Why JAPAN? 私が日本でプレーする理由名古屋グランバス ミチェル・ランゲラック(2)Jリーグは現在、じつに多くの国から、さまざまな外国籍選手がやってきてプレーするようになった。彼らはなぜ日本でのプレーを選んだのか。日本でのサッカーや…

Why JAPAN? 私が日本でプレーする理由

名古屋グランバス ミチェル・ランゲラック(2)

Jリーグは現在、じつに多くの国から、さまざまな外国籍選手がやってきてプレーするようになった。彼らはなぜ日本でのプレーを選んだのか。日本でのサッカーや、日本での生活をどう感じているのか? この連載では、彼らの本音を聞いていく。

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 第一部でミチェル・ランゲラックは「日本への移籍を自分で模索していたわけではない」と正直に話したが、彼と日本の接点は何度もあった。しかも、けっこう濃い。


名古屋GKランゲラックは、ドルトムントで香川真司とも一緒にプレーした

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 2010年から5年過ごしたドルトムントでは香川真司と同僚で、2015年から2年所属したシュツットガルトでは細貝萌と浅野拓磨と共に戦った。そしてFIFAにおける同じAFCカテゴリーの選手だからか、クラブは彼らを常に近いところに置いたそうだ。

「理由はわからないけど、ドレッシングルームで僕は彼らの隣だったんだ」とランゲラックは明るく話す。とても楽しかった過去を振り返るように。

「ドルトムントではシンジ(香川)、シュツットガルトではハジ(細貝)とタク(浅野)が僕の隣にいた。そんなこともあって、僕らは仲がよかったんだ。彼らはみな、チャーミングなナイスガイたちだよ。だから、日本によい印象を持っていた。こんなによい人たちが生まれた国であれば、きっと僕や妻も好きになるだろうと思っていたよ」

 その後の2018年にランゲラックが名古屋グランパスに加入した際、「真っ先に祝福のメッセージを送ってくれた」のも、この3人の元チームメイトたちだったという。

 また昨季、横浜F・マリノスを15年ぶりのJリーグ優勝に導いたアンジェ・ポステコグルー監督は、ランゲラックの恩人のひとりだ。彼を初めて世代別代表に選出したのが、現在54歳のオーストラリア人戦術家だった。

「U-20オーストラリア代表に初めて呼んでくれたのが、彼だった。その後、A代表でも指導を受けたから、通算で4、5年は共に働いたと思う。よい関係も築けたし、それは今も続いている」

 ポステコグルー監督のことを深く知るランゲラックにとって、日本での恩師の成功は「驚きに値しないもの」だと言う。

「なにしろ、彼はこれまでのキャリアで、率いてきたすべてのチームで好印象を残してきたのだから。そして時間さえ与えられれば、必ず結果を残し、タイトルをもたらしてきた。だから、日本でも同じように時間さえもらえれば、彼は成功すると思っていたよ。

 横浜FMの成功も、僕からすれば、驚きではない。すごく攻撃的で流動性のあるエキサイティングなチームだよね。そんなチームを見事に築き上げた監督を、同じオーストラリア人として、本当に誇りに思うよ。彼もまた、とても厳しく、選手に多くを求める指導者だ。ただそのなかで、選手の特長を的確に見出し、能力を十全に引き出すことができる」

 長く指導を受けたランゲラックはポステコグルー監督の特性を、次のように明かす。

「まずはもちろん、あの攻撃的なチームをつくり上げることができる戦術的手腕だ。スピーチもうまくて、選手のモチベーションをうまく高めてくれる。日本では言葉の壁があるので、どうかなと思っていたけど、現状を見るかぎり、問題はなかったようだね。あの特別なスタイルで勝てるようになっているのだから、間違いなく彼のメッセージや信念がチーム全体に浸透しているはずだ」

 オーストラリアでも、日本でも、ポステコグルー監督のラディカルで革命的な手法を批判する向きはあった。けれど、指揮官を間近で見てきたランゲラックによると、監督はそんな状況さえ楽しんでいたような節があったそうだ──それはポステコグルー監督自身が認めるところでもある。



ポステコグルー監督やクロップ監督について話したランゲラック

「批判されることで、より気持ちを強くするタイプの人だと思うよ。あのスタイルのフットボールを完成させるのは、本当に難しいことだと思うし、それに対する批判は普通に起こりうることだよね。でも彼は信念を貫き通して、内容と結果を両立させてきた。時間と労力を要するスタイルだけに、揺るぎない信念や哲学が必要だとも言えるのではないかな」

 ランゲラックは日本一の監督だけでなく、世界一の指揮官にも指導されたことがある──先のクラブワールドカップを制したリバプールのユルゲン・クロップ監督だ。ドルトムント時代に薫陶を受けた現在52歳のドイツ人監督について、彼はこう話す。

「とても厳しいけど、フェアな監督だ。すべての練習や試合で100%を求める。そしてすべての選手と、自分の子どものように接する。選手ととても近い監督で、プライベートのことでも親身になって聞いてくれる。そんな監督だから、選手たちはこの人のために身を捧げたいと思うんだ。

 そして、選手が力を出し切って勝利をつかめば、クロップ監督は最高にハッピーになる。逆にチームがよくなければ、とても悲しそうになる。熱心なファンと同じだね。個人的には、彼は完璧な監督だと思うな。戦術的な手腕だけでなく、人間としても偉大だ。誰とでも分け隔てなく接するし、常に他者への敬意を忘れない。僕にとって、彼との時間はかげがいのないものだったよ」

(つづく)

ミチェル・ランゲラック
Mitchell Langerak/1988年8月22日生まれ。オーストラリア・クイーンズランド州エメラルド出身。名古屋グランパス所属のGK。22歳の時にドイツへ渡り、ブンデスリーガでプレー。スペインを経て、2018年シーズンから名古屋でプレーしている。メルボルン・ビクトリー(オーストラリア)→サウス・メルボルン(オーストラリア)→ドルトムント(ドイツ)→シュツットガルト(ドイツ)→レバンテ(スペイン)