観客のいないアリーナに、ひと際大きな声が響く——。

 日の丸を身にまとって初めての試合だったが、ライアン・ロシター(PF/宇都宮ブレックス)はオールラウンドな力量と持ち味のリーダーシップを発揮した。

※ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。



初めて日本代表チームに加わったライアン・ロシター

 2月24日、来年開催のアジアカップへの予選となる日本対チャイニーズ・タイペイの試合が、新型コロナウイルスの影響によって無観客で行なわれた。2月21日に千葉で行なわれるはずであった対中国戦が延期となったため、日本にとってこの台湾での試合が2020年の初戦となった。

 試合は、日本が96−57と大差をつけて勝利した。主力数人を欠いた格下との対戦だったこともあり、この結果については特段反応することもあるまい。

 ただし、今年は言わずもがな、東京オリンピックがある。日本代表チームを率いるフリオ・ラマスHC(ヘッドコーチ)は試合に至るまで、「頭にあるのはアジアカップのことで、オリンピックについてはその後に考えていく」と口は硬かったが、このチャイニーズ・タイペイ戦も選手たちにとってはオリンピックへ向けて、選考過程のひとつであったのは間違いない。

 今回選出された日本代表のなかで最も注目を集めたのは、12月に帰化の認可を受け、今回が代表デビューとなったロシターだった。

 誤解を恐れずに言えば、ロシターの記録した17得点に関しては、彼がこの台北の夜に残した数字のなかで最も重要度の低いものだったかもしれない。得点面では昨年のFIBAワールドカップまで帰化枠の選手として日本の中核を担ってきた、ニック・ファジーカス(C/川崎ブレイブサンダース)に分があるからだ。だが、ロシターの強みはそこではない。

 何かひとつ、長所があるわけではない——。

 合宿中、ラマスHCや富樫勇樹(PG/千葉ジェッツふなばし)はロシターについて、そう話した。ロシター自身もそうした評価に、「自分は最も強いわけでも、最も速いわけでも、背が高いわけでもない」と同意する。

 けっして身体能力に秀でているわけではないロシターの存在価値は、攻守のさまざまな局面でチームに貢献できる「万能さ」にある。「得点力が強みではない」と書いたが、実際に彼のジャンプショットはさほどうまいわけではない。シュートフォームもファジーカスに比べると、どこかぎこちなさを感じるところもある。

 しかし、たとえ得点が増えなくても、ロシターの貢献力は高い。身長(206cm)よりもだいぶ長い216cmのウィングスパン(腕を左右に広げた時の左右の手先間の長さ)を生かし、リバウンドやスチールを挙げる。また、スマートで視野が広いから、アシストも多い。

 チャイニーズ・タイペイ戦で記録した19リバウンド、7アシスト、2スチールという成績がフロックでないことは、Bリーグファンならわかるはずだ(ロシターの今季Bリーグでの平均成績は、18.1得点=全体10位、10.5リバウンド=4位、4.3アシスト=17位、1.6スチール=3位と、いずれもリーグ上位)。

 チャイニーズ・タイペイ戦後、「奇妙な質問ですが……」と前置きしつつ、彼に聞いた。奇妙な質問とは、たとえば得点面でひとつ抜きん出て活躍するよりも、攻守でまんべんなくチームに貢献するほうが自身は満足できるのではないか、というものだった。

 すると、ロシターも「こう言うと嘘のように聞こえるかもしれないけど……」と、一拍の前置きを入れてから答えをくれた。

「何よりもまず勝つことこそが、自分にとって究極の目標なんだ。試合は毎回、違う顔を持つものだけど、自分としてはまずディフェンスでしっかりと仕事をすることを意識している。

 そのなかで30点獲ることもあったり、アシストがあまりつかないこともあったりするけど、それは仕方のないこと。試合によっては、ダブルチームを受ける頻度が高くなることもある。でも、そのことでチームメイトが活躍するのなら、本当にうれしい」

 試合前のロシターは、やや意外なことに緊張していたという。

 よく考えれば2013年に日本へ来て7年間、ずっとブレックスでしかプレーしていないのだ。新たなチームで、しかもそれが国を代表するチームとなると、普段は味方を積極的に鼓舞する姿で知られるロシターも、さすがに落ち着かないところがあった。

 両チームと一部の関係者、そして報道陣のみが入場を許された台北のアリーナに、ロシターのとびきり大きな声が響く。ただ、鼓舞しているだけではない。パワーフォワードやセンターを担うため、コート全体を見渡しやすいゴール近くにポジションを取ることが多く、味方に指示を与えている様(さま)がわかった。

「試合だけじゃなくて、練習中もそうなんですけど、しゃべる回数は一番多い」

 ロシターのリーダーシップについて富樫がそう言えば、田中大貴(SG/アルバルク東京)は「たとえばハーフタイムとかでも(ロッカールームへの)帰り際にコミュニケーションを取って、『今のはどうだった?』と積極的に話してくれる」と話した。

 0勝5敗と惨敗した昨年のFIBAワールドカップを受けて、ラマスHCはディフェンス面で相手へのプレッシャーをより強めるなど、強度の高いプレーを選手たちに要求している。そうであれば、頭がよく、即座に相手のオフェンスの意図を汲んで味方に指示できるロシターの存在は、大きいように思える。

「身体的な長所はない」と自ら認めたロシターも、無形のリーダーシップについては矜持を隠さない。

「日本で7年プレーしているし、(Bリーグで活躍する代表選手の)振る舞いや性格などもわかっている。だから、コート上でもコート外でも味方をひとつにまとめようとしているし、コート上では『コーチたちの声』となって、みんなが同じページにいるように努めている」

 ファジーカスがこれまで大きな力となって、日本代表を牽引してきたことは議論の余地がない。ただ、ロシターに加えて、高い身体能力と走力を持つギャビン・エドワーズ(PF/千葉)も1月に日本国籍を取得したこともあり、代表の帰化枠争いは混迷の様相を呈し始めている。

 NBAや日本の群馬クレインサンダーズでのコーチ経験もあるチャイニーズ・タイペイ代表のチャーリー・パーカーHCは日本戦後、「ニックの日本チームへの貢献度はすばらしいものがある」としつつ、「ライアンがいると、日本はより速いテンポでプレーできるし、ディフェンスでのプレッシャーも高められる」と口にした。

「よりスピードのあるライアンのほうが、日本の走るスタイルにはフィットしているのではないか」

 まだ1試合、競合とは言えない格下の相手との対戦をこなしたにすぎない。それでも、今回の代表合宿とチャイニーズ・タイペイ戦を通じて、ロシターが鮮烈な印象を残したとは言えるだろう。

 この試合ではもうひとり、金丸晃輔(SG、SF/シーホース三河)に注視していた者も多かった。

 代表での試合は2014年のアジア大会以来という彼にとって、チャイニーズ・タイペイ戦は上々の出来だった。今回は登録された12選手すべてに出場機会があったなかで(全員が得点も挙げている)、金丸は全体で3番目に多い21分19秒のプレータイムをもらい、結果を残した。

 ディフェンスを強調するチームなだけに、選手には攻守で激しく泥臭いプレーが求められる。それは、金丸も「建前としては」例外ではない。ただ、彼に関してはやはり得点力、とりわけスリーポイントシュート(3PT)を決めることが、今後もこのチームに居続けるための大前提ではないか。

 第1クォーター、金丸はすでにレイアップによって得点を決めていたが、得意の3PTは次のクォーターに入ってから初めて決まった。「どれだけ外れても打ち続けるのがシューターのメンタリティ」とは言うものの、やはり1本決まれば気持ちが楽になるのは彼にとっても同じだっただろう。そこからは「リラックスしてゲームに入れた」と言う。

 金丸は6本の3PTを放ち、そのうち3本を成功させた。大差のついていた第4クォーターの終盤には、1対1から綺麗なジャンプショットも沈めている。

 3PTをそれだけ打てたことについて、金丸は自らに「合格点」を与えた。だが、これは相手がチャイニーズ・タイペイだから可能だったのであって、世界の強豪相手ではそこまでの余裕を与えてもらえないのではないか、という言葉の裏返しのようにも聞こえる。

「仮にワールドカップの舞台に僕がいたとしても、簡単に3PTは打てていないだろうなと。ワールドカップは世界のレベルの高い選手たちが集まるので、シュートどころかボールも持たせてもらえないだろうなと思いました」

 チャイニーズ・タイペイ戦の前日練習後、昨年のワールドカップについて聞くと、金丸はこう話した。

 チャイニーズ・タイペイとの試合では、3本決めた3PTのうち2本は完全なワイドオープンだった。だが、競合との対戦となればまったく勝手が違ってくる。それは、金丸自身も承知している。

 それだけに、味方のスクリーンを使ったプレーからショットを決めるのが日本にとって肝要となるだろう。しかし、チャイニーズ・タイペイ戦ではまだうまく機能していないようだった。

 日本の3PTは個の力というより、味方のスクリーンなどを使って「共同作業」で打つスタイルだ。その点、ロシターをはじめとするビッグマンのスクリーンの強度が「ぜんぜん違っていて、しっかりかけてくれる」ため、金丸は「助かっている」と言う。

 ただ、一方で金丸には、相手のマークマンを少しでも引き剥がして「ズレ」を作りさえすればショットを打ててしまう、おそらく日本で唯一無二の力量がある。ロシターは30歳の日本人スコアラーの力量を高く買っている。

「自分がオフェンスリバウンドを取ったり、ペイント付近でボールを持った時など、最初に探すのは彼。金丸に3PTを打たせるように考える。それくらい頭抜けたオフェンスプレーヤーだよ」

 ワールドカップでの日本の3PT成績を見てみると、1試合あたりの試投数は全体32カ国中、下から3番目となる18.8本。決めた本数はワースト2位タイの5.4本だった。

 ラマスHCは「ワールドカップで自軍が3PTで苦戦したからといって、金丸を招聘したわけではない」と話した。金丸もロングシューティングだけではなく、ディフェンスで求められる働きをすることが代表に残る可能性を高めると考えている。

 それでも、現代バスケットボールにおいて3PTの重要性は増しているだけに、金丸のこの日のパフォーマンスはチームにとって、ひとつの光明となったようにも思えた。

「五輪へつながる試合だと思って参加した」

 6年ぶりに日本代表チームへ戻ってきたクールな男がそう口にした時、言葉には熱がこもっていた。

 来たるオリンピック。世界の強豪が集まる大会での目標を、ラマスHCは「せめて1勝」とした。その1勝を挙げるためにロシターと金丸が一助となるのか、今後も注視していきたい。