2020年の東京五輪・パラリンピックに向けて、スポーツ、そしてアスリートに注目が集まる中、企業とアスリートの関係にも変化が生まれている。双方にとってメリットのある関係を築くために、何が必要なのだろうか? 選手やスポーツ事業を支えている企業人に話を聞いていく。

今回は、大手電機メーカーで東京2020のゴールドパートナーでもある『富士通』。強化運動部として、陸上競技部、アメリカンフットボール部、女子バスケットボール部があり、各競技でトップクラスの選手が在籍。

2014年までアメリカンフットボール部 富士通フロンティアーズの主力選手として活躍し、引退後も企業スポーツ推進室に勤務する白木栄次さんに、富士通がアスリートを社員として雇用し続けている理由を聞いた。

取材・文/佐藤主祥

※スポーツ庁委託事業「スポーツキャリアサポート戦略における{アスリートと企業等とのマッチング支援}」の取材にご協力いただきました。

コンピュータ機器や通信システム、情報処理システムなどを主な事業とする大手電機メーカー『富士通』。加えて、電子デバイスの製造・販売および、それらに関連するサービスなども幅広く手掛けており、IT企業からDX(デジタルトランスフォーメーション)企業として、転換を掲げている。

3つの強化運動部の創設時期やきっかけはそれぞれ異なり、陸上部は1990年、それまで全国各地の事業所で選手としても活動していた社員が集結して発足。現在は、東京五輪・男子マラソン代表の中村匠吾さん、同じく男子50キロ競歩代表の鈴木雄介さんなど、数々のトップアスリートが所属。

そして、アメリカンフットボール部 富士通フロンティアーズは、1985年アメリカンフットボール経験者の社員が集まり、はじめは同好会として始動。女子バスケットボール部 富士通レッドウェーブも同年、選手の“自主性”をスローガンに掲げて創部された。また、サッカーJ1・川崎フロンターレも元々は富士通の運動部の一つで、Jリーグ発足に伴ってチームがプロ化した以降は、メインスポンサーとしてチームを支えている。

これら強化運動部選手のリクルーティングに関しては、各競技界の一線級で活躍している学生から人選される。入社・入部にあたって、プロスポーツチームと大きく異なるのは富士通社員としての採用プロセスを経るという点だ。これについて、企業スポーツ推進室の白木栄次さんはこう説明する。

「もちろん競技力があることは大きな条件です。ただ、採用においてもう一つ重要視していることがあります。それは、富士通が求める人材像であるかどうか。これはアスリートでも一般社員の方でも同じです。いくら日本代表レベルの選手であっても、面接や採用プロセスを通して適した人物であるかどうかを大切にしています」

富士通が求める人材像というのは、大きく3つある。

『未知なるものに対して、楽しんで取り組むことができる人』
『挑戦・探求し続けることができる人』
『困難に立ち向かい、最後までやり遂げることができる人』

これは、アスリート採用においても目指すべき人材像でもある。競技者としてだけでなく、一人のビジネスパーソンとしても活躍できる社会性を持ち合わせているか、または相応の成長意欲があるかどうかも、富士通社員には必要なスキル。

そして、この人材像は、第一線級の舞台で活躍するアスリートこそが一番当てはまるともいえる。好きなスポーツの世界で楽しみ、時には心が折れそうになりながらも、最後まで目標にチャレンジし、さらなる成長を求めていく。そんな人材だからこそ、富士通はアスリートを受け入れ続けている。 社員の採用に関しては『チャレンジ&イノベーション採用』という独自の選考方法もある。

これはスポーツ、文化系、ビジネス関係なく、特定の領域で秀でた才能を持ち、高い実績を上げた人材を対象に実施。自由に自分自身をプレゼンテーション方式でアピールし、面接を経て合否判定が行われる。学歴も問わない、まさに“一芸入社”だ。

「この採用で応募される方は面白い実績を持っている人が多いんです。例えば、スポーツ系だとラクロスの日本代表やライフセービングの日本チャンピオン、大学野球での学生監督経験など、強化運動部以外の様々なジャンルのトップアスリートが採用されています。文化系では将棋の学生チャンピオンだったり、ビジネス創出ではハッカソンで優勝する技術者がいたりと、話を聞くだけでもすごく面白いですね。

その方々の挑戦するマインドや実績に至るまでのプロセスに情熱を感じれば、弊社で働いていただくことになります。入社後には、社内の仕事一本で営業やSE(※システムエンジニア)に専念する人もいれば、自分の競技を個人的に継続する人もいます。それぞれのライフスタイルに合わせて、柔軟な働き方が実現出来るのも弊社の強みですね」

そして、2019年からは強化運動部のアスリート向けに、入社前に『アスリート内定者向け教育プログラム』という制度を設けている。入社直前の3日間“富士通スポーツ”が掲げるビジョンや持つべきマインドを学ぶことで、スムーズに富士通社員としてのスタートを切り、社会人として活躍出来るようにするためだ。

「入社前は“スポーツだけで大丈夫かな…”という不安を抱えています。だから引退後に会社に残って社員として活躍している強化運動部のOB・OGを呼んで、各部の活動内容はもちろん、仕事と競技の両立の大切さや、チームが歩んできた歴史、さらにはキャリアについて対話をしてもらいます。それによって働きながら競技活動をするイメージが湧き、不安を少しでも払拭出来るのではと考えています」

それに加えて、世間からの注目度が高いアスリートだからこそ、働く前に研修をする必要があるという。

「このプログラムには、アスリートとしての品位・インテグリティ(誠実)を高める目的もあります。例えば、SNSの活用方法。トップアスリートの中には、ツイッターのフォロワーが何万人もいる選手もいます。こういう投稿をすると共感を得られるとか、逆にこんな発言をすると炎上するとか。具体的な事例を出しながら、様々なリスクを想定し、意識を高めようとしています」

これまで強化運動部では、廃部や休部になったことがない。これは、それぞれの強化運動部が入社からしっかりとフォローし、問題を未然に防ぐ体制や環境、教育の充実を目指しているからこそといえる。(前編終わり)

(プロフィール)
白木栄次(しらき・えいじ)
1984年3月生まれ、大阪府出身。近畿大学卒業後、富士通へ。入社後は、社会人チームの富士通フロンティアーズでプレーし、2014年にチーム史上初の日本一に貢献。同年に現役を引退。16年4月に青山学院大学大学院青山ビジネススクールに入学し、18年3月に修了(MBA取得)。現在は、富士通の企業スポーツ推進室にて、企業スポーツのマネジメント業務やアスリートの教育プログラムの作成に携わる。それに加えて、スポーツ界を中心とした教育現場の改革を志しNPO法人Shape the Dreamを立ち上げ、学生アスリートを対象に、キャリア教育を行っている。

データは2020年3月12日時点