2月中旬に開催された世界的スポーツアワード「ローレウス・ワールド・スポーツ・アワード2020」。その会場に各スポーツ界のレジェンドたちが集まった。今回はそのなかの一人で、同アワードのアカデミーメンバーである、ルイス・フィーゴ氏に話を聞…

 2月中旬に開催された世界的スポーツアワード「ローレウス・ワールド・スポーツ・アワード2020」。その会場に各スポーツ界のレジェンドたちが集まった。今回はそのなかの一人で、同アワードのアカデミーメンバーである、ルイス・フィーゴ氏に話を聞いた。

「久保にはフィジカルの強化が必要」と説くフィーゴ

 ルイス・フィーゴといえば親日家として知られており、かつてはバルセロナで日本食レストランを共同経営していたことが有名だ。

 今回のインタビューでは冒頭から「僕は日本が大好きなんだ。日本語を話すのも大好き、だから英語で質問してくれ」と小さなボケで笑いをとり、場の雰囲気を和ませた。機材のセッティングをしながら「長友佑都とは今でも連絡を取ったりするの?」と聞くと「そうだね、ナガトモとも仲は良いけど、連絡を取るのは中田(英寿)だね。彼とはこの間少し話をしたところなんだ」と自ら明かしてくれた。

 そうした、いわばわかりやすいサービストークだけではない。フィーゴは今季から日本でもVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が採用されることも知っていた。

「日本でも、今年から始まるんだよね。テクノロジーというものは、今は日常的なものになっているし、社会のいろいろなところに取り入れられているから、それに順応する必要があると思う。改善点はいろいろあるけれど、選手だけではなく、審判の役にも立つことなので、取り入れるのはいいことだと思うよ」

 現役時代、フィーゴに最大の注目が集まったのは2000年夏のことだ。バルセロナからレアル・マドリードへの移籍。スペインの2強で、最大のライバルへの「禁断の移籍」であった。6000万ユーロ(現レート約72億円)と言われる当時の史上最高額の移籍金が発生したことで本来は感謝されるべきが、バルサファンからは金目当てだという怒りを買った。

クラシコでカンプ・ノウ(バルセロナのホームスタジアム)に帰還すると、コーナーキックを蹴る際には耳をつんざくようなブーイングが鳴り響き、さまざまなものが投げ込まれた。投げ込まれたものの一つに豚の頭があったのには驚いた人も多かったのではないか。

 そのバルサからレアルという道筋に限定すれば、久保建英も同じ道筋を辿っている。フィーゴ”先輩”からはどのように見えるのか。

「私の場合とはまったく違うレベルの話だね。育成レベル間の移籍は、プロからプロへの移籍とはまったく違うもの。でも私に言えるのは、自分のできることを最大限に発揮しろということ。バルサからレアルに移籍したということを忘れて、自分の置かれた状況をうまく活用することが大事だ」



ユーロ2020でポルトガルの連覇を期待するフィーゴ

 言わずもがなではあるが、ルートこそ同じではあるが、ケースとしては比べるべきではないということだ。当時27歳、バルサでひと通りの活躍をしてクラブの象徴的な存在でもあったフィーゴ。同じ年に欧州年間最優秀選手となったスタープレーヤーのレアルへの移籍と、ラ・マシア(バルセロナの育成組織)から日本を経てレアルBへ移籍したばかりの10代の選手では、意味合いがまったく違って当然だ。

 とはいえ、18歳からプロで活躍する選手は現在でも決して多くはない。各チームに一人二人、いるかいないかだ。フィーゴは自身のキャリアをこう振り返る。

「18歳でプレッシャーに感じることはないんだよ。私はどちらかというと楽しくプレーをしていたな。その頃は幸せでしょうがなかった。プロになる目標を実現できて、ただただうれしかった。当時は、プロになるということがゴールで、その先のことなんて考えてなかったから。プロになったあとは、目の前にあることの中から、次のステップのためにベストの選択をすることを心がけていたな」

 久保は18歳、マジョルカの主力の一人ではある。若くしてトップでプレーできているが、先のことを考えると課題がないわけではない。

「彼は才能もあるし知識も持ち合わせているけど、まだ若いからフィジカルの強化に取り組まないといけないね。でも、それは年齢とともに作っていけばいいことで、今はとにかく楽しむことが大事。そして、レアル・マドリードでプレーするために、今ベストを尽くすべきだと思うよ」

 そもそも、若くしてプロのキャリアをスタートさせるということについては肯定的だ。

「若いころから国の代表として戦う機会があると、いろんな大会を経験することができる。そうするとプロになった時にさまざまな知見が備わっていて役に立つことになるんだ。そもそもサッカー選手はキャリアが短いから、若いうちに多くを経験することは大事なことなんだよ。私は18歳でプロになって、36歳までプレーして引退したけど、若い頃の経験はすごく役に立った。あと、選手は若いうちにキャリアを始めて、できるだけ長くプレーするのがいいと思うよ。だって、やめたらもう戻れないのだから」

 久保が1年でレアルに戻りトップでプレーすることになったら、ジダンの下でプレーすることになる。

「私はジダン監督の指導を受けたことがないので全然わからないけど、彼は良い選手、優れたプロフェッショナルを求めていると思う。いつになるかはわからないけど、久保がこれからどんどん成長していけば、レアルでプレーするチャンスは必ず来ると思うよ」

 ひと通り久保について話してくれたフィーゴにとって、今年最大の関心ごとといえば、サッカーの欧州選手権(ユーロ2020)だ。1960年に初開催されたユーロは今回で60周年。それを記念して大会フォーマットが変わり、開催地が欧州12都市に分散される。フィーゴの母国ポルトガルは、前回大会では開催国フランスを破り優勝している。

「私たちは現チャンピオンで、同じことが起きるといいなと思っている。ドイツ、フランスなどと同じグループになってしまったので、とても難しいグループだけど、まずは決勝トーナメント進出が目標だね。60周年でフォーマットが変わって、さらに頑張らなくてはいけけど、より多くのファンに大会のすばらしさが伝わるのならそれはとてもいいことだと思うよ」

多くの外国人プレスがいるなかでも、親しみを込めて日本からの取材陣を歓迎してくれたフィーゴ。その受け答えからうわべだけではない、本当の意味で日本に好印象を抱いていることがうかがえた。