NPB9球団が春季キャンプを張る沖縄県で、ひっそりともうひとつのプロ球団がキャンプを送っている。 チームの名前は「琉球ブルーオーシャンズ」。沖縄に初めて誕生したプロ球団である。1月25日から八重瀬町の東風平(こちんだ)運動公園野球場でキャ…

 NPB9球団が春季キャンプを張る沖縄県で、ひっそりともうひとつのプロ球団がキャンプを送っている。

 チームの名前は「琉球ブルーオーシャンズ」。沖縄に初めて誕生したプロ球団である。1月25日から八重瀬町の東風平(こちんだ)運動公園野球場でキャンプを張っている。

 チームの全容は球団の方針もあり、厚いベールに覆われている。ロッテ、DeNAで活躍した清水直行が監督に就任し、田尾安志アドバイザー、寺原隼人コーチ、井手正太郎コーチら首脳陣も元NPB組で固める。さらに選手は吉村裕基(元ソフトバンクほか)や亀澤恭平(元中日ほか)のような実力者を含め、元NPB選手が9人も所属する。



琉球ブルーオーシャンズの初代監督に就任した清水直行

 ブルーオーシャンズが特殊なのは、国内独立リーグに所属することなく活動し、将来的にNPBへの参入を目指していることだ。つまり、今年度は公式戦を戦うことなく、NPBのファームや海外のプロ球団、社会人チームなどと非公式戦を行なう。

 大手企業がスポンサーに名を連ね、選手の最低年俸は240万と独立リーグ球団と比較すると破格の条件である。とはいえ単純な疑問として、リーグ戦を戦わない以上、年間通してどんなモチベーションで活動するのだろうか。清水監督に聞くと、明快な答えが返ってきた。

「チームとしてはNPBに参入できる時を待つ。選手たちはNPBへの復帰、もしくはドラフト指名を受けることを目指す。また、指導者としての経験を積みたい人間の受け皿にもなれたらと思います」

 昨季限りで中日から戦力外通告を受けた亀澤は、選手兼コーチとして所属する。自身の練習をこなしながらも、選手にノックを打つなど指導者としての顔ものぞかせる。亀澤はブルーオーシャンズに加入した理由を「新しくつくるものに最初から携われることが一番」と語った。

 亀澤に楽しみな若手選手がいるかを聞くと、「いませんね」と即答だった。

「プロ意識がないですから。野球を知らないし、取り組みが子どもの選手が多いので。まだ『野球』の『や』の字の段階ですね」

 とはいえ、元NPB選手のなかには若くして戦力外通告を受け、まだまだ動きにキレのある者もいる。だが、亀澤は「数年でクビを切られるということは、内面に問題があるということ」と手厳しい。

「自分で気づかないと、いくら能力があってもそのまま終わります。そうやって消えていく選手をNPBで何人も見てきましたから」

 亀澤自身、エリートコースとは程遠い野球人生を歩んできた。国内独立リーグの香川オリーブガイナーズから育成ドラフトでソフトバンクに入団し、中日では二塁のレギュラーを奪った年もある。そんな亀澤からすれば、若手への歯がゆさが口をつく。

「独立リーグなら年収は100万を切りますけど、ここでは最低240万はもらえます。でも、試合をしたら独立リーグのチームにまず気持ちで負けますよ。懸命にやればいいというものではないですが、考えひとつで変わっていきますから。まずは高校野球のようなやらされる野球から卒業しないと」

 選手のなかで実績ナンバーワンはNPB通算131本塁打を放っている吉村である。今年36歳になる吉村は「まだ選手としてやれると思っているし、若い選手と一緒にプレーすることで学ぶことがいっぱいある」と考え、入団を決めた。

 昨年は、ソフトバンク時代のチームメートであるリック・バンデンハークの仲介を受け、オランダリーグでプレーしている。

「バンデンに『野球をやめるときは最後にオランダに行きたい』と言っていたんですよ。思ったより早いタイミングになってしまったんですが……」

 渡蘭当初、吉村は相手投手が投じるボールが「チカチカして見づらい」ことが気になったという。やがて、その理由が判明する。

「向こうの球場はバックスクリーンがないからボールが見づらかったんです」

 日本でいかに自分が恵まれた環境で野球をしていたか、身に沁みた。

 年齢的にNPBに戻ることが困難であることは承知している。それでもモチベーションを保って練習に臨む理由は何か。吉村に聞くと、こんな答えが返ってきた。

「NPBに戻れるかは周りが判断して決めることなので、僕は与えられた環境で悔いなく野球をやるだけです。若い選手に恥ずかしい姿を見せられないですから」

 清水監督も「NPB出身選手が軽いプレーを見せると、若い選手もこんなもんでいいんだとなってしまう」と元NPB組が手本になることを期待する。

 打撃練習中、NPB出身者ではない背番号33の左打者が快音を響かせていた。柳田悠岐(ソフトバンク)ばりのフルスイングから、長打性の当たりを連発する。その打者は地元・沖縄出身の大城駿斗だった。

 進学校の那覇国際高から一般入試で筑波大に進んだ秀才は、身長183センチ、体重86キロと恵まれた体格もあり、大学入学当初から強打者として期待された。

 だが、練習では打てるのに紅白戦など実戦になるとからっきし。リーグ戦出場はおろか、ベンチに入ることすらできなかった。それでも、4年秋にかけて徐々に紅白戦で結果を残せるようになり、大学最後のリーグ戦で初めて代打起用される。しかし、見逃し三振で大学生活を終えた。

「まだあきらめきれない思いが残っていました。4年になってから打てる感じをつかめてきたので、もう少しやればつかめるんじゃないかと思いました」

 筑波大の同期の加藤徹にブルーオーシャンズが創設されることを聞き、一緒にトライアウトを受験して入団した。

「地元でプレーできることを誇りに思いますし、高校の先生や友人たちも『応援行くからな』と声をかけてくれます。沖縄にいい影響を与えられるチームにしたいです」

 球団の親会社である株式会社BASEの北川智哉社長は、球団の今後の見通しについてこう語る。

「まずNPBがエクスパンション(球団数拡張)の流れになることが大前提ですが、3年で基礎をつくり、4年目にNPB参入準備、5年目に参入するのが理想です」

 ソフトバンクの王貞治球団会長が1月に出演したテレビ番組で「4球団増えて16球団になってほしい」と発言したこともあり、北川社長は「参入がいいほうに早まる可能性もある」と期待を込める。また、「赤字部署をつくってもしょうがない」と球団として独立採算がとれると自信を持っている。

 今後の試合予定など、まだ明かされていない謎は多い。琉球ブルーオーシャンズは、野球界に新たな波を起こせるのか。その動向から今後も目が離せない。