「東レ パン・パシフィック・オープン」(WTAプレミア/本戦9月19~25日/東京・有明コロシアムおよび有明テニスの森公園コート/ハードコート)の本戦6日目はシングルス準決勝が行われ、大坂なおみ(日本)とカロライン・ウォズニアッキ(デンマ…

 「東レ パン・パシフィック・オープン」(WTAプレミア/本戦9月19~25日/東京・有明コロシアムおよび有明テニスの森公園コート/ハードコート)の本戦6日目はシングルス準決勝が行われ、大坂なおみ(日本)とカロライン・ウォズニアッキ(デンマーク)が決勝進出を果たした。

 大坂はエリナ・スビトリーナ(ウクライナ)を1-6 6-3 6-2で破り、またウォズニアッキは第2シードのアグネツカ・ラドバンスカ(ポーランド)を4-6 7-5 6-4を退け、それぞれフルセットの接戦を制している。

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 過去の優勝経験者である26歳のウォズニアッキと27歳のラドバンスカが繰り広げた激しい試合の余韻さえ、はるか過去の記憶へと押しやってしまうほどの鮮烈な勝利だった。

 大坂とスビトリーナの過去の対戦成績は1勝1敗。今年の全豪オープンでは大坂がストレートで勝利しているが、それでも今大会で全仏女王のガルビネ・ムグルッサ(スペイン)を破った勢いを加味すれば一筋縄でいかない相手であることは明らかで、大坂自身も「以前にも対戦していたから、今日はタフな試合になるとわかっていた」と語っている。

 スビトリーナは球際に強く、大坂の強打にも反応よく食らいつき、簡単にはエースを奪わせない。さらに攻撃力も高く、サービス、フォア、バックとベースラインから放つどのショットも強力で、穴のない相手だ。

 スビトリーナの長所がわかるからこそ、早く決めにいきたいという焦りも生まれたのかもしれない。第1セット、サービスキープで序盤を乗り切りたかったが、1-2から大坂は自身のサービスをダウン。サービス自体は時速190km台をたたき出し、ショットで押してはいるのだが、スビトリーナのコートカバーが大坂のメンタルにプレッシャーをかける。もっと早い展開、もっと速いボールと求めすぎれば、どうしてもコントロールは乱れるものだ。

「リードされて、ビハインドであるということに気持ちがいきすぎた」と大坂。修正できないままずるずると4ゲームを続けて失い、わずか29分でこのセットを失った。

 しかし、ここから大坂は驚異の修正能力を発揮する。セット間にオンコートコーチングで「我慢強く、ボールをコートに入れるように」と、日本テニス協会との契約でコーチを務めるデビッド・テイラーにアドバイスを受けた大坂は第2セットから粘り強く打ち合いにも応じ、ときに緩急をつけてスビトリーナのミスを誘う。

 「サービスでもパーセンテージを意識した」とスライスサーブも駆使してファーストサーブの確率を高めると、ときには閃光のようなセンターへの高速サーブでエース。サービスキープで流れをつかむと、3-2としたあとのリターンゲームではロングラリーに付き合いながら徐々にスビトリーナを追い詰めて、最後はダウン・ザ・ラインへ気持ちよく決める展開でブレーク。ワンブレークで第2セットを奪うと、ファイナルセットは1-2後に5ゲーム連取で試合を決めた。

 敗れたスビトリーナは「私自身はラリーを続けてベースラインで打ち合うというプランだったが、第2セットの終わりくらいから頭がクリアにならず、混乱してしまってうまくプレーできなくなった」と第2セット以降を振り返り、大坂のプレーについて「彼女自身の中でも最高のプレーだったのではないかと思う」と試合後に語っている。

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 スビトリーナはおそらく大坂のゲームプランの変更、そして試合の中での成長に対応できなかったのではないか。それが彼女の「混乱」を引き起こしたのではないだろうか。そして、その高い修正能力は大器の証明でもあるだろう。

 東レPPOテニスでトーナメント・アンバサダーを務める澤松奈生子さんは「修正能力は大会を勝ち切っていくためには絶対必要な力ですが、それをすでに18歳でできているところがすごい」と、大坂が準決勝で見せたその強さの一端について語ってくれた。

 今週、残るはあと1試合。準決勝後、「信じられない。うれしい、本当にうれしい」とコート上で素直に喜びを表現した大坂だが、この1週間の結末が『ワイルドカードからのツアー初優勝』でも『伊達公子以来21年ぶりの日本人優勝』でも、もはや驚くべきことではない。

 ベスト4入りを決めたあと、自身の快進撃について「驚いた部分もあり、驚いていない部分もある。しっかりとプレーできれば、どの大会でもよいテニスができる」と淡々と語っていたが、その言葉を結果で証明したといってもいい。

 今大会は大坂のキャリアにとって長いストーリーのまだ序章に過ぎないが、その序章ですでに私たちはヒロインにワクワクさせられっぱなしだ。

(テニスマガジン/ライター◎田辺由紀子)