主砲・バレンティンが退団(ソフトバンクに移籍)したことで、ヤクルトの若手外野手たちに大きなチャンスが訪れている。な…

 主砲・バレンティンが退団(ソフトバンクに移籍)したことで、ヤクルトの若手外野手たちに大きなチャンスが訪れている。なかでも期待されるのが、プロ3年目の塩見泰隆だ。魅力はシングルヒットを二塁打に、二塁打を三塁打にできるスピードで、スタンドまで軽々と運ぶパンチ力も備えている。



入団3年目の今季、レギュラー獲りを目指すヤクルト塩見泰隆

 宮出隆自ヘッドコーチも塩見のレギュラー獲りを待ち望むひとりだ。

「誰もが彼の持っているポテンシャルを『すごい』と言いますし、技術的な部分でもいいところまできています。トリプルスリー(3割、30本塁打、30盗塁)をやってもおかしくない能力はあると思っています」

 前田真吾トレーナは「スプリント能力が魅力です」と言って、こう続けた。

「体のバネやジャンプ力はチーム内で群を抜いています。体的にはまだ伸びしろがあります。筋肉もしっかりついてきていますが、まだ一軍のトップレベルではありません。それでも身体能力の高さは魅力で、外野手でくくれば、柳田悠岐、秋山翔吾、鈴木誠也といった選手に近づけるポテンシャルはあると思っています」

 塩見のこの2年間の”二軍”での成績は、じつに魅力的だ。

2018年 48試合/打率.329/9本塁打/22盗塁/出塁率.418
2019年 74試合/打率.309/16本塁打/23盗塁/出塁率.430

 さらに、2018年の台湾でのウインターリーグでは首位打者を獲得し、昨年のオープン戦では打率2位、盗塁数はトップをマーク。秋のフェニックスリーグでも本塁打王を獲得した。

 だが、舞台を一軍に移すと実力をまったく発揮できず、もどかしい日々が続いている。ちなみに、2年間の一軍での成績はこうだ。

2018年 16試合/打率.040/0本塁打/0盗塁/出塁率.077
2019年 45試合/打率.182/1本塁打/4盗塁/出塁率.265

 こうした現状に、”二軍の帝王”、”イースタン・リーガー”と揶揄されることもあった。昨年、愛媛・松山での秋季キャンプでプロ入りしてからの2年間、一軍での成績が低迷している理由について聞くと、塩見はこう答えた。

「メンタルの弱さだと思います。(前打撃コーチの石井)琢朗さんからも言われました。『お前の一軍の打席は、二軍でのどっしり感がまったくないな』と。たしかに、自分で映像を見ても一軍での打席の姿は小さい感じがするんですよ。

 ただ今年(2019年)に関しては、ウインターリーグやオープン戦で結果を残せたことで自信満々だったんです。阪神との開幕戦でも、代打で能見(篤史)さんの落ちるボールをうまく拾えて『これなら大丈夫だ。二軍の投手とそう違わない』と思えたんです」

 ところが、翌日の試合で5番打者としてスタメン出場した塩見だったが、阪神先発の岩貞祐太に2三振するなど、4打数無安打(3三振)に終わってしまった。

「1打席目に中途半端なスイングで三振してしまったんです。そこからメンタル的に崩れて、それを修正する方法がわからず、ずっと悪い連鎖が続いてしまいました。あの試合でウインターリーグとオープン戦での自信がすべてなくなり、琢朗さんにも『あそこがターニングポイントだったな』と言われました」

 塩見は続ける。

「子どもの頃はメンタルが弱いとは、とくに感じてなかったです。野球を始めたのは小学生の時で、中学、高校と好きで楽しんでいましたが、社会人になって野球でお金をもらっている責任感というか……。不思議なことですが、二軍では『これを試してみよう』など、積極的になれるのでうまくいっているのかなと。でも一軍では『打たなければいけない』という意識がどうしても強くなってしまうんです」

 この松山キャンプで、天真爛漫な塩見はチームに活気をもたらしていたが、「自分では大雑把な人間だと思っていたのですが、神経質だったことに気がつきました」と言った。

「完璧主義なところもあって、試合でも打撃練習でもきれいに打ちたいタイプなんです。松山キャンプでも芯に当たる割合が少なくなると『あれ、おかしいぞ』と、気持ちが沈んだままバットを振ってしまって。そういう時にコーチの方が『自分のスイングをしよう。三振しても凡打になっても顔を上げて、前を向いてやっていこい』と言ってくださるのですが……。僕が変わらないとダメですし、このキャンプでは考え方や気持ちの持ち方を課題に取り組んでいます」

 塩見は「修正する方法がわからなかった」と語っていたが、何もせずに過ごしてきたわけではない。

「僕なりにメンタルコントロールは考えてやってきました。二軍での打撃練習や試合で一軍の雰囲気を持ち込んでみたり、自分にプレッシャーをかけてみたりしました。そういう過程があって、今は何も考えないというか、最低限の仕事ができればいいやくらいの気持ちです。そのあたりは、オフに専門家の方の話も聞こうと思っています。この2年、やってきたことは間違いないと思うので、落ち着いてプレーができるように、あとは心ですね。僕は慌てん坊なんで(笑)」

 振り返れば、プロ初ヒットのあと走塁ミスを侵し、打順を忘れたこともあった。

「そうですね(笑)。二塁打で出塁したのですが、次の打者が内野ゴロを打って、普通であればサードへ走らなきゃいけなかったんですけど、初ヒットに舞い上がってしまって進塁できなかったんです。一軍の試合にそれなりに出るようになってからも舞い上がっています。試合前は『打てるかな……』とか考えて緊張しますし。

 そのなかで監督やコーチたちはやさしくしてくれるんです。普段は厳しいんですけど、試合になるとすごくやさしくて、『打てなくて当たり前だ』や『大丈夫だよ』とか言ってくれるんです。そこまで気を遣わせてしまったことが申し訳なくて……そのやさしさが逆に苦しかったこともありました」

 そう複雑な胸中を吐露した。

「後半戦は『どうせ打てないんだからバット3回振ってこい』みたいな感じで送り出してくれて、気持ちが楽になりました。僕と(廣岡)大志で1、2番の試合があったのですが、『お前らが打ったら万馬券だよ(笑)』って。この時は久しぶりに一軍で野球をしていて楽しかったというか、ネクスト(バッターズサークル)でも緊張しないで投手を観察できました」

 塩見は昨年9月19日の阪神戦でプロ初本塁打を記録。また、終盤の6試合では18打数8安打(1本塁打)と”兆し”を見せて、シーズンを終了した。

「コーチの方は二軍での映像も見てくれていて、『まだまだ(二軍での)姿を出し切っていない』と言われました。初ホームランは狙い球を絞らず、無我夢中でボールをとらえました。だから、あまり覚えていないんです。『打ちたい』ではなく、『来たボールを打とう』みたいな感じで、そういうシンプルな状態で打席に入ることが大切だなと思いました」

 昨年10月のフェニックスリーグでの塩見の打席を見て、あらためて今シーズンへの期待が膨らんだ。どんなカウントでもまったく動じず、自分の打てるボールを一発で仕留めていたからだ。

「打席でのいいバランスってあるんです。打ちたいという気持ちのなかで、自分の打てるボールでなければ見逃す。二軍ではできているのですが、一軍だと『打ちたい』という気持ちが先走って、ストライクが来たらなんでも振ってしまう。体も前に出てしまうし、自分本来のスイングができないので、自ずとヒットになる確率は下がりますよね。自分でも分析はだいたいできているんですよ」

 塩見はそう言って続ける。

「一軍では、頭のなかで整理はしているのですが、自分のなかに落とし込めていない。打てなかったら……という不安がどうしても勝ってしまう。シーズン終盤は少しうまくいったので、そういう気持ちで打席に立ちたいですし、乗り越えないと前には進めないですから。

 僕のいちばんの武器は足なのですが、そこを意識しすぎてバッティングが小さくならないように。長打もあって盗塁もできる積極性のある1番打者、もしくは上位やうしろの打者しっかりにつなぐ打者になりたいと思っています」

 宮出ヘッドコーチは、プロ3年目を迎えた塩見について「才能を開花させるというより、才能を発揮できる環境に導きたいと思っています」と言った。

「塩見が力を発揮すれば、うしろの打者にも恩恵があります。塁に出ればスピードで相手にプレッシャーをかけられるわけですから。二軍では打率も残しているし、長打力もある。そこを生かすも殺すも、本人のメンタルとこちらの環境づくりで、ある程度の我慢も必要だと考えています。チャンスは間違いなく増えると思いますが、特別扱いはできません。そこはチームとして総合的に判断していきたい」

“二軍の帝王”が一軍でもそのバッティングを実現できれば、ヤクルト打線は大きな武器を手に入れることになる。最下位からの逆襲を誓うヤクルトにとって、塩見は欠かせない戦力になるはずだ。