白がミズノのプロトタイプ。ピンクがナイキの厚底。開発競争は続く ついに決着をみたナイキ厚底シューズ騒動。そのシューズを着用して、エリウド・キプチョゲ(ケニア)が非公式ながらマラソンで2時間台を切ったり、箱根駅伝やMGC(マラソン・グラン…



白がミズノのプロトタイプ。ピンクがナイキの厚底。開発競争は続く

 ついに決着をみたナイキ厚底シューズ騒動。そのシューズを着用して、エリウド・キプチョゲ(ケニア)が非公式ながらマラソンで2時間台を切ったり、箱根駅伝やMGC(マラソン・グランド・チャンピオンシップ)で好成績が続出したりと、何かと話題になってきたが、ここでひとつの区切りがついた。

『ソールの厚さを4センチ以下とし、反発力を生み出すプレートは1枚まで』とするワールドアスレチックス(国際陸上競技連盟より名称変更)の決定により、東京オリンピックでのナイキ厚底シューズの着用が認められることになった。

 この発表は大きな注目を集めているが、気になるのがナイキ以外のスポーツメーカーの反応だ。大手スポーツメーカーのミズノの広報は「(ナイキ厚底OKについて)特にコメントはありません。我々はこれまでどおりルールにのっとって、ランナーに寄り添ったモノづくりを進めていくだけです」とコメント。

 ニューバランスの広報は「アメリカ本社と確認を進めている状況で、公式な見解には時間がかかります」、アシックスの広報は「国際的な問題になっていましたので、状況は把握していますが、現時点でコメントすることはありません」と、いたって冷静な反応だった。焦りや動揺を見せないことは大切だが、それ以上に各社と直接対話するなかで感じたのは、ある種の自信。やはり「ナイキ一強」のこの状況を、各社とも手をこまねいて見ているわけではなかったようだ。

 ミズノは箱根駅伝ですでに成果を出している。ナイキ厚底シューズ着用選手が区間賞を次々と獲得するなか、ミズノを履いた最終10区の嶋津雄大(創価大)が、唯一ナイキに割って入る形で区間賞を獲得。大会記録も大幅に塗り替えた。箱根駅伝では、4年前までミズノのシューズの着用率が1位で、過去には50%近くのシェアを誇ったことがあるが、年々目減りし、今大会では2位ながら着用率は5%に満たなかった。しかし嶋津の活躍は、大きな希望をもたらしてくれるものだった。

 嶋津が履いていたシューズは、「ナイキのシューズに対抗するために、開発を早めて投入した」(ミズノ広報)プロトタイプ。決してナイキを追随するようなモデルではなかった。ナイキの厚底シューズが大きく注目される前から、開発が進められていたため、ナイキで使われているようなカーボンプレートの類は入っておらず、既存のシューズをさらに進化させた末に完成。厚底でもない。「駅伝用のシューズは軽くてスピードが出やすい仕様になっている」(ミズノ広報)ため、長距離といえどもマラソンとは違う。あくまで箱根用にクッション性と反発性を高めた、ミズノの開発路線のなかで生まれたシューズだった。つまり、ミズノが自らの求める道の延長線上であったに過ぎない。

 また、ニューバランスが注目されたのは、1月26日に行なわれた大阪国際女子マラソンでのこと。優勝した松田瑞生が履いていたシューズがニューバランスだった。このレースで松田は、東京オリンピックの女子マラソンで、3人目の代表選手の筆頭になった。

 松田のシューズは、伝説のシューズ職人・三村仁司氏とニューバランスとの共同開発シューズ。「選手の足を計測してフィットするよう0.25センチ刻みで対応していた」(NB広報)まさに松田用にオーダーメイドされた逸品。選手の足に究極まで合わせることで、ナイキ厚底シューズに対抗できることを結果で証明してみせた。

 ニューバランスはすでにカーボン搭載のシューズも発売し、トップアスリートも着用している。今後のマラソンで好記録を出す選手が出てくる可能性もある。また「今後さらなる新作も予定している」(NB広報)と積極性も見せる。

 アシックスもまた、着々と研究開発を進めている。「ナイキに対抗しようという意識はありません。我々はアスリートのパフォーマンスの向上と、ケガの防止の二軸を大切に、これまでどおり開発を続けています」(アシックス広報)と強調する。

 3月1日に開催される東京マラソン2020に向け、「新商品の発表を行なう予定で、時期がきたらリリースします」(アシックス広報)と機能性などの詳細については明かしてくれなかった。当然、「東京オリンピックに向けても開発は進んでいる」とのこと。昨年9月のMGCで、女子で優勝した前田穂南はアシックスを着用していた。もともとシューズづくりには絶対の自信を持つメーカーだけに、新たなテクノロジーの搭載も期待されるところだ。

 ただ今後、各社を苦しめそうな課題も出てきた。それが「ナイキ厚底OK」と同時に発表された以下の事項だ。

『4月30日以降は、大会前に4カ月以上の市販期間が必要。医療上の理由など以外ではカスタマイズすることはできない』

 これにより主要な大会を逆算した商品開発づくりが必要となるのはもちろんだが、選手はオーダーメイドのシューズで大会に出場することができなくなる。松田瑞生がそうだったように、トップアスリートの中には、微妙にシューズの仕様を変えることがある。汎用性の高いシューズでは足に合わない選手も出てくるため、それが成績に直結してくることは十分にあり得る。各社にとって、この厚底シューズをめぐる騒動で、新たな課題が出てきてしまったと言えなくもない。

 ミズノ広報は「(市販期間4カ月以上、カスタマイズの禁止については)具体的にはまだ動いていません」としながらも、「これからバタバタと動いていく可能性がある」と、今後の対応策を検討している様子。

 あるシューズメーカーは「今回の決定は、すでにシューズが発売されているナイキに有利だ」と憤りを感じているところもある。さらに「特に陸上はカスタムオーダーが当たり前の競技。これでは選手に迷惑がかかる」と嘆くメーカー関係者もいた。

 それでもニューバランス、ミズノ、アシックスはルールを順守しながらも、歩みを止めるつもりはない。もちろん課題をクリアしていく覚悟はできている。開発競争はますます激化していくことだろう。