現地時間4月25日、WBA世界バンタム級スーパー&IBF王者の井上尚弥(大橋ジム)が、ラスベガスでWBO王者ジョン・リエル・カシメロ(フィリピン)との「3団体統一戦」に臨む。


4月25日に3団体統一戦に臨む井上尚弥

 photo by Hiroaki Yamaguchi/AFLO

 日本のモンスターがついに”ラスベガスデビュー”を果たすとあって、現地では当然のように話題は井上に集中している。ただ、29勝(20KO)4敗の戦績を積み重ねてきた31歳のカシメロも危険な選手だ。

 これまで10カ国での試合経験がある歴戦の雄と、その陣営は、どのような思いで重要な一戦に臨もうとしているのか。今回、マニー・パッキャオが主催する「MPプロモーション」のプロモーターで、カシメロを傘下に抱えるショーン・ギボンズにじっくりと話を聞いた。

 ギボンズはマネージャーやマッチメーカーなど、約30年にわたってボクシング界に関わり、アメリカ人ながらアジアのボクシングにも精通する人物。カシメロを刺客として送り込む大ベテランの言葉からは、”モンスター攻略”への自信が滲んでいた。

--井上vsカシメロはどんな試合になると考えていますか?

「バンタム級最強の選手同士の対戦だと認識しています。WBA、WBO、IBF、『リングマガジン』のタイトルも含めれば、4つのベルトがかけられた一戦です。昨秋にノニト・ドネア(フィリピン)との激闘を経験したあと、すぐにカシメロのようなタフな相手との統一戦を望んだ井上には脱帽するしかありません。

 今回も激しい試合になるでしょう。エキサイティングな打ち合いの末、後半に入ればカシメロが有利になると考えます。カシメロは過小評価されていますし、井上も彼のような選手とは対戦したことがありません。これまで10カ国で試合をこなしてきたカシメロは、どんな舞台でも臆することはなく自分の力を発揮し、試合後半のラウンドで勝負を決める、というのが私の予想です」



昨年11月にタイトル防衛に成功したカシメロ(左)とプロモーターのギボンズ(右) photo by Reuters/AFLO

--「井上も彼のような選手とは対戦したことがない」とのことですが、具体的にカシメロ選手のどんな部分が独特なのでしょうか。

「井上の能力に疑問の余地はありませんが、彼がこれまでに対戦した最強の相手は37歳のドネアです。全盛期をはるかに過ぎた今のドネアには、もはやカシメロが持っているキラー・インスティンクト(手ごわさ)、若さ、勢いはありません。その相手に井上は苦しみ、年間最高試合を獲得するほどの激闘を演じました。あの試合を見たカシメロは、『自分ならドネアがやり遂げられなかった仕事を果たせる』と自信を深めたはずです」

--能力的な意味で、井上選手につけ入る隙はどこにあると思いますか?

「井上は”モンスター”という呼称に相応しい選手ですが、ディフェンス面に問題があると考えています。ドネア戦でも打ち込まれる場面が見受けられ、今回の試合でもそこがつけ入る隙になるでしょう。カシメロはパワーに加えてディフェンス力も備えており、総合力の高い選手。井上のパワーはとてつもなく、ディフェンス面の不安を補って余りあるものがあるのは事実です。ただ、カシメロが最初の数ラウンドをしのぎ、体が温まってくれば十分に対抗できると私は見ています。最終的には、カシメロのディフェンス面の狡猾さが井上を苦しめることになるでしょう」

--トップランクが主催する4月の試合では、井上選手が主役で、カシメロ選手はいわゆる”Bサイド”になります。勝つためには、KOを狙いにいく必要があると思いますか?

「まず言っておきたいのは、カシメロはキャリアを通じて”Bサイド”で戦い続けてきた選手だということ(笑)。そういう状況は、彼にとってまったく目新しいものではありません。イギリス、タイ、コロンビア、アルゼンチンでも、彼は常に”Bサイド”でしたからね。

 カシメロはトリッキーなパンチも持っています。KOばかりを狙う必要はありませんが、チャンスが巡ってきた場合、彼がその機会を逃すとは思えません。また、今戦のプロモーションは完全に井上が中心になっており、存在が見過ごされていることで闘志をかきたてられているはずです。もちろんこの状況は井上が勝ち取ったものだと理解していますが、カシメロは”番狂わせ”を起こすことに意欲満々です。4月に勝ったあと、日本で再戦をするのも構わないとすら考えています」

--4月の試合に向けて、カシメロ選手の今後のプランを教えてください。

「現在は、フィリピンと気候が似たフロリダ州マイアミでトレーニングを積んでいます。マイアミで5週間のトレーニングを積み、3月17日にラスベガスに移動します。その頃にはベガスも温かくなっているので、そこで井上戦に向けて仕上げていく予定です」

--交渉についても少し話してほしいのですが、井上vsカシメロというカードはかなり早い段階で話題になりながら、発表まで時間がかかった印象があります。遅れた理由は何だったのでしょうか?

「交渉に時間がかかったことはないですよ。(昨年12月の)WBO総会の時点で、井上はカシメロとの対戦希望を公言していましたが、正式なオファーが私たちのところに届くのが少し遅れ、話し合いが始まるのが遅かっただけのことです。実際に交渉が始まったら、3日くらいでまとまったと思います。(井上が契約を結んでいるトップランク社の)ボブ・アラム、”ミスター本田(帝拳ジムの本田明彦会長)”に私たちの希望するファイトマネーの額を伝え、何度かのやりとりの末に合意しました。

 私は、ミスター本田を最大限にリスペクトしており、彼のことを悪く言う人がいたら我慢がならないほどです。これまで岩佐亮佑(セレスジム)vsTJ・ドヘニー(オーストラリア)をはじめ、ミスター本田と何度も試合交渉を経験してきましたが、嫌な思いをしたことはありません。日本という国も尊敬しているし、大好きです。今回も正式オファーが来るまでに時間がかかっただけで、交渉は何の問題もありませんでした」

--あなたはカシメロ選手だけではなく、IBFの指名挑戦者マイケル・ダスマリナス選手(フィリピン)も傘下に抱えています。ダスマリナス選手の今後のプランも話してもらえますか?

「マイケルは3月15日にフィリピンで調整試合を予定しています。そのあと、井上vsカシメロの結果を見て、今後の方針を決めるつもりです。井上が勝った場合には、すぐにでもIBFの指名戦で井上に挑戦したいところ。カシメロが勝った場合は、ダスマリナスとカシメロを対戦させるのは理に適わないですし、その際にはまた方向性を考えることになります」

--井上選手はカシメロ選手に勝ったあと、IBFの指名戦よりも、 WBC王者との4団体統一戦を望むかもしれません。 

「統一戦が組まれた場合は、IBFも指名戦を先送りにすることを許可するので、私たちにそれを止めることはできません。そうなったら、私たちはマイケルにほかの試合を用意するつもりです。マイケルはまだ27歳なので焦る必要はない。2020年の年末までにはタイトル挑戦のチャンスを作ってあげたいですが、まだまだ時間はありますからね」