冬の移籍期限最終日、吉田麻也の移籍が発表された。プレミアリーグのサウサンプトンから、セリエAのサンプドリアへ。2010…

 冬の移籍期限最終日、吉田麻也の移籍が発表された。プレミアリーグのサウサンプトンから、セリエAのサンプドリアへ。2010年1月、オランダのVVVフェンロから始まった吉田の欧州チャレンジは、3つ目のステップへと歩を進めた。

 加入から2試合目となる2月8日のトリノ戦でベンチ入り。前半、後半ともにウォーミングアップに姿は見せたが、さすがにディフェンダーを変える雰囲気にはならなかった。後半34分、1-3とリードを広げた時には、「たとえ5分でもチャンスがあるか……」と吉田自身も期待したそうだが、「堅いですね、イタリアはやっぱり」と、不用意な選手交代などでピンチを招かない手堅いイタリアのサッカー、そしてクラウディオ・ラニエリ監督の采配を、肌で感じ取ったようだ。



トリノ戦をベンチから観戦する吉田麻也(サンプドリア)

 試合後には、出場がなかった選手たちで約20分間、汗を流した。ピッチ上で軽いジョグからダッシュまでを行ない、体に刺激を入れる。走り終わった直後、汗をダラダラ流した状態で取材に応じた。

「(ベンチで試合を見ながら)雰囲気を掴まなければいけなかったですし、試合にいける準備はもちろんしていましたけど、監督の判断ですし、勝たないといけない試合だったと思うので。前の2試合は大差で負けていますし、次は(強豪の)フィオレンティーナとローマが待っているし、ここで勝っておかないといけないという試合だったので、(出場機会が与えられなかったことについて)理解はできます。だけど、ここにはプレーしにきたので、1試合でも早く、1分でも1秒でもピッチに立てるようにいい準備をします」

 早く試合に出場しなくてはいけない。そんな闘志と悔しさを、温厚な語り口の中ににじませた。
 ピッチの脇に設置されたミックスゾーンで話を始めるにあたって、吉田は周囲に気を配っていた。まず、チームスタッフに

「自分はここで喋っていいのか」と確認した。セリエAでは多くのクラブが、試合後に話をする選手を2人ほど決めて、記者の前に送り出す。クラブから「今日はキミの番」と言われていない限り、ミックスゾーンには来ないことが多い。ベテランといえど新加入選手。そんなルールを気にしていたのだ。

 吉田を囲む日本の取材陣の輪に、ひとり地元ジェノバのイタリア人記者が入ってきた。日本語を解さない彼と、片言の単語でコミュニケーションをとる。その記者は「ドシャブリ」という妙な語彙で吉田を笑わせると、満足した様子だった。ひとしきりそんなやり取りが終わると、吉田はイタリアで取材をする日本人ジャーナリストたちに頭を下げた。

「吉田です。よろしくお願いします!」

 トリノ戦を見た吉田の印象は、プレミアリーグを始め多くの舞台で戦ってきた選手ならではのものだった。

「ほとんどテレビでカルチョを見ることはなかったんですけど、サッカーは全然違いますね。やはりスピードも違うし、求められているものも違う。そこに早く順応することがカギかな、と」

 具体的に、その違いとはどのようなものか。

「縦への速さが違うかな。ボールを失わないようにポゼッションすることが多いですね、こっちは。無理をしない。イングランドでは、奪ったボールをすぐに前につけないと、もうスペースがなくなるけど、こっちは無理して前につなぐよりも、まずボールをポゼッションすることが結構多い。後ろはそんな難しいことは求められないけど、しっかり守ることがすごく求められると思う」

 イングランドほどの縦への速さはない。しかも、この日の相手クラスのチームであれば、化け物級のストライカーもいない。ただしその分、確実に守ることが求められる。

 サウサンプトンでそうだったように、サイドバックでの起用も構想に入っているのだろうか。

「ノ、ノ、ノ、チェントラーレ(中央)」

 さっそくイタリア語で周囲を笑わせた。

 サンプドリアは、失点が多く不安定な最終ラインを補強するために吉田を獲得した。とはいえ、いきなり最終ラインの選手を替えるのは、それなりにリスクもある。特にこの日、トリノ戦で勝利したことで、吉田の出場はもう少し先になるかもしれない。

「サッカー以外の、ピッチ内外でのコミュニケーションもそうだし、言葉もそうですけど、お互いに理解し合わなければいけない。時間がないので、この4カ月ですぐ結果を出すために、やらなきゃいけないことは理解しているつもりです」
 吉田はいま、初めてオランダに足を踏み入れた時のような気持ちだという。初心に帰る意味合いも込めて、名古屋グランパス時代の最初の背番号34を選択した。ちなみにサウサンプトンでの今シーズン前半は、ほとんど試合に出ていないため、

「コンディション? わかりません」と言う。

 吉田からは、チャレンジしている人間特有のワクワク感が伝わってきた。