“キング”三浦知良をはじめ、中村俊輔、松井大輔、レアンドロ・ドミンゲスと、13年ぶりにJ1の舞台に戻ってきた横浜FCには、日本サッカー史に名を刻む錚々たるメンバーが揃う。横浜FCは多くの若手をスタメンに抜擢した もっとも、彼らの姿はピッチに…

“キング”三浦知良をはじめ、中村俊輔、松井大輔、レアンドロ・ドミンゲスと、13年ぶりにJ1の舞台に戻ってきた横浜FCには、日本サッカー史に名を刻む錚々たるメンバーが揃う。



横浜FCは多くの若手をスタメンに抜擢した

 もっとも、彼らの姿はピッチにはなく、観客席にあった。コンディションの問題か、あるいは翌週に控えるJ1開幕戦を見越したものなのか。ピッチに立ったのは、下平隆宏監督が「現時点でのベストなメンバー」と自信を持って送り出した、平均年齢25歳ちょうどのフレッシュな面々だった。

 リーグ戦よりもひと足先に幕を開けた、今季のルヴァンカップ。横浜FCはホームにサンフレッチェ広島を迎え、13年ぶりにJ1チーム同士の戦いに挑んだ。

 スタメン11人のうち、GKの六反勇治をのぞけば、J1でのプレー機会が少ない選手ばかり。瀬古樹、齋藤功佑、中山克広、松尾佑介の4人にいたっては、まさに初体験だった。

 カップ戦であるから正確にはJ1デビューとは言えないが、J1開幕を翌週に控えるなか、広島もベストメンバーでこの試合に臨んでおり、レベル的にはリーグ戦と遜色ない。

 果たして横浜FCは、J1でも通用するのか--。今季の行方を占う試金石の戦いとなった。

立ち上がりは悪くなかった。積極的にプレスをかけて相手の出足を封じ、バイタルエリアに侵入されても、隙を与えない対応でチャンスを許さなかった。

逆にボールを奪えば、活きのいいサイドアタッカーを活用し、果敢にゴールに迫っていく。10分には素早いサイドアタックから、トップ下を務めた齋藤が惜しいシュートも放っている。

 より目についたのは、守備面だ。

「勇気を持って、前からプレッシャーをかけにいくことをトライしたので、そこはよかったと思います」

 できた点を問われた下平監督は、そう答えた。ただし、プレッシャーをかけても思うようにボールを奪えなかったことも認めている。

「たとえば前からプレッシャーに行った時に、いつもなら相手に蹴らせて、はね返したボールを回収できるところが、収められてしまったり、セカンドボールが相手に転がる確率が高かったりして、ペースを握れなかった」

 J2では成り立っていたプレーが、J1チーム相手には思うように通じない。そうした現実を目の当たりにし、次第に広島ペースに飲み込まれていった。

 25分に先制点を許すと、無理をしなくなった広島の守備はより強固となり、攻め手を失っていく。さらに痛かったのは、後半早々に2点目を失ったこと。

 この時間帯、広島は追加点を奪おうと、前からのプレッシングを強めていた。そのプレスを横浜FCはかいくぐれずに、ビルドアップで痛恨のミスを犯してしまう。危険な位置でボールを失い、2点目を奪われてしまったのだ。

「2失点目のミスは痛かった」

 そう悔やんだ下平監督は、「目に見えない圧というか、アプローチのスピードやプレッシャーのところで、レベルが違うと感じました」と、力の差を痛感していた。

 当然、経験の浅い選手たちがひとつ上のレベルに身を投じたのだから、戸惑うことは多かっただろう。2点のリードを奪われたあとも、余裕を持った広島の堅守を打ち破ることができず、ほとんど反撃の糸口を見いだせないまま、敗戦を受け入れている。

 それでも、横浜FCが降格候補かと問われれば、首を縦に振るのを躊躇する。ただ守って一発のチャンスにかけるチームとは異なり、ボールを大事にする意識は高く、守備組織もしっかりと整備されていた印象を受けたからだ。

 齋藤、松尾、中山と20代前半の選手が務めた2列目も、攻撃スキルの高さを感じさせ、途中出場を果たした18歳の斉藤光毅もポテンシャルを垣間見せている。彼らに足りないのは「経験」の二文字にほかならず、トップレベルの試合を重ねるなかで劇的に成長を遂げていくことは想像に難くない。

 求められるのは、プレーのクオリティだろう。J2ではごまかせていた部分も、J1では通用しなくなる。そのディティールを突き詰めていく作業が、残留へのキーファクターとなるだろう。この日、キャプテンマークを巻いた齋藤も、相手の力量より、自分たちの質の向上が求められると主張した。

「最後の勝負どころだったり、個人のスキルや考え方、アイデアの部分を向上していかないといけない」

 課題を口にした齋藤は、ひと呼吸を置いてこう続けた。

「慣れていけば、やれないことはないと思います」

 J1レベルを初めて経験する選手が多かったなか、リーグ開幕前にその機会を得られたことは、横浜FCにとって大きなアドバンテージとなるだろう。

「なかなか決定機も作れず、苦しいゲームという印象です。ただ、キャンプからトライしてきたこと、しっかりとゲームを作っていく段階で、できたこととできなかったことがハッキリ見えたので、収穫はあったのかなと思っています」

 指揮官は、完敗のなかにも確かな希望を見出していたようだった。

 そして、経験不足なこのチームにとって何より大きいのは、スタンドに居並んだ経験豊富なレジェンドたちの存在だ。彼らが若いチームに、どうかかわってくるのか。これもまた、今季の横浜FCに求められる重要なテーマとなる。

 2月23日、J1リーグ開幕戦の相手はヴィッセル神戸である。アンドレス・イニエスタ擁する強豪相手に、横浜FCはどのような戦いを見せるのか。番狂わせを演じる可能性は、決して小さくないはずだ。