浮き沈み、その先に

「振り返ると楽しかった。本当に楽しかった」。橋本龍太朗(文=東京・早実)は射撃部での日々を思い起こし、そう口にした。ひときわ輝きを放った1、2年生。挫折を味わった3年生。そして主将となりチームをけん引した4年生。ひとつひとつの何気なく過ごした日常は、橋本のかけがえのない財産となっていた。

 射撃の楽しさを知ったのは、友人から誘われ、軽い気持ちで足を運んだ体験射撃。のめり込むように練習を重ねると、すぐに頭角を現すようになる。1年生の終わりにはレギュラーと肩を並べる点数を撃つほどの成長を見せ、2年生の頃には男子団体のメンバーに選出されるようになった。しかしながら、早熟は思わぬかたちで橋本の壁となる。レギュラーに定着した上、射撃において高得点の基準となる600点の大台に乗ると、「目標を失ってしまった」と如実にモチベーションが低下。練習に身が入らなくなったのだ。「あの頃もっと練習しておけば」と後悔の念もこぼれた。ただ3年生で副将に就任すると、練習メニューの改善も伴って射撃への熱意が再燃。秋の大会では上級生にも勝るほどの点数をたたき出すほどに好調であった。


狙いを定める橋本

 迎えた11月の早慶戦。橋本は大きな挫折を味わうことになる。センターを全く撃ち抜けない。早慶戦という大舞台に立ち、自身の1点の重さを意識しすぎるあまり、平常心のままに引き金を引けなくなっていた。その点数は「自分のせいで負けた」と語るほど。結果的にチームは早慶戦4連覇を逃してしまった。そこから橋本の調子は一向に上がらず、4年生で迎えた最後の早慶戦では団体のレギュラー落ちまでも経験。引退試合にしてレギュラーから外れた橋本の屈辱は計り知れない。

 「悔しかった」「早慶戦に勝つために後輩に託した」。2つの相反する気持ちを抱いた橋本。一方で「優勝して4年生を喜ばせたかった」(前田留那、スポ2=埼玉・栄北)と、橋本の思いを胸に下級生が躍動。主将として迎えた早慶戦は2年ぶりの優勝を飾った。「正直ホッとした」と話す橋本は主将就任後、『傾聴力』を意識し下級生からの意見も積極的に取り入れた運営を実行した。さらにチーム全体での練習時間を増やしたことで、和気あいあいとした、風通しがよく団結意識のあるチームとなっていた。その主将としてのチーム運営こそが、早慶戦勝利を導いたのである。

個人参加となった最後の早慶戦。「悔いがないように楽しんで撃った」という橋本は、SB(スモールボア)伏射60発部門において、久々の自己ベスト更新を成し遂げた。そんな橋本に射撃の難しさを尋ねると「ミスを気にせず、次にどう切り替えられるか」と教えてくれた。これは自身の1年にも及ぶ不振を脱しての、率直な言葉であろう。最後に乗り越えた壁の先で、未来にも通ずるヒントに出会ったようだ。

(記事 橋口遼太郎、写真 成澤理帆氏、柴田侑佳氏)