エコー検査は超音波を用いて体の内部を観察する検査方法「エコー(超音波)検査」とは、超音波(人間の耳で聞こえる音よりも周波…

エコー検査は超音波を用いて体の内部を観察する検査方法

「エコー(超音波)検査」とは、超音波(人間の耳で聞こえる音よりも周波数が高い音)を用いて体の内部を観察する検査方法だ。検査する箇所にゼリーを塗って、その上から端末器をあてて体の中を見る。切開したり内部に検査機器を入れたりしないので、苦痛がほとんどない。また、放射線を使わないので、被ばくの恐れもない。

 一般的には内臓の異状を調べるために多く用いられるが、関節部分の異状を調べるためにも用いられる。ただしエコー検査は、液状の物体や軟体の検査には向いているが、骨の内部を見ることはできない。あくまで関節部分の骨の表面や、関節の軟部を調べるために使われる。

「野球肘健診」は、主として野球少年の肘の異状をエコー検査で見つけるものだ。1人にかける時間は5分程度と極めてスピーディだ。「野球肘健診」のエコー検診が最も得意とするのはOCD(離断性骨軟骨炎)を発見することだ。OCDは肘外側にできる障害。「野球肘」とは一般的にはOCDのことを指す。

 OCDは、投球などの動作を繰り返すことで、肘の外側に過度のストレスがたまったり外傷を引き起こすことで、ヒジの外側の骨軟骨に傷が入ったり、剥がれたりする状態を指す。重症になれば患部に痛みを感じることはあるが、軽症の場合は殆ど症状がない。

 しかし、痛みを感じてから病院に駆け込んで治療を受けると、なかなか完治しない。手術に至ることも多い。野球を断念したり、成人になってからも肘が曲がらないなど障害が残ることもある。また、治っても肘関節遊離体(ネズミ)を誘発することもある。OCDが痛みのない初期の段階で見つかれば、一定期間のノースローで野球に復帰できることが多い。

最大のメリットは痛みがないごく初期のOCDも鋭敏に発見することが可能

 エコー検診は、痛みがないごく初期のOCDも鋭敏に発見することができる。これが野球肘健診でエコー検診を受けることの最大のメリットだ。またエコー検診は、受診者とともにモニター画像を見ながら患部を説明することができる。「ほら、ここに筋が入っているだろ、ここが痛んでいるんだ」とその場で説明することで、選手や保護者、指導者も納得しやすい。

「胸郭出口症候群」の発見もエコー検診は得意だ。この障害は、OCDより少し上の年齢、中学生から大学生にかけてよくみられる。胸郭出口症候群は、鎖骨上窩付近の前斜角筋・中斜角筋・第一肋骨で形成されるすきま(胸郭出口)が狭いために、そのすきまを走行する鎖骨下動脈と腕の神経の束が圧迫され、肘に痛みや痺れが現れるものだ。胸郭出口症候群は、早期に発見して治療、リハビリをしないと野球ができないだけでなく、日常生活にも影響が出ることになる。

 胸郭出口症候群は、野球の世界では「血行障害」と言われることが多い。漫画「Major」では、主人公の茂野吾郎がアメリカにわたってから、検診を受けて胸郭出口症候群と診断されるシーンがある。

 胸郭出口症候群は、エコー検診で容易に発見することができる。またエコー端末を当てながら腕を上下させることで、胸郭出口の血流の状態を診ることもできる。特に中学野球の選手で体が大きくて、成長の早い選手の中にはすでに胸郭出口症候群になっている場合もある。腕のしびれなどの症状がある場合は、胸郭出口のエコー検診も受けるべきだろう。この検査も簡単でスピーディだ。

 整形外科であれば、エコー検診機器は設置されているが、一般的なエコー検診は、高齢者のリウマチによる変形などを調べるために行われることが多い。すべての整形外科医がOCDや胸郭出口症候群の診断が的確にできるわけではないので、スポーツドクターのもとで検診を受けるべきだ。そして「野球肘健診」が、近隣で行われるのであれば、その機会を利用するのがベストだと言えるだろう。(広尾晃 / Koh Hiroo)