2月27日、FIFA(国際サッカー連盟)はかねてから議論されてきたローン(レンタル)移籍に制限をかけるための新ルールに…

 2月27日、FIFA(国際サッカー連盟)はかねてから議論されてきたローン(レンタル)移籍に制限をかけるための新ルールについて、FIFAフットボールステークホルダー委員会において合意に達したことを発表。今年7月の総会での承認を経て、来シーズンから施行される見通しとなった。



マジョルカにローン移籍中の久保建英

 今回合意された新ルールの対象となるのは、22歳以上の選手。これまで無制限だった1シーズンにおける1クラブの国際間ローン移籍人数は、2020−2021シーズンからは貸出(放出)と借入(獲得)の上限がそれぞれ8選手に、2022−2023シーズンまでにはそれぞれ6選手に制限される。

 さらに同一クラブ間で行なえるローン移籍は、貸出と借入をそれぞれ1シーズン3人までという上限も設けられた。

 また、同国内(同協会)でのローン移籍人数についても、3年の猶予期間を設けつつ、国際間ローン移籍と同じルールを適用することも決定。当然、Jリーグも2023シーズンまでにはこの新ルールを導入することになるため、Jリーグの移籍市場と各クラブの強化策にそれなりの影響を及ぼすことは間違いないだろう。

 とはいえ、日本国内のローン移籍状況を考えれば、3年の間に新ルールに適応することは十分に可能なレベルであり、それほど大きな混乱はないと思われる。

 それよりも、来シーズンから施行されるこの新ルールが、これから海外クラブに移籍しようとする日本人選手に、そして現在海外でプレーする日本人選手にどのような影響を及ぼすのかということのほうが、日本人にとってはより大きな関心事になる。

「今後、日本人選手の海外移籍のチャンスが減ってしまうのでは……」

 これまで多くの日本人選手がローン移籍を足がかりに海をわたった過去の事例を考えれば、そう考えてしまうのも当然だ。果たして、新ルールは日本人選手の海外移籍の障害となり得るのか? それを考えるためにも、まずはFIFAがこのルールを設けた理由と目的を整理しておく必要がある。

 FIFAがローン移籍に一定の制限をかけようとする動きを公(おおやけ)にしたのは、今から約2年前のことだ。ビッグマネーが飛び交い、膨張する一方となった移籍市場を背景に、FIFAは移籍という手段が一部のクラブや代理人によるマネーゲームの道具と化していることを危惧。とくに近年は、ローン移籍が急増していることに着目した。

 たとえば、英国『フィナンシャル・タイムズ』紙によれば、1992年の欧州5大リーグの移籍市場のなかでローン移籍が占めた割合はわずか6%だったのに対し、10年後の2002年には20%に、そして2019年には29%に増加したという。

 しかも、出場試合数による買い取り義務、共同保有方式など、ローン移籍の形態も複雑化した。そのなかで、UEFA(ヨーロッパサッカー連盟)が施行する「フィナンシャルフェアプレー(クラブの財政を健全化するためのルール)」をかいくぐるための抜け道として、脱法的なローン移籍も発生するようになった。

 2017年の夏、パリ・サンジェルマンが1億8000万ユーロ(約236億円)という高額な金額での買い取りオプション付きローン移籍によって、モナコからキリアン・エムバペを獲得したことがその典型例だ。

 同時に、移籍市場で目立つようになったもうひとつの現象が、貸出を前提に有望な若手を格安で青田買いするビッグクラブの出現だった。その手法の使い手としては、イングランドのチェルシー、マンチェスター・シティ、以前のアーセナルなどがよく知られている。

 豊富な資金力を持つ彼らは、まだ自チームのトップ登録には至らない若手選手を繰り返しスモールクラブに貸し出すことによって成長を促し、その選手の市場価値が上がったところで売却。借入側クラブに育成してもらったにもかかわらず、最終的に彼らが多くの利益を手にする仕組みを確立させたのである。獲得に費やした金額は微々たるものだけに、仮に放出時に利益を得られなかったとしても、彼らが懐(ふところ)を痛めることもない。

 こうなると、もはやローン移籍は本来の目的を逸脱した単なる金儲けの手段でしかない。最近はクラブとタッグを組んで、その手法によって莫大な利益を手にする大物代理人の存在が問題視されるようになっており、現在FIFAは代理人に支払われる移籍手数料にも上限を設けるべく議論を進めているほどだ。

 つまりFIFAは、その悪しき傾向に歯止めをかけるべく、ローン移籍に関する新ルールの創設に至ったというわけである。

 今回合意されたローン移籍制限の対象を22歳以上としたのも、「選手の育成にとって、有効かつ公正な目的を実現するための新ルール」とわざわざ謳ったのも、すべてはローン移籍の目的を利益の追求ではなく、若手育成に主眼を置いたものに軌道修正するためである。

 今回の発表に合わせて、FIFAが移籍金の1パーセントを徴収して育成補償金の支払いの一部に融資するための基金を創設したのも、そこに狙いがあるからにほかならない。

 それを踏まえて今後を考えると、ローン移籍で選手を獲得する側は、限られたローン移籍枠を22歳以上の未知数の新戦力に使うより、緊急補強時の確実な即戦力、もしくは青田買いした若手選手の猶予期間として、その枠を使う傾向が強くなることが予想される。

 すなわち、22歳以上の日本人選手がオプション付きローン移籍で海外クラブに移籍するケースが減少することは必至だ。

 たとえば、FC東京からチェゼーナ(イタリア)にローン移籍した長友佑都、最近では柏レイソルからゲンク(ベルギー)にローン移籍した伊東純也のような例が稀になることは間違いない。海外移籍を望む大卒Jリーガーにとっては、そのハードルがこれまで以上に高くなるわけだ。

 もっとも、最近の日本人選手の海外移籍は若年化が進んでいるため、このケースについてはそれほど大きな影響はないだろう。むしろJクラブとしては、プロとしてしっかり土台を作った選手を完全移籍という形態で放出することにより、それなりの移籍金収入を得られるパターンが定着する可能性もある。

 一方、新ルールの対象外となる21歳以下の日本人選手の移籍にはまったく影響しないのかといえば、そうとは言えない。

 獲得する側は、新ルールに対応すべく青田買いの乱用を控えることが予想され、少なくとも6人制限が施行されるまでの今後3年間は、各クラブは年齢を考慮しながら貸出選手の人員整理を行なわなければならないという事情もある。そんななかで、彼らが日本人の若手を新たに青田買いする可能性は低いと見るのが当然で、しばらくは日本人の青田買いも減少することが十分に考えられる。

 また、すでに青田買いされ、現在ローン移籍でプレーしている日本人選手についても、新ルールの影響はあるだろう。

 たとえば、マンチェスター・Cに完全移籍し、現在フローニンゲンにローン移籍している板倉滉は現在23歳なので、今夏の移籍市場では新ルールの対象選手になる。同じパターンでマンチェスター・Cからハーツ(スコットランド)に貸し出されている食野亮太郎にしても、今夏には対象年齢の22歳になる。

 その時、マンチェスター・Cは彼らふたりとの契約をどのように考えるのか。今後の日本人の移籍傾向を予測するためにも、ふたりの動向は要注目だ。

 まだ先の話とはいえ、これはレアル・マドリードからマジョルカにローン移籍中の久保建英にとっても言えることだ。

 R・マドリードに残るのか、あるいは他のクラブに完全移籍するのか。22歳になる以前にどれだけの実績を残せるかどうかが今後のキャリアを左右するため、残された時間は急に制限されることになったわけである。

 いずれにしても、新ルールの施行は日本人選手の海外移籍に少なくない影響を及ぼすだろう。そういう意味で、今夏の移籍市場は注目に値する。