2019-20シーズン、スペイン国王杯決勝に進出したのは、最多優勝回数を誇るバルセロナでも、スター選手をそろえたレアル…
2019-20シーズン、スペイン国王杯決勝に進出したのは、最多優勝回数を誇るバルセロナでも、スター選手をそろえたレアル・マドリードでも、資金力豊富なアトレティコ・マドリードでもない。アスレティック・ビルバオ、レアル・ソシエダという「バスクの古豪」が名乗りを上げた。

スペイン国王杯準決勝でアウェーゴールの差でグラナダを破り、決勝進出を決めたアスレティック・ビルバオ
「バスク」
それはスペイン北に位置する地域を示している。バスク自治州のビスカヤ県、ギプスコア県、アラバ県、そしてナバーラ州のナバーラ県で構成(他にフランス・バスクやいくつかの飛び地がある)。約300万人がバスク人として、民族の誇りを守ってきた。彼らは体格も風貌もスペイン人と一線を画し、独自の言語、文化を持つ。たとえばバスクボールと呼ばれるペロタはサッカーと並ぶ人気スポーツで、どんな村にも会場が存在する。
サッカーでは、「純血主義」が顕著だろう。アスレティック・ビルバオは今もバスク人、もしくは下部組織レサマで生まれ育った選手しかプレーできない。レアル・ソシエダは80年代にその政策を転換したが、むしろ下部組織スビエタの重要度は増し、トップチームの半数近くがスビエタ組。その割合は世界のトップクラブでは群を抜いている。
国王杯ファイナリストの2チームだけなく、バスクからはアラベス、エイバル、オサスナの3チームも、1部リーグで鎬を削る。
スペインを席巻するバスクサッカーの実態とは--。
バスクサッカーの神髄は、「育てる」、もしくは「鍛える」にある。
「我々の人材は限られています」
レアル・ソシエダの育成ディレクター、ルキ・イリアルテはそう言って、論理的に説明した。
「(人材が)少ないことを自覚し、精鋭集団になる必要があるでしょう。そこで、スカウティングが何より大事です。ギプスコア県のすべてのクラブ(約70のクラブ)と協定を結んでいます。有力な選手を供給してもらう代わりに、自分たちは資金や医療を提供。我々を中心にひとつの家族となって、みんなで高め合う、それが理念ですね。そして最小で最高の成果を出すため、日々のトレーニングでは要求をし続けます」
育成網は、地域ごとに張り巡らされている。”虎の穴”のようなクラブもある。シャビ・アロンソ、ミケル・アルテタ、アリツ・アドゥリスが育ったアンティグオコというクラブには、トップチームがない。すなわち、育て、鍛えることだけに特化したクラブとして利益を得て、経営を成り立たせているのだ。
バスク全体に、サッカー選手を独自に育む「土壌」ができている。たとえばレアル・ソシエダは、少年時代、フランスで歯牙にもかけられなかったアントワーヌ・グリーズマン(現バルセロナ)を拾い、一流選手に叩き上げた。今シーズンは、ノルウェー代表マルティン・ウーデゴールが、その土壌に触発されたように輝きを放っている。
バスク人のプレースタイルはスペインで最も激しく熱いが、フェアで卑怯なところがない。仲間のために、ひとりの男として戦えるか。かつては2部にいたエイバルは、「選手を男にする」と言われ、ユース年代のエリート選手がしばしば送り込まれた。有名だったのが、練習後に真冬でも全員が水風呂を浴び、筋肉の疲労を取る習慣。そこで共闘精神とすべてを出し尽くす戦いを学んだ。
「シャビ・アロンソがタックルを会得したのは、プレミアリーグではない。武者修行で送り込まれたエイバル時代だ」
それが通説である。リーガ1部の常連になったエイバルのハード面は昔より改善されたが、気風は残る。言い訳をするような選手は、ピッチに立つことを許されない。
バスク人選手は、バスクのクラブだけでなく、様々な場所で活躍している。国王杯準決勝でレアル・ソシエダに敗れた2部ミランデスも、実は主力はバスク人選手。ここにきて柴崎岳のデポルティーボ・ラ・コルーニャが挽回できたのも、サビン・メリーノ、アヘル・アケチェ、エネコ・ボベダ、ペル・ノラスコアインなどバスク人選手のおかげだ。
また、チェルシーのケパ・アリサバラガ、セサル・アスピリクエタ、マンチェスター・シティのエリック・ラポルト、バイエルンのハビ・マルティネスなど、”バスク産選手”はヨーロッパを舞台に戦っている。
なにより、バスクの伝統は引き継がれる。アスレティック・ビルバオのガイスカ・ガリターノ監督、レアル・ソシエダのイマノル・アルグアシル監督は、どちらもそれぞれのクラブの下部組織の出身選手だった。指導者として戻ってBチームを率い、トップチームを任されている。人を育て、鍛えてきたひとつの結実だ。
バスクダービーとなった国王杯決勝は、4月18日、セビージャを舞台に行なわれる。キーマンは、アスレティック・ビルバオがイニャキ・ウィリアムス、レアル・ソシエダがミケル・オジャルサバルか。どちらもバスクサッカーの今後を担う選手である。