背負った期待と重圧 常に第一線で戦い続け、昨年はオリンピックへの挑戦とともに早大470チームのエースとして活躍を見せてきた田中美紗樹(スポ=大阪・関大第一)。しかし、胸の内には、周りからの期待と大きな重圧を背負いながら試合に挑んできた。彼女…

背負った期待と重圧

 常に第一線で戦い続け、昨年はオリンピックへの挑戦とともに早大470チームのエースとして活躍を見せてきた田中美紗樹(スポ=大阪・関大第一)。しかし、胸の内には、周りからの期待と大きな重圧を背負いながら試合に挑んできた。彼女の4年間を一つ一つひもといていく。

 「絶対6連覇してやる」。そんな思いを抱きながら当時、全日本学生選手権(全日本インカレ)で2連覇中であった早大ヨット部に入学した田中。入部早々、上級生のけがで関東学生春季選手権(春季関東インカレ)への出場のチャンスが巡ってくる。だが、結果は惨敗。「1年生が4年生の1年間を簡単につぶしていいものではない」。ある先輩から言われた一言は田中にチームの一員としての自覚を芽生えさせた。その後の試合では順調な成績を残し、その年の全日本インカレでは優勝。田中自身も落ち着いた走りを見せ、早大の3連覇に貢献した。続く2年時には470級女子の世界選手権で日本人トップの成績を収め、さらに関東学生秋季選手権(秋季関東インカレ)では当時の470級のエースである岡田奎樹(平30スポ卒=佐賀・唐津西)に個人成績で勝てたことで自分の中で自信がついてきたという。しかし、秋季関東インカレで総合優勝を飾って迎えた全日本インカレ。1番艇を任された田中はスタートで出遅れ、本来の実力を発揮できないままチームも2位に。4連覇が懸かった重圧をはねのけることはできなかった。


全日本学生女子選手権の470級で優勝した田中・上園田組のレースの様子

  3年時は上級生としてヨット部を引っ張る立場となる。自分がチームを勝たせるためには先輩に対しても物怖じせず、思ったことははっきりと発言していった。470級の岡田・スナイプ級の永松礼(平30スポ卒=大分・別府青山)という両エースが抜けて、危機感が強くなったチームは春インカレで完勝。全日本インカレでも前年の雪辱を果たした。最終学年となった昨年度は早大ヨット部の活動と並行して、オリンピックへの挑戦に臨んだ。惜しくも五輪出場は叶わなかったものの、世界で上を目指すための取り組み方や活動の仕方を経験。また、強風の状態の中、風上の速度で五輪出場の組に何回か勝てたことで自分の強みを見つけることができたという。「この挑戦が無ければ、自分がここまで成長することはなかった」、そう田中は振り返る。

 

 一方で、チームに対して寄り添うことができなかったことについて申し訳なかったと語った。自らがオリンピックに挑戦する中、大会のために部に帰ってきてもチームとしての成長が見られない。そんなチームを田中は厳しい言葉で突き放してしまったという。結果として、最上級生として戦った全日本インカレでは優勝を果たすことはできなかった。田中はもっとチームに寄り添えていれば、他のチームとの差を埋めることができたのではないかと回顧した。

 早大での4年間では人を動かすことの難しさ、特に、先に物事を伝えなければいけない場合と経験させた後で伝えなければいけない場合との見極めを学ぶことができたという。さらにはジュニア世界選手権や世界選手権を経験し、世界で戦うための技術を磨いてきた。見据える先は「オリンピックで金メダルを獲る」こと。そのためには、できることから全力でやっていきたいと語った。どんな環境でも勝つことができる選手になるために。田中の挑戦はこれからも続く。

(記事 足立優大、写真 町田華子)