神野プロジェクト  Road to 2020(41)

 アスリートが利用するSNS、そしてユーチューブ(You Tube)などの動画共有サービス──。選手はそれを駆使して、自分の競技に対する考えから試合、練習、時世の出来事などについて発信し、写真や動画を投稿している。

 知名度のあるアスリートであれば多くのフォロワーがつき、ちょっとしたことを発信してもリツィートされ、”いいね”がつく。そうしてファンを掴み、増やし、自らのブランド価値を高めていく。



これからも積極的に動画を配信したいと語る神野大地

 神野大地(セルソース)もツイッターとインスタグラムを使って積極的に発信し、最近はYou Tubeも始めた。ツイッターは9万7千人のフォロワーを持ち、「2020年中に大迫(傑)さんのフォロワー数(約14万4千人)を超えたいですね」と自信の笑みを見せる。

「今の僕ができることは、全部見せるってことです。結果が出た時に『じつはめちゃくちゃ努力してきたんです』と言っても、努力の部分って見えないじゃないですか。でも、トレーニングにしても、レースにしても、できるだけ隠さず見せていくと、最終的にトップのレベルにいけば全部がつながると思うんです。そういうプロセスを見せていくことで、それに共感し、応援してくれるひとつのきっかけになってくれればいいですし、あとは単純に陸上界をもっとメジャーにしていきたいという思いもあります」

 つぶやくことでファンが徐々に増え、レースだけでなく、ゲスト参加の大会に行くと多くのファンが声をかけてくれるようになった。また、包み隠さずつぶやく神野の言葉が、スポーツをする子どもを持つ親に突き刺さるなど、思いがけない反応もあった。

「今さら隠すことは何もないですからね。それにSNSを積極的に発信できるのはプロランナーだから。実業団では制限があって、思うように発信できないこともあるけど、僕はプロなので、より多くの人に自分の活動を理解してもらうためには発信力がすごく大事なんです」

 ただ、ツイッターは諸刃の剣でもある。わずか数行のコメントでフォロワーが増え、多くの人に称賛されることもあるが、逆に何気ないひと言で炎上し、ネガティブな声に占領されてしまうこともある。

「コメントについてはすごく考えますね。短いのはそのままの感情で出すこともありますが、基本的に書いたものをため置きしています。何かあった時、それを思い出して少しリライトしてからツイートします。その時と考えが変わっていたりすることがあるので。あと、今は自分の考えを伝えるだけじゃなく、文章を読んでもらってモチベーションが上がるものを考えています。みんなが見て、少しでも『明日も頑張ろう』って思えるような内容を意識しています」

 一時期はアンチの声にへこみ、悔しい思いをすることもあったが、最近はそういう声も少なくなってきているという。

「批判的な声は少なくなったけど、なくなることはないと思うんです。自分がノッている時は、そういう声は気にならないですからね。これからも自分の素直な思いを伝えていけば、みんなに響いていくと思いますし、SNSでみんなのモチベーションを上げたいと思っているけど、同時にそれが自分のモチベーションにもなっているんです。そのためには結果を出さないといけない」

 これまでツイッターを主戦場にしていた神野だが、1月からユーチューブを始めた。開始から10日間で1万人が登録するなど、好調なスタートを切った。

 なぜユーチューブを始めたのかは、神野が自らのチャンネルで語っているとおり、自己発信、正確な情報を伝える、収入の3つを満たすためだ。「やるからには戦略を立ててやる」と、かなり意欲的だ。

 実際に動画を見てみると、神野にしかできないことや撮れない映像が多いことがわかる。ちなみに、今まで配信した動画のなかで好評だったのは『ケニア名物 BIGグループ18キロ走に挑戦してきました!』だ。

「あれは別に深く考えたわけではなくて、『とりあえず撮ってみよう』から始まったんです。実際に撮り終えたものを見ても『これって世間が必要とするものなのか……』って思っていたんです(笑)。でも、アップしたら数字がどんどん伸びていって。体を張った甲斐がありました(笑)。

 考えてみれば、あれは少なくとも日本トップレベルの実力を持ったランナーじゃないと無理で、僕にしかできないことじゃないですか。あれで、みんなは僕にしかできないことを望んでいるんだって、的を得た感じが実感しました」

 その一方で、神野が自信を持って出したケニアの床屋に髪の毛を切りに行く『ケニアで坊主の危機』は、思ったほど再生回数が伸びていない。

「僕が髪の毛を切っているの、みんな興味ないみたいですね……」

 神野はそう苦笑するが、全般的に評価は上々だ。ようやく収入も得られるようになり、2月中旬で数百ドルを計上した。

 動画の撮影、編集は青学時代の後輩がやってくれている。撮影はほぼ一発撮り。神野は自分の言葉で話し、事前に要点だけまとめてあれば完璧にこなす。青学時代にカメラの前で話す機会が多かった経験が、生きているようだ。

 編集にはかなりこだわっている。テロップ、効果音、カットの使用にいたるまで、自ら構成を考えている。今後、配信は1週間に1本のペースで、たとえば日曜日の午後といったように、配信する曜日と時間を固定したいと話す。

「まだケニアで撮ったものがあるので、これから出していきますけど、それだけじゃダメですね。今は新鮮味があって興味を持ってもらえていますが、みんなは何を望んでいるのか、僕のチャンネルにしかないものって何なのかを考えつつ、アンテナを張っていろんな情報を入れていければと思います。今の”いいね”に満足していたら終わりです」

 今後はチャンネル登録10万人を目指していくという。

「いいねって言われるのはうれしいですけど、それだけじゃなく、僕は動画を見た人はなんでもいいので意見を言ってほしいんです。『もっとこうしてほしい』とか、『こういう動画を見たい』とか、厳しいコメントでもいいので残してほしいですね。あと、陸上する以外の人にも見てもらいたいので、そこをどうするかも考えていかないと」

 春からは、子どもを対象にした「目標の立て方」「モチベーションを高めてレベルを上げていく」というプロジェクトが始まる。もちろん、そのためにも競技での結果が求められるわけだが、そうした活動が競技者・神野のモチベーションを上げていることは間違いない。

 SNSをビジネスにも活用し、それを自身のモチベーションにつなげる──そうした取り組みは、神野自身のマラソンと同様に、少しずつ実を結び始めている。