経験は宝だ。15日のスーパーラグビー(SR)。日本のサンウルブズはチーフス(ニュージーランド)に17-43で敗れ、開幕2連勝とはならなかった。だが、新星の早稲田大学4年、SH(スクラムハーフ)齋藤直人が光り輝いた。SR初先発の緊張を楽しむかのごとく。



早稲田大学卒業後の活躍も期待される齋藤直人

「楽しかったです。負けましたけど、もっともっと試合に出たいなと思いました」

 試合後のミックスゾーン。齋藤は言葉に充実感を漂わせた。試合中に切ったのだろう、口の下に貼られた2枚のバンソウコウに血がにじんでいた。

「収穫は?」と聞かれると、「そーですね」とSHはつづけた。

「うまくいかない試合を経験できたことじゃないですか。ただ、このままで終わらせるんじゃなくて、こういう状況でも試合を組み立てたり、自分がいいプレーをするために周りとコミュニケーションをとったりしていきたい。次につなげないと意味はないですから」

 初戦では後半20分間、プレーした。その初戦で主力のSHルディー・ペイジがケガをしたため、齋藤にめぐってきた先発チャンスだった。自分に課したテーマが「アタックのコントロール」。

 大学選手権では主将として早大を優勝に導いたが、大学とSRとのレベルは格段にちがう。ブレイクダウンの強度、コンタクトの強さ、タックル、ディフェンスの激しさ、スピード、パワー、スキル…。「あれだけ、プレッシャーを受けたのは人生で初めて」。それでも、齋藤は得意の機動力を生かし、テンポよくボールをさばいた。懸命に。

 開始7分。サンウルブズはラインアウトのクリーンキャッチから順目に左、左、左とラックからボールを回し、ワンテンポ遅らせて、右へ。一回、FW(フォワード)を縦に突っ込ませ、ゴールライン寸前のラックからSH齋藤がシャープなパスをSO(スタンドオフ)ガース・エイプリルに投げ、左中間に先制トライした。

 後半には、途中から交代出場の早大の同期、中野将伍のトライも演出した。

「チームがスコアしたことはうれしいです。それも将伍、よかったです」

 ディフェンスでもがんばった。前半の中盤。相手のエース、FB(フルバック)ダミアン・マッケンジーが個人技で大幅ゲインし、フォローしたSHブラッド・ウェバーがゴールラインに迫った時、齋藤は脱兎のごとく戻って、ボールを奪い取った。トライを防いだ。

 この危機管理能力。齋藤は説明した。

「最初は(相手の)右のパスコースを消そうと思って走っていて、サイア(シオサイア・フィフィタ)も(相手の下に)行ってくれたので、うまく右手が絡めました。ああいうところはサンウルブズが大事にしようとしているところなので。止められてよかったです」

 ラスト5分で交代した。齋藤はピッチを出る際、白いマスク姿が目に付くスタンドから温かい拍手を送られた。
 観客は1万8千7百人。齋藤の述懐。

「拍手はうれしかったですけど、ああいう結果でしたし、全然満足したプレーができませんでした。ファンの方への感謝が大きいですが、悔しい気持ちももちろんありました」

 確かに試合全体をみれば、相手にブレイクダウンでボールに絡まれ、球出しのテンポを遅らされることも多々、あった。キックを含め、SH、SOのハーフ団で相手の堅いディフェンスを崩すことはなかなかできなかった。課題は判断のはやさか、コミュニケーション不足か。

 だが、まだ大学生。大久保直弥ヘッドコーチは「あのプレッシャーの中でよくやったと思う」とほめた。

「しいて課題をあげれば、コミュニケーションの部分でしょうか。バックスとフォワードの連携のカナメなので。そこの部分はもっと改善できるんじゃないかな。でも、それを差し引いてもね、ほんとすばらしかった」

 チーフスの主将、ニュージーランド代表のSH、ウェバーはこう、齋藤を評した。

「非常に未来が明るい選手だと思います」

 素材は文句なしだ。加えて、努力家。早大ラグビー部HPには「自分のアピールポイント:練習が好き」と書かれている。モットーが『その時、その時、100%を出し切ること、出し切るために準備を怠らないこと』。つまるところ、まっすぐな男なのだ。

 そういえば、ちょうど1年前、齋藤はワールドカップトレーニングスコッドキャンプのメンバーから漏れた時、その練習にひとり、スタンドに見学に来ていた。日本代表になりたい、少しでも上手になりたい、そういった向上心ゆえだろう。

 W杯日本代表メンバーから外れた時、齋藤は「悔しさが込み上げてきました」と漏らしたことがある。本気で昨年のW杯メンバーを狙っていた。そのW杯を観戦し、代表入りへの思いがさらに募った。「次のフランス大会、絶対、出場したい気持ちが強まりました」と口にしたこともある。

 W杯で活躍したSHには、南アフリカの172㎝のファフ・デクラーク、167㎝のハーシェル・ヤンチースら小柄な選手もいた。165㎝の齋藤は「サイズは言い訳にはならない」と言い切るのだった。

 実力とともに、人気も急上昇している。バレンタインデーではチョコレートをいくつ? と聞けば、自分のところに届いたのは「ゼロです」とほおを少し赤らめた。たぶん、大学のラグビー寮にはたくさん、届いているのだろう。「でも、マスクをもらいました」

 齋藤のプレーを見ていると、ワクワクする。卒業後はサントリーへ進む。サンウルブズのモットーのひとつが『真剣』。マインドセットはもちろんだが、日本刀のはがねのごとく、たたけばたたくほど強くなるとの意味も持つ。

 サンウルブズでは今後、ペイジとのポジション争いを展開することになる。齋藤は言葉に力を込めた。

 「アタックのコントロールのところは課題ですけど、ディフェンスとか、フィットネスとかで(チームに)貢献するところでは張り合えるのかな。まずは、姿勢というか、練習態度はマスト。すべて全力でやって。ライバルとして、やっていきたいです」

 新星が高いレベルでもまれ、どう成長していくのか。真剣がどう磨かれるのか。2023年のW杯へ、険しい道はつづくのだった。