ボクシングのWBAスーパー&IBF世界バンタム級王者・井上尚弥と、俳優の藤原竜也。ジャンルを超えた2人の天才の対談が、2月26日に都内で実現した。



対談後に握手を交わした井上尚弥(左)と藤原竜也(右)

 今回の対談は、WOWOWのボクシング番組『エキサイトマッチ~世界プロボクシング』の30周年を記念した、映画・ドラマ『太陽は動かない』(5月に劇場公開&WOWOWで放送)とのコラボ企画。『太陽は動かない』で主演を務める藤原が「小さな頃からボクシングファン。(井上を)直視できない」と切り出すと、井上も「『デスノート』や『カイジ』などを見ていたので、お会いできて光栄です」と返し、場を和ませた。

 辰吉丈一郎、山中慎介、長谷川穂積といった名だたる王者の試合を見てきたという藤原は、”ボクシング通”の俳優・香川照之に「すごいモンスターが出てきた」と教えてもらって以来、ずっと井上を応援していたという。そのルーツについて問われた井上は次のように答えた。

「父がアマチュアのボクサーで、試合を幼稚園の頃から見ていました。本格的にボクシングの練習を始めたのは小学1年生の時から。鏡の前でステップやジャブの練習を泣きながらやっていましたね(笑)」

 藤原も、14歳という若い時期から”鬼の演出家”蜷川幸雄に鍛えられた。今でこそ多くの舞台、映像作品で活躍する名俳優だが、俳優デビュー作となった蜷川演出の舞台『身毒丸』では、「毎日泣きながら稽古をしていました(笑)。でも、その経験が今に生きています」と、当時を振り返った。

 話はそこから、ボクサーと俳優の共通点に移った。

「演劇は、テレビや映画に向けて役者を育てる場所。演出家の下で稽古をして初日を迎えたら、演出家は”セコンド”について出演者は”リング”に立たされます。何かあれば(演出家が)タオルを投げることもありますけど、基本的には『お前の世界だ』と任されるんです」(藤原)

「準備を経て本番を迎え、当日にやるのは自分という点は一緒ですね。僕は練習メニューでもほかの人に負けたくないと思っていて。そういったことが、結果に出る世界だと思います」(井上)

 藤原も「稽古場でやれなかったことは本番ではできない」と同意しつつ、「僕らの場合はひと月、ふた月という長いスパンで本番がありますが、ボクシングは1日集中。その日をどう迎えるんですか」という質問も。それに対して井上は「朝は落ち着いています。前日の夜は、遠足の前の日のように楽しみすぎて寝られない感覚に近いです」と答え、試合の心境についても言及した。

「リングに上がる直前は緊張感があります。でも、逃げ出したいとかではなく、『早く試合をしたい』という緊張です。(ゴング直前に)両者にらみ合っている時は夢の中みたいな感じですね。国歌斉唱の時は何も考えていなくてボーっとしているので、終わると『うわ、もう始まる』となるんです。試合が始まってからは目の前の相手に集中するので、セコンドとのやりとりなどもほとんど覚えていません」

 そんな井上も、次戦については「プレッシャーを感じる」と明かした。現地時間4月26日、アメリカのラスベガスで行なわれる、WBO王者のジョンリル・カシメロ(フィリピン)との一戦。ボクシングはアメリカで人気が高いスポーツのひとつだが、注目度は重量級のほうが上だ。そのなかでバンタム級の試合がメインを飾ることに、ファンや主催者側の大きな期待を感じるという。

「ラスベガスでアジア人同士が、しかもバンタム級という軽量級の試合をメインにしてくれたことに感謝しています。同時に、求められていることもわかっている。そこに対するプレッシャーはありますね」

 それでも、思い描いている試合展開については「(カシメロは)一発がある。そこに気をつけて、試合の中盤から終盤にかけて削っていきたいと思います」と語り、「豪快なKO勝ちを見せたいです」と力強く宣言した。

 井上は現在26歳。ラスベガスでの初試合でインパクトを残せば、さらに輝かしいキャリアを築いていくだろう。今後のボクサーとしての目標を問われた際には、「ボクサーとしてピークを保てるのは35歳ぐらい。自分のパフォーマンスが落ちてまでやりたくはないと思っています。35歳になった時に『やってきてよかったな』と思えるようなボクシング人生でありたい」と、さらに先の展望も明かした。

 終始、井上への質問が止まらなかった藤原は、「トップを走り続ける大変さや辛さがあると思いますが、家族一同で応援します」と約束し、「大事な右手を失礼します」と恐縮しながら握手を交わした。激励を受けたモンスターは、さらなる高みを目指して突き進む。