は非常に価値のあるものになった。桃田は交通事故により、五輪レース終盤戦に出場できなくなったが、それでもなお、他選手が追いつくのは難しく、出場権の確保は確定的だ。ほとんどの大会を休まず、勝ち続けて体力の限界に挑んだ昨季の努力が自身を救う形になった。復帰を急がず、五輪を見据えて活動できることは、現状から五輪の金メダルを目指すうえで、もっとも明るい材料だ。
問題は、やはり五輪に向けて強度の高い練習を積み上げて体力を築き、試合を積み重ねて試合勘を取り戻せるかという点になる。とくに試合数に関しては、不安材料が多い。まず、新型コロナウイルスまん延の影響により、各大会が開催中止や延期になるなど、大会の開催可否が不透明な部分がある。
次に、あまり考えたくないパターンだが、復調が遅れて試合に出た場合、桃田からの金星を狙って全力で挑みかかる相手に早期敗退を喫する可能性も捨て切れない。そうなると、1大会と言っても1、2試合しか経験できないことも起こり得る。その点、中西コーチは「団体戦のトマス杯に間に合うようであれば、桃田個人には利点があるかもしれない」と思案を巡らせていた。
日本が弱小国であれば、桃田が勝ってもチームとして敗退する可能性があるが、現在の日本の総合力を考えると、チームとして上位まで勝ち上がる可能性が高く、選手は多くの試合経験を積める可能性がある。桃田が出場すれば、世界ランクがもっとも高いために第1シングルスでの起用となり、相手のエース格と戦う。万が一、個人で敗れても、チームとしてはある程度勝ち上がれる公算が高い。つまり、質の高いゲームを多くこなせる可能性の高い大会と言える。
もちろん、国の威信をかけた戦いで、負けてもいいということはない。桃田自身も団体戦ではとくに責任感を強く感じて臨むだけに、無理をしてしまう可能性も考慮しなくてはならない。状態によっては慎重な起用法になる可能性もあるが、もし順調にコンディションが回復するならば、トマス杯はさらなる復調のきっかけになり得る要素を多く有していると言える。
桃田は会見で「コートに立つと、どうしても動きたくなってしまうので、セーブすることが課題」と焦らずに調整を進めていく姿勢を示した。早くコンディションを上げたくなるところだろうが、もっとも避けるべきは、無理による新たな負傷や回復の遅れ。実戦に戻った段階で、コンディションが絶好調ではなくても、世界最高峰の技術と、これまでに積み重ねた試合経験を持ってすれば、戦い方を考えていくことも可能なはずだ。
いずれにせよ、まずは約1カ月、リハビリと軽い運動で下地をつくり、4月以降に本格的な練習を再開して、5月にトマス杯で実戦復帰。このプランをしっかり進めることが重要となる。