3月7日に神宮球場で行なわれたヤクルト対ロッテの”無観客試合”を取材した。選手たちは、これまで当たり前のように聞こえて…
3月7日に神宮球場で行なわれたヤクルト対ロッテの”無観客試合”を取材した。選手たちは、これまで当たり前のように聞こえていた歓声がないことに寂しさを覚え、同時にこれまで気づかなかった新たな音に戸惑っていた。
オープン戦とはいえ、ヤクルトにとっては今年初となる本拠地での試合。通常なら球場の周りには熱心なファンの姿が多く見られるのだが、誰ひとりいない。売店の準備に追われるスタッフや、そこから漂ってくる食欲をそそる匂いもない。

無観客のなか開幕に向けて調整を続ける選手たち
午前8時35分、一塁側ベンチで「どんな試合になるのだろう……」とぼんやり考えていると、「コツン」とバットが床を打つ音が聞こえてきた。雄平がルーティンとしている”ひとり早出ティーバッティング”のためにやってきた合図だった。
午後12時35分、シートノックを眺めていると「本日のスターティングラインアップを発表します」という突然のアナウンスと、その音量が異常に大きく感じられることに驚く。選手たちのかけ声もいつも以上によく聞こえ、あらためていつも以上に球場が静かなことに気づかされる。アナウンスが終わると、再び球場は静寂に包まれ、トンボでグラウンドをならす音や、鳥の鳴き声が響く。
午後1時、試合は静かに始まった。はたして、選手たちは無観客のなかでの試合をどのように受け止め、何を感じたのだろうか。
ヤクルトの先発は石川雅規。プロ19年目を迎える左腕は、登場曲とファンの歓声がないなか、マウンドへと向かった。
「普段から試合に入れば音は気にならないのですが、ファンの応援が聞こえなかったということでは……みんなの声援に支えられていたんだということを、今回の無観客試合であらためて感じました」
この日、3番手で登板した中尾輝は、試合終盤の7回からマウンドに上がった。
「シーンとしていて、マウンドに向かう時からいつもと全然違いました。投げている時もいろんな音が入ってきて……。ストップウォッチの”ピッ”という小さい音も聞こえてきて、すごく気になりました。やっぱりファンがいてこそ、ボールに強さが出るというか、気持ちの入り方がまったく違いますね。マウンドへ向かう時に音がない、観客がいないというのは、本当に練習をやっている感覚というか、紅白戦みたいな気分になってしまいます」
ここまで中尾は、オープン戦3試合に登板して、無失点と好調を維持している。
「このまま調子を落とさずにいしたいです。去年は何もできなかったので、今年は取り返したい。そういう意味でも、無観客試合が早く終わってほしいですし、ファンの応援を早く聞きたいです」
吉田大成はこの試合、三塁で先発し、途中から二塁を守った。
「普段の試合では、歓声で相手チームのベンチの声は聞こえないのですが、無観客だとよく聞こえますよね。(paypayドームの)ソフトバンクとの試合では、松田(宣浩)さんはあんなに声を出すんだと知りました。そのことでチームの雰囲気やカラーみたいなものを知ることができました。
それに守備についている時、相手チームの応援はすごく聞こえてきます。それって、すごくプレッシャーになるんです。そういう意味で、無観客ではそのプレッシャーが少し緩和される感じはあります」
上田剛史は「試合でのボールの見え方とかが全然違います。やっぱり、無観客だとアドレナリンがあまり出ていないんじゃないかと……。でも、意外と落ち着ける部分もあるんです」と話した。この日は試合途中から、普段なら熱狂的なスワローズファンを背にするライトのポジションに入った。
「守りやすさという意味では、無観客のほうがやりやすいと思います。打球音がよく聞こえるので判断しやすい。でも、やっぱり寂しいですよね。お客さんがいて、盛り上がってこその野球ですし……。ファインプレーをしても、ホームランを打っても、お客さんがいなければいつもと盛り上がりが違う。まだオープン戦だから割り切っていますけど、公式戦で無観客になったらめちゃめちゃ寂しいと思います。それに無観客だと集中力がどこかで途切れてしまうんじゃないかと」
ライトでスタメン出場した雄平は、ひとり早出練習に始まり、試合後も若手たちと一緒になって”特打”でバットを振り込み、1日を終えた。
「満員のイメージで試合に入りました。打席に入る時は(頭のなかで)登場曲や応援歌も流れていました。できるだけ実戦を意識して……」
無観客のなかでのプレーについては、次のように語った。
「寂しさを感じたと同時に、お客さんのありがたさを痛感しました。お客さんがいるのといないのとではこんなに違うのかなと。いつもなら勝ったら球場でファンの方と一緒になって喜べる。喜びを分かち合える人が多いほどうれしいですから。今回はそういうことを再認識できた、いい期間だったと思えるようにしたいですね」
3月9日、日本野球機構は公式戦の延期を正式に発表した。現段階では4月中の開催を目指しているという。本格的な球春到来はまだしばらく先になってしまったが、ファンの前で選手たちは最高のパフォーマンスを見せてくれるはずだ。