「まるでスパイダーマン」と呼ばれた予測不可能なプレー9月12日、Bリーグの『TIP OFFカンファレンス』が開催され、B1全クラブを代表する18名の選手が一堂に会した。サンロッカーズ渋谷を代表してステージに上がったのはベンドラメ礼生22歳。…
「まるでスパイダーマン」と呼ばれた予測不可能なプレー
9月12日、Bリーグの『TIP OFFカンファレンス』が開催され、B1全クラブを代表する18名の選手が一堂に会した。サンロッカーズ渋谷を代表してステージに上がったのはベンドラメ礼生22歳。18名中ただ一人の新人選手だった。
「ワクワクしています。こんなに注目されているBリーグ開幕の年に、自分がプロ選手としてスタートを切ることができるのはすごくラッキーですよね。その中で『レオはすごいぞ』と言われたい。ルーキーであろうと相手に警戒される存在になりたいです」
振り返れば、3年次に3冠(インターハイ、国体、ウインターカップ)を達成した延岡学園高校時代も、1年次から先発メンバーとして起用された東海大学時代も、コートの上のベンドラメは相手にとって『非常にやっかいな存在』だった。敵の攻め手を先読みして瞬時にアジャストするするディフェンス、一瞬の隙をつくスティール、思わぬ場所から飛び込んで奪い取るリバウンド……。「まるでスパイダーマンのようだ」と言われたその予測不能なプレーはまさにベンドラメの真骨頂と言えた。
しかし、「彼独自のその嗅覚のようなものは単なる天性ではなく、彼が積み重ねてきた努力の結果だと思っています」と語るのは東海大の恩師、陸川章監督だ。「見る者をワクワクさせるようなトリッキーなプレーは間違いなくレオの持ち味と言えるでしょう。が、そのプレーの土台となっているのは彼が積み重ねてきた『バスケットの基礎』です。練習を見れば彼がどれほど真面目に、地道にバスケットに取り組んでいるのかがわかります」
確かにポイントガードにコンバートされて日が浅い時期には、ボールハンドリングの未熟さやパスミスも目立った。そこから日増しに安定感を身につけ、余裕を持ってチームを牽引するまでになったのは、陸川監督が言う「地道な努力」の成果なのだろう。意表を突く華やかなプレーの陰で着実に培ってきた力。今度はそれをBリーグという新たな舞台で試すことになる。
ルーキーには違いないが、正確には大学のシーズンを終えた時点でアーリーエントリー選手として登録され、今年1月からサンロッカーズのユニフォームを着た。だが、意気込んで合流したもののプレータイムは極めて少なく、『使われない悔しさ』も味わったのではないか。使われるためには自分が成長するしかない。この夏はアメリカに渡りトレーニングの日々を過ごした。
「20日間行ってきました。最初の10日間は岡本飛竜(島根スサノオマジック)とロサンジェルスに行って、スキルコーチに付いてマンツーマンのトレーニング。向こうの人たちは1時間半ぐらいしか練習しないんですけど、その1時間半に日本とは違うトレーニング法がぎっしり詰まっていて、すごく勉強になりました。あとの10日間は帰国した飛竜と別れてアイラ(ブラウン、サンロッカーズ渋谷)の出身校であるゴンザガ大に行きました。午前中は個人のワークアウトをやって、午後はゴンザガ大の選手たちに混じって5対5をやるという毎日。(留学中の)八村塁にも会っていろいろ話しましたよ。勉強がかなり大変みたいで『ほんとに必死ですよ』と何回も言ってました(笑)。けど、塁はすごく頑張ってて、チームの中でもいい評価を受けていると感じたし、いろんな意味でいい経験してるなあと思いました。やっぱり早い時期に日本を出て学ぶってことはプラスしかないんだなあと。大きな刺激をもらったような気がします」
海を渡ってプレーする。胸の奥に秘めた「いつか自分も……」という夢は変わらずその場所にある。しかし今、自分が成すべきは目の前にあるBリーグで頑張ることだ。そこで成長する1年にしなくてはならない。
ミスを恐れて積極性を失うようではダメ
今シーズンのサンロッカーズ渋谷は、9年間にわたり大黒柱としてチームを支えてきた竹内譲次がアルバルク東京へ移籍し、ベテランガードの木下博之もまた大阪エヴェッサへの移籍を決めてチームを離れた。経験値の高い2人の選手を失った影響は小さいとは言えないだろう。
「もちろんその影響は否定できないかもしれません。でも、うちには新しく(清水)太志朗さんや大塚(裕士)さんという経験豊かな選手が入って来ました。太志朗さんにはガードとしていろんなことを教えてもらっていますし、伊藤(駿)さんという頼もしい先輩ガードもいます。去年のように高さがない分、機動力で勝負するチームになりますが、やはりそれにはガードの力が大事になってくると思うので、そこは自分も気合いが入ってます(笑)」
その『気合い』が伝わってきたのは『どんなプレーを目指しているのか?』と尋ねた時だ。驚くほど一気に大量の答えが返ってきた。
「まずは自分が得点源の一人になれるようオフェンスを頑張りたいです。相手のディフェンスを崩すためには縦に割って行くことが有効なのは分かっているし、自分の得意なプレーでもあるのでそこは意識してやっていきたいです。アシスト面ではチームの中に、自分がドライブしたらパスが来るという意識付けをしたいですね。そのためにも積極的に切り込んで、そこからキックアウトというのは欠かせないと思っています。もちろんアウトサイドシュートも武器にしていきたいので、個人としてもチームとしてもより精度を上げていくことが課題です。とにかく大事なのは積極性。ガードのミスは命取りになるので要注意ですが、ミスを恐れて積極性を失うようではダメ。どんな相手でも決して怯まず、激しいコンタクトも恐れずぶつかっていきたいと思っています」
と、ざっとこんな感じだ。もしかして一日中Bリーグでの戦い方について考えているのではないか?
「いえ、そこまでは……。でも、同じ中地区だったらやっぱり川崎(ブレイブサンダース)が強いだろうなという気はするし、ガードの藤井祐眞さんは運動量が豊富でディフェンスもしつこくて大学時代に苦しめられた、僕が嫌いな選手の一人で(笑)、篠山竜青さんと2人揃ったガード力はリーグでもトップクラスだと思うから、負けたくないなあという気持ちはあります。そのためには何が必要だろうかとかいろいろ考えたり……。あ、そうですね、やっぱり気がつけば一日の結構長い時間、Bリーグのことを考えているかもしれません(笑)」
笑った顔はルーキーらしく清々しく、それでいてどこか頼もしく。
「今シーズンの自分の目標はなんですか?」。最後の質問に返ってきたのは「新人王です!」――こちらは短く、明快な一言だった