東海大・駅伝戦記 第80回『高根沢町 元気あっぷハーフマラソン大会』は、東海大が新体制となって初のレースになった。その前に行なわれた10キロ、50歳以上の部に両角速監督が出場し、35分40秒の大会新でゴールした。「残り3キロからきつかった」…

東海大・駅伝戦記 第80回

『高根沢町 元気あっぷハーフマラソン大会』は、東海大が新体制となって初のレースになった。その前に行なわれた10キロ、50歳以上の部に両角速監督が出場し、35分40秒の大会新でゴールした。「残り3キロからきつかった」と言う両角監督だが、フォームやリズムはかつて箱根を駆けた選手らしく、美しく軽快だった。最後は粘りを見せたが、残念ながら優勝は果たせなかった。

「(今年の)箱根は大会新で2位。今回も大会新で2位。やっぱりな……という感じですね」

 両角監督はそう言って苦笑した。



高根沢町ハーフマラソンの10キロ、50歳以上部で2位になった東海大・両角監督

 そのレースのあと、ハーフが行なわれ、東海大からは14人の選手が出場した。箱根エントリー組での出走は米田智哉(3年)、市村朋樹(2年)のふたりで、1、2年生が中心だった。

 レースは、中村匠吾(富士通)が東京五輪マラソン男子代表選手という貫録の走りを見せて、自己ベストを13秒短縮する61分40秒で優勝。東海大は、本間敬大(2年)が62分59秒(8位)のタイムを出して気を吐いた。

「やっと戻ってきたかなという感じです」

 本間はそう言って表情を崩した。

本間は入学時、もっとも期待された選手だった。佐久長聖高校(長野)時代に5000mで13分58秒42の記録を出しており、1年目からの活躍が期待された。だが、箱根駅伝のエントリーメンバーに入るも、本戦で出走することはかなわなかった。2年になった今シーズン、同学年の市村が頭角を現わすなか、本間は夏合宿でも思うような走りができず精彩を欠いた。

 結局、出雲駅伝も全日本大学駅伝もエントリーはされたが走ることはできず、箱根は自ら「厳しいです」と両角監督に伝え、エントリーメンバーから外れた。その間、本間は単独で練習を行なうなど、自分を取り戻す努力を積み重ねてきた。

 両角監督はそんな本間の姿を見てきただけに、今回のタイムに笑顔を見せた。

「今シーズン、本間は苦しんでいました。歯車がかみ合わず、出雲もエントリーメンバーにこそ入っていたけど、うまく波に乗れなかった。箱根は自ら回避したのですが、今回の箱根から感じるものがあったんじゃないでしょうか。黄金世代が抜け、次は自分の番が回ってくるということで、それに備えていました。全体練習が終わったあとも自主的に距離を踏んでいましたし、今までやってきたことが今日は出たかなと思います」

 本間は筋肉がついて、少したくましくなったように見えた。もともとセンスと実力のある選手。名取燎太のように3年になって開花するケースもあるので、今回の本間の結果はチームにとっても非常に大きかった。

 このレースで圧巻の走りを見せたのが、箱根を奪還した青学大だった。箱根のエントリーメンバーに入っていない5人が62分台のタイムを叩き出したのである。

 両角監督は警戒心をあらわにした。

「すごいですね。天気がよく、風もないという好条件のなか、中村(匠吾)選手が出場したので思い切って突っ込んでいけたというのもあるけど、それにしても青学大は強い。うちも含めて、なんとかしていかないといけないですね」

 怖れを知らない突っ込みを見せる青学大の強さは、今年の箱根でも際立っていた。今回のレースも中村のハイペースについていった結果、好タイムが生まれた。驚異的な突っ込みが箱根では区間新ラッシュを生んだが、それが青学大に浸透している。両角監督は言う。

「今回の箱根は平均ペースがすごく上がった。青学大は躊躇なく突っ込んでいくし、それがレースで大きな差となって表われた。ウチが多少詰めることができた7区、8区でも青学大の選手は突っ込んで走っていた。ハイペースで持つのだろうかという心配が、青学大の選手にはまったくありませんね」

 なぜ青学大の選手はハイペースで突っ込んでいけるのだろうか。

「青学大の選手は突っ込める勇気がある。その背景には自信があると思うのですが、ウチもそれをどうやってつくっていくのか。距離をしっかり踏むのか、スピードをより強化して5000m、1万mで自己記録を更新していくのか。ただ、タイムを上げても突っ込んだ時に持つのか、という不安があるので、それをいかに払拭できるのかが大事になってくると思うんです。そのためにはトレーニングを見直す必要があるのかなと思います」

 東海大はすでに新しい取り組みを始めている。よりスピードを強化するために短距離のトレーニングメニューを導入し、速く走るための体の動き方などを学んでいる。新たなトレーニングを進めることでトラックシーズン、そして駅伝シーズンで選手の走りに変化が生まれてくるかもしれない。箱根奪還の動きは、もう始まっているのだ。

 この高根沢ハーフの少し前、1月7日からチームは新体制になった。塩澤稀夕(3年)がキャプテンになり、名取が副キャプテンになった。東海大のキャプテンでは3年時から副キャプテンの役職に就き、1年かけて準備をする。正式決定は、現在の3年生からの推挙があって、それを監督、コーチ陣が承認するという形になる。前回は館澤亨次と西川雄一朗で票が割れたが、今回は塩澤ですんなりまとまった。

 塩澤はキャプテンという職について、こう語る。

「自分は語るタイプではないですし、西川さんほどストイックでもないので、東洋大の相澤(晃)さんのように走りで引っ張れるキャプテンに。絶対的なエースとなってチームを引っ張りたい。そこに名取や米田、西田(壮志)、鈴木(雄太)が負けじとついてきてくれると、チーム力はグッと上がるはず。黄金世代とは違う自分たちのカラーを出していければいいかなと思います」

 一見、塩澤はまじめだが、じつは性格は明るく、ノリもいい。ミーティングでの発言もしっかりしており、チームをしっかりまとめていくだろう。

 館澤は新キャプテンの塩澤に「ひとりで背負うな」とアドバイスしたという。

「塩澤には期待しているし、頑張ってもらいたい。でも、キャプテンってなにもしなくてもプレッシャーを感じるので、あまりひとりで詰め込んでほしくない。自分はキャプテンとしてたいしたことができなかったけど、西川をはじめとした周りの支えがあってやれたので、塩澤も名取や西田らに頼っていいと思う。キャプテンがひとりでどうこうするのじゃなくて、今年のようにチーム全員でやってほしいですね」

 館澤は夏にケガをしてから、西川にチームの舵取りを任せ、その西川も役割をまっとうした。その恩を感じていたからこそ、箱根3区で悔し涙を流した西川の分まで……という思いで走り、6区で区間新を記録した。お互いを思いやり、信頼し合える仲間がいれば、チームはうまく回っていくものだ。

 両角監督も新キャプテンとなった塩澤に期待を込める。

「館澤は最後にしっかりと結果を出し、さすがキャプテンというのを見せてくれたし、西川はチームの精神的な柱になった。塩澤も結果で示せる選手だと思いますし、西川のようにいろんなことをしっかり言えるキャプテンになってほしいなと思います。そうして自分のキャプテン像をしっかり確立してほしい」

 塩澤は1月25日から飯澤千翔(1年)とともにアメリカの北アリゾナ大で合宿をスタートさせる。昨年も同時期にアメリカに行き、フォーム改造に着手し、飛躍のきっかけをつかんだ。黄金世代が抜けたあとのチームづくりをどうすべきか。考えることはいろいろあるだろうが、まずは自分の走りを高め、強くなることを最優先する。

 塩澤にとっては、あらゆる面で試されるシーズンになることは間違いない。