開幕戦を終了した段階で中断を強いられているJリーグだが、開幕週の試合には、順当な結果もあれば、意外に思える結果もあった。 昨季の覇者、横浜F・マリノスが、ホームでガンバ大阪に1-2で敗れた一戦を意外な結果の代表とするならば、昨季、その横浜…

 開幕戦を終了した段階で中断を強いられているJリーグだが、開幕週の試合には、順当な結果もあれば、意外に思える結果もあった。

 昨季の覇者、横浜F・マリノスが、ホームでガンバ大阪に1-2で敗れた一戦を意外な結果の代表とするならば、昨季、その横浜FMと最後まで優勝争いを演じたFC東京が、アウェーで清水エスパルスを1-3で下した一戦は、順当な結果そのものと言えた。

 FC東京の評判は上昇した。ディエゴ・オリヴェイラと、移籍で獲得したレアンドロ、アダイウトンとで組む3FWが試合終盤に爆発。3連続ゴールを挙げて逆転勝ちを収める姿はまさに圧巻で、実際、スポーツニュースもそのシーンが浮き彫りになるように報じていた。

 だが言わせてもらえば、それは、いささか結果至上主義に見えて仕方がない。リーグ戦であるにもかかわらず、トーナメント戦的な視点だ、と。この試合で、逆転負けした清水にスポットを当てた報道は、せいぜい地元メディアぐらいに限られたのではないか。



今季から清水エスパルスの指揮を執るピーター・クラモフスキー監督

 清水が今季迎えた新監督、ピーター・クラモフスキーは昨季まで2シーズン、横浜FMでアンジェ・ポステコグルー監督の参謀役を務めていた人物だ。ポステコグルー監督のサッカーを高く評価するならば、クラモフスキーはまさに気になる人物となる。日本のサッカー界の行方を占う意味でも、そのサッカーは注目に値した。

 その1週間前に行なわれたルヴァンカップ初戦、清水は川崎フロンターレに対し、1-5で大敗していた。ドウグラスをヴィッセル神戸に引き抜かれ、能力の高い左SB、松原后もベルギーのシント・トロイデンに活躍の場を求めて去っていった。さらに、中盤の外国人選手、ヘナト・アウグストもケガで戦線離脱中であることを考えると、今季が苦しい戦いになりそうなことは見えていた。

 だが、1-5という結果はともかく、内容はよかった。選手個々の個人能力で勝る川崎に対して、内容で勝っていた時間さえあったほどだ。昨季とはサッカーの内容がガラリと一変。なにより見映えがよくなっていた。ボール支配率が上昇。パスの選択肢も増えていた。大敗の中にも好印象を抱かせたものだ。ポステコグルーのサッカーに抱いたものと、それはまさに同種の感情だった。指揮官の能力のほどが伺えた。

 1-5の大敗を受けて臨んだ試合後の会見でも、慌てた様子はなかった。クラモフスキーは1978年生まれの41歳。オーストラリアU-17の監督経験はあるが、クラブ監督の座に就いたのはこれが初だ。

 清水は昨季、順位こそ12位ながら、リーグ最多の69失点を喫した、守備に大きな欠陥を抱えたチームとされていた。それでいながら、今季も初っ端から川崎に1-5と大敗した。スコアを見る限り、症状は少しも改善されていない状態にある。

 そのポステコグルー譲りの攻撃的サッカーでは、火に油を注ぐ結果にならないか。守備を固めてカウンター。そのほうがチームの実情に適しているのではないか。そうした懐疑的な声が湧いたところで不思議はない。Jリーグの開幕戦、FC東京戦はそれだけに注目された。

 優勝候補相手にも攻撃的サッカーで立ち向かおうとするクラモフスキー監督。だが、相手のFC東京も今季は攻撃的なスタイルに変身している。けっして高いとは言えない位置に守備のブロックを敷く堅守速攻型の4-4-2から、長谷川健太監督は今季、4-3-3へ脱皮を図っている。

 お互い攻撃的な両者が交わると、ピッチ上にはどんな化学反応が起きるか。心配されたのは当然のことながら清水の方だった。ボコボコにやられてしまうのではないか。川崎戦の大敗を思い出さずにはいられなかった。

 結果は1-3。Jリーグ開幕週に行なわれた9試合の中で、これは0-3でサンフレッチェ広島に敗れた鹿島アントラーズに次ぐ、2番目の大敗劇だった。まだ1試合だが、順位は17位。清水は、最後まで降格圏周辺をさまよった昨季を想起させる嫌な位置に、さっそく立たされることになった。

 しかし、サッカーの内容は悪くなかった。川崎戦よりさらに向上していた。清水がティーラシン・デーンダーのゴールで先制したのは後半2分。それ以前も、それ以降しばらくの間も、試合は清水のペースで進んだ。戦力で劣る清水という弱者が、FC東京という強者を相手に、スコアのみならず攻撃的サッカー度においても勝る姿は、痛快そのものだった。

 まず目に着いたのはSBの位置取りだ。奥井諒(右)と石毛秀樹(左)はそれぞれ、高い位置を取った。どちらのサッカーが攻撃的かであるかを推し量ろうとしたとき、ここはポイントになる。強者のSBがより高い位置を取れるのは当然だが、その反対だった場合=弱者のSBが高い位置を取った場合は、それが意図的であることが明白になる。ベンチからの指示に基づく行動だと考えるのが自然だ。

 その両SBが両ウイング(金子翔太/右、西澤健太/左)と近い距離を保ちながら、サイドの高い位置に起点を作り、コンビネーションプレーを見せると、清水の優位はグッと鮮明になった。

 FC東京に同点ゴール(PK)が生まれたのは後半32分。そこから清水は息切れすることになったが、チャンスがなかったわけではない。追加点をものにすることができていれば、結果は違ったものになっていただろう。1-3は、清水にとってかなり惜しい敗戦だった。もし両者の戦力が同程度なら、あるいはもう少し接近していれば、FC東京は敗れていたと見る。

 清水の戦力は今季のJ1リーグにあって、上位には入らない。「降格候補」なのかもしれない。しかし監督の采配という物差しでは確実に上位にくる。

 まだ開幕週を終えた段階だが、ポステコグルーの参謀役という宣伝文句に偽りなし、と早くも言いたくなる。攻撃的サッカーと効率的サッカーが同義語のように見える、日本サッカーのあるべき道を提示しているようなこのクラモフスキーのサッカー。近い将来、花を咲かせる気がする。