「障がいのある無しや、年齢に関わらず、多くの人が一緒になってスポーツを楽しむことができれば、人々はもっと輝けるのではないだろうか」。そんな思いを体現しようとするのが、長野県だ。長野県は、日本で唯一、オリンピック、パラリンピック、スペシャルオ…

「障がいのある無しや、年齢に関わらず、多くの人が一緒になってスポーツを楽しむことができれば、人々はもっと輝けるのではないだろうか」。そんな思いを体現しようとするのが、長野県だ。長野県は、日本で唯一、オリンピック、パラリンピック、スペシャルオリンピックスという3つの国際スポーツ大会の開催地としての経験を持つ。その経験をもとに、スポーツを通じた共生社会を作り、全国に広めていく取り組みを発信している。

2018年6月に長野県と日本財団パラリンピックサポートセンターが発表したスポーツを通じた共生社会創造プロジェクト「パラウェーブNAGANO」。プロジェクト名には「子供や高齢者、障がいのある人も、すべての人を巻き込んだ大きなパラスポーツの波」との願いが込められている。

そのひとつとして11日、日本最大規模のボッチャ大会「ボッチャ競技大会第1回パラウェーブNAGANOカップ県大会」が安曇野市・穂高総合体育館で開かれ、地区大会を勝ち進んだ20チームと、招待参加の4チーム全24チームが熱戦を繰り広げた。

接戦となった決勝戦。多くの参加者たちが試合展開を見守った。
参加者は総勢450人。大規模ボッチャプロジェクト

「パラウェーブNAGANO」のような大規模なプロジェクトは、都道府県としては初の試み。昨年11月から12月にかけて県内4ブロックで行われた地区大会では、100チーム・約450人が出場したというから驚きだ。もともと重度障害者のために考案された競技であったボッチャは、ボールを投げるシンプルな特徴から、年齢、性別、障害の有無を超えて、誰もが楽しむことのできるユニバーサルスポーツでもある。

自力で投球が困難な選手は「ランプ」という競技用具を使用。アシスタントに正確な位置や角度を伝えるのもボッチャスキルのひとつ!

阿部守一知事は「誰もが楽しめるスポーツということで“ボッチャプロジェクト”が始まりました。今日参加した皆さんと一緒に、パラスポーツを通じて、誰もがスポーツを楽しめる文化を作っていきたいと思います」と参加者に呼びかけた。

パラウェーブNAGANOに込めた思いを語った阿部守一県知事
子供からお年寄りまで、個性豊かな参加チーム

小学校の児童たちから、職場の同僚、ボランティア仲間まで、参加チームの面々は十人十色。車いすバスケットボール元日本代表の根木慎志さんや、平昌オリンピック・スピードスケート女子チームパシュートの金メダリストで県内出身の菊池彩花さんらアスリートで結成した「日本財団HEROs」チームも参加し、大会を盛り上げた。

会場を盛り上げた日本財団HEROsによるエキシビジョンマッチ

地区大会を勝ち進んできた強者チームは気合十分で、「いいよー!」「ナイスショット!」と周りの応援にも熱が入る。中には白いジャックボールすれすれに会心の球を放つ「ボッチャマスター」も登場し、HEROsチームも思わず「強いなー!」と感心する場面も。みんなが同じ土俵で勝負できるのも、ボッチャならではの魅力。

日本財団HEROsメンバーの根木慎志さんも真剣投球!
長野のレガシー、大会支えるボランティア

大会の主役は選手たちだけではない。真剣な表情でジャッジする審判陣にボランティアの姿があった。イチゴ班やバナナ班など、6つの色別に分かれたコートでは、4、5人の審判員がひとつの班になって、審判、スコアラー、補助員の役割に分かれて試合を進める。審判陣の中には、障がい者スポーツに関する専門的な知識や技術を学んだボランティア、障害者スポーツ指導員の姿もあった。審判班に参加した男性は「これだけ大きな大会で審判をする経験はなかなかないので、こうした機会はうれしいですね」と笑顔で語る。

大会を支えた審判班の方々

阿部知事は長野オリンピック・パラリンピックのレガシーに「ボランティアの存在」を挙げていた。「県内には、長野大会を契機にして生まれたボランティアコミュニティが沢山あります。様々な行事で皆さんが積極的に参加してくださっているのを見ると、そういったボランティアの精神や土壌みたいなものが、今でも受け継がれていると感じますね」と語る。大会全体では、長野県ボッチャ協会をはじめ、スポーツ推進員、学生ボランティアなどが審判班に参加して大会を支えた。大会運営に関わる人も、ボッチャの輪を広げる大切な担い手だ。

阿部知事もボッチャに挑戦!
スポーツから共生社会を。理屈ぬきに楽しめる場が大切

1998年の長野オリンピック・パラリンピック、2005年のスペシャル・オリンピックスを経て、長野県は2027年に全国障がい者スポーツ大会の開催を控えている。東京オリンピック・パラリンピックの開催で、共生社会実現への機運が高まる中、国際大会の聖地・NAGANOが見据えるのは、その先の未来だ。阿部知事は「“共生社会”と一言で言っても難しいかもしれません。でも理屈なしに、今日は皆さんが楽しんで、笑顔になっている。それが共生社会の形なのかなと思います。ぜひ長野では、スポーツを通じてみんなが尊敬し合い、支え合う社会を作っていきたい」と期待を寄せた。

アシスタントの動きを興味津々に見つめる小学生たち。未来のアシスタントになれるかも!
仲間同士で作戦タイム。相手ボールをはじき出す戦略を練るなど、連携プレーも見どころ

試合後、「県内のどこから来たんですか?」「どれくらい練習しましたか?」と、車いすユーザーや健常者が、若者やお年寄りが、ボッチャを通して自然と会話を交わす姿を目にした。多種多様な人が同じ空間で笑顔になる光景には、不思議と優しさや温もりが溢れていた。「パラウェーブNAGANO」の取り組みは、県内ひいては県外に「支え合い」という波を届けてくれるかもしれない。

優勝チームは上田市の就労移行支援事業所の皆さんで結成された「Poison-Apples」。ボッチャ歴3ヶ月ながらセンスある投球が光った。
HEROs賞に輝いた小諸市立水明小学校の児童「虹A」。学校にボッチャの選手が訪れたことをきっかけにボッチャを好きになったとか
県内約60市町村から集まった約100枚のOENフラッグがずらり
1988年の長野大会で使用された公式ポスターも展示されていた

text & photo by Yuri Maruyama