ヤクルトの春季キャンプ(沖縄県浦添市)で配布されているメンバーを見て、山田哲人が今年で10年目であることに軽い衝撃を受…

 ヤクルトの春季キャンプ(沖縄県浦添市)で配布されているメンバーを見て、山田哲人が今年で10年目であることに軽い衝撃を受けた。そして山田の練習する姿を見れば、やるべきことを明確に理解し、入念にこなしていることがわかる。

「第1クールでは数を振ることをテーマにしました」

 山田はそう言うと、午後の打撃練習で若手選手たちに混じり、バットを振り込んだ。



これまで3度のトリプルスリーを達成しているヤクルト・山田哲人

「このクールでは遠くに飛ばすというよりも、バットの軌道を意識しながらボールに対して逆らわずに打つ。そのことを意識しながら練習しました。バランスはまだ定まってないですけど、こんな感じかなというのはあります。練習していくなかで、疑問を感じればそこに取り組んで、3月20日の開幕戦にマックスに持っていけるようにするだけです」

 第2クールでは「一度、(足に)刺激を入れるというか、土台づくりをやっておきたかったので……」と特守にも参加。午後のバッティングは、青木宣親、雄平、坂口智隆、アルシデス・エスコバーらとともに”ランチ特打”を行なった。

 山田にプロ1年目のキャンプを覚えているかと聞くと、こう振り返った。

「本当に緊張していましたね。まだ全員の名前も覚えきれてなかったですし、右も左もわからなかった。次はどういう行動をとればいいのかとか、体力以上に気疲れのほうが多かったですね。今は経験を重ねたこともあり、自分で感じたことがあれば行動に移しますし、感覚だけではなく『ここはこうだったな』と頭を使って、考えながら練習できています」

 そして10年後の自分にどんなイメージを抱いていたかという問いに対しては、「未来のことは考えていなかったです」と言った。

 山田はプロ4年目の2014年に、日本人右打者として年間最多安打(193本)の日本記録を樹立。2015年は打率.329、38本塁打、34盗塁で”トリプルスリー”を達成し、プロ野球史上初となる同一シーズンでの本塁打王と盗塁王のタイトルも獲得。2016年、2018年にも “トリプルスリー” を達成するなど、球界最高峰の選手として君臨している。

「もちろん『こうなりたい』というイメージはありました。たとえば、日の丸を背負いたいとか……。でも、本当になれるとは思っていなかったので、日本代表に何度も選んでいただいたことには、自分が一番驚いています」

 そして山田は、国際大会での経験が自身の経験にもつながっていると話した。

「いろいろな人とコミュニケーションが取れる場所ですし、この選手はこういう考え方をしているんだなってわかったりもします。まず味方の選手からいろいろ話が聞けて、試合となればいろんなスタイルの野球を知ることができます」

 今年の夏、東京でオリンピックが開催される。オリンピックについて聞くと、山田は「特別ですね」と言い、こう続けた。

「野球以外にも各国のアスリートが集まりますし、オリンピックって誰もが小さい頃から見ている舞台だと思います。金メダルを獲ることが今年の目標のひとつではありますが、一番の目標はチーム(ヤクルト)が勝つことです。そのためにバッティング、守備、走塁で結果を出して、チームを引っ張っていければと思っています」

 個人としての数字については、「一つひとつの項目で、今まで以上の成績を残すことができればと思っています」と言うが、求められるハードルが高くなることにストレスを感じることはないのだろうか。

「正直なところ、すごくやりづらいです。でも、そういう(プレッシャーの)なかでやってきた方は過去にたくさんいます。僕は2017年に(高いレベルの成績を)続けることの難しさを初めて学んで、その時に何年も何十年も活躍を続ける人はすごいと思いましたし、僕にとってトリプルスリーは永遠の目標です」

 2月23日、山田はチームの遠征には帯同せず、青木、エスコバーらとともに居残り調整となった。練習を見守っていた杉村繁打撃コーチは、山田について次のように語る。

「山田と出会ったのは、彼の入団3年目の時だったかな。当時、僕は二軍の打撃コーチだったんだけど、山田に『どんなバッターになりたいんだ』と聞いたんです。すると、『ホームランを打ちたい』と。そこで『バレンティンみたいに打てるのか』と問うと、『それは無理です』と言うから、『だったら広角に打って打率を残し、ホームランを10本から20本打って、30盗塁すればプロの世界で長く生き残れるだろう』と。すべてはそこから始まりました。

 10年目を迎えベテランの域に入ってきたけど、打率、本塁打、打点、盗塁とすべての部門で常にトップ争いをしている。なによりケガに強い。今も大学生みたいな体つきだけど、どこにそんなパワーと強靭な精神力があるのか……。いつも不思議に思っています(笑)。それにしても年々、大人になっていますよね。後輩の面倒も見るというか、自覚や責任感も出ている。シンプルに、いいプロ野球選手になったなぁと思います」

 青木の「いこうぜ、いこうぜ」のかけ声で3人の打撃練習が始まる。山田にトスを上げるのは杉村コーチで、これは7年前と変わらない風景だ。

「今年は山田につきっきりでティーを上げることはないと思います。もう調整の仕方もわかっているし、バッティングに自分の信念を持っているので、僕が言うことは何もないですよ(笑)。でも、そんな山田に一度だけ『えっ⁉』と思ったことがありました。ふたりでティーをしていたら『杉さんを信じていたら打てますよね』って言ったんです。その時は、自分自身がちょっと不安だったのかもしれないですね」

 この日の浦添は「雲ひとつない」と青木が言ったように晴れわたり、そんななか山田の打球は快音を響かせて外野へと伸びていく。

「今の時期は結果を求めていないですし、自分の求めている打撃フォームというか、感覚を大事にしたいと思っています。このキャンプを通じて、ちょっとずつですが、自分の目指しているところに近づいています」

 前人未到の3度の”トリプルスリー”をはじめ、これまで何度も山田には驚かされてきたが、プロ10年目の今季も我々の想像を超える活躍を見せてくれるに違いない。