FC東京が今季、新たな姿を見せてくれそうだ。「従来の4-4-2システムがある程度完成したなか、攻撃力を高め、(より多くの)得点パターンを生み出すために、4-3-3システムにも挑戦していく」 沖縄・国頭村でキャンプを張るFC東京。そこで、指…

 FC東京が今季、新たな姿を見せてくれそうだ。

「従来の4-4-2システムがある程度完成したなか、攻撃力を高め、(より多くの)得点パターンを生み出すために、4-3-3システムにも挑戦していく」

 沖縄・国頭村でキャンプを張るFC東京。そこで、指揮官である長谷川健太監督が発した言葉は、固い決意表明のように聞こえた。

 4-4-2のシステムは、すでにチームに浸透。堅守を軸に、ディエゴ・オリヴェイラと永井謙佑の2トップを生かすスタイルによって、昨季はリーグ戦で2位という好成績を残した。

 だが、完成度が高いゆえ、やや柔軟性を欠いていた。2トップが封じ込まれると、攻め手を失って、得点を奪えずに終わる試合が多かった。とくに後半戦は、そうした形で大事な試合を落とし、目前に迫っていたタイトルを逃してしまった。



昨季は惜しくもリーグ優勝を逃したFC東京

 4-3-3の採用に踏み切ったのは、リーグ戦を制するためには不可欠なことだと判断したからだろう。

 それは、永井が故障で出遅れ、開幕に間に合わないという事情もあるが、一方で、アダイウトン(ジュビロ磐田→)、レアンドロ(鹿島アントラーズ→)ら、スピードと突破力のある選手を獲得。加えて、昨季のJ3で最高得点(19得点)をマークした原大智(FC東京U-23→)がトップチームに昇格し、攻撃の幅を広げるだけの戦力がそろった、ということもある。

 従来の2トップを生かしつつ、攻撃の幅を広げ、多くのゴールを奪って勝つ--昨季はなかった特長を、今季の強みとする。”攻撃的で勝てるチームを作る”という、長谷川監督の強い覚悟が新システムの導入から読み取れる。

 練習を見る限り、新システムは昨季優勝した横浜F・マリノスに近いスタイルだ。左右のアタッカー、サイドバック、そしてインサイドハーフが攻撃に参加。両サイド、そして中央からアタックしていく攻撃の迫力は、昨季と比べると格段に増していた。

 ただ、攻撃力が増す分、2人のセンターバックと中盤の底に位置するアンカーの守備負担はかなり増すことになる。カウンター対策を含めて、どのようにして広いスペースをカバーしていくのか。攻から守への切り替えなど、このシステムにおけるディフェンス面の課題は多いように思える。

 そんななか、沖縄SV(九州リーグ)との練習試合で、新システムが初めて実戦で試された。メンバーは、前線の左にレアンドロ、中央にアダイウトン、右に原が配置され、中盤はインサイドハーフに東慶悟と安部柊斗(明治大→)が入って、アンカーを高萩洋次郎が務めた。最終ラインはCBが森重真人と丹羽大輝、右SBに中村拓海、左SBに小川諒也が入り、GKは林彰洋だった。

 試合は、個々の力差もあって、終始FC東京がボールを保持した。マイボールの際には、アンカーの高萩が最終ライン、2人のセンターバックの間に入ってボールを回し、3-4-3の形で攻撃を組み立てていた。

 高萩やCB2人は、ボールを目の前にいる選手につけるだけでなく、左右にサイドチェンジのボールを入れていた。そのため、相手のサイドバックは外側へのポジションを取らざるを得なくなり、それによってできたスペース(相手のセンターバックとサイドバックの間)に、前線の両サイドの選手やインサイドハーフの選手が飛び込んでいく。シンプルに前へつける昨季とは違って、駆け引きや揺さぶりを駆使し、相手に的を絞らせない攻撃を見せていた。

 個々では、アダイウトンとレアンドロが期待どおりの突破力を披露。昨季にはなかった破壊力のあるサイド攻撃が再三見られた。

「でも、そこからどうするか、ですね」

 そう言って、苦笑したのは高萩だ。

 ひとりの選手がサイドを突破したところで、そこに誰が絡み、どうフィニッシュまで持っていくのか。そうした連動が重要になってくるが、高萩が指摘するとおり、その整理はまだできていない。さすがに、まだあうんの呼吸では動けていないので、どうしても攻撃が単発で途切れたり、ノッキングしたりする場面も目立った。

「監督からは『動きを止めるな』と言われています。その動きが正しいかどうかわからないけど、まずは攻守において、動き続けることが大事ですね」

 高萩は「今の段階では……」と前置きしたうえで、そう言った。

 今季のキャンプから取り組んで、初の実戦練習である。現状では、たくさんの課題が出たほうがいい。そして、それをキャンプ中に修正し、改善していくことが大切だ。

 選手たちも、F・マリノスの苦労(2018年シーズンは12位と低迷)を目の当たりにしているだけに、このシステムが簡単ではないことを重々承知している。そのため、練習以外の時間、食事中などにも選手同士でコミュニケーションを取りながら、課題克服への努力を日々積み重ねている。

 それゆえ、高萩は「これから」と強調する。

「まあ、まだ攻守においてのポジショニングとか、誰がどこに行くか(どこのスペースを埋めるか)など、はっきりしていない部分がある。(中盤も)2ボランチよりも(攻撃にかける)人数はいるけど、ひとりが前に出ていったら、(残りの)2人はスライドしたり、ポジションの受け渡しをしたり、それがもっとスムーズにできるようになれば……。今日もいろいろと確認しながらやっていたけど、僕が正解かどうかもわからないので、そこは今後、お互いに話を詰めていくしかないかな、と思っています」

 選手それぞれの連係も大事だが、攻撃や中盤のユニットをどうするか、という問題もある。長谷川監督は「中盤の構成は、概ね頭の中にある」と言っていたが、橋本拳人が故障で出遅れていることを考えれば、どういった組み合わせがベストか、試してみたい形はまだまだある。

 アンカーに高萩が入るのも悪くないが、個人的にはインサイドハーフか、トップ下に彼が入ったほうが、面白いのではないかと思っている。

 たとえばF・マリノスは、マルコス・ジュニオールがトップ下の位置に入って、フラフラとしながら、相手が掴みづらいポジションを取っている。そうして、マルコス・ジュニオールは相手のボランチとセンターバックの間でボールを受け、そこに相手が人数を割いて食いついてくると、空いたスペースに入ってくる仲川輝人らを使って、決定的なシーンを生み出していた。

 高萩に期待したいのは、そうしたプレーだ。サンフレッチェ広島時代には2シャドーの一角を務め、昨季も2ボランチの前目でトップ下に近い位置でプレーしていた高萩なら、マルコス・ジュニオールと同様、敵に的を絞らせないプレーができるはずだ。

 実際、高萩も「(中盤の3人が)流動的に動いて、時にはダブルボランチ的になったり、トップ下に入ったりとか、試合の中でポジションを入れ替わりながら、というのが理想」と語っている。もちろん、そこまでに至るにはかなりの時間を要するだろうが、4-3-3から4-2-3-1といった形にも移行し、高萩がトップ下でプレーする機会はそのうち出てくるだろう。

 新しいことにチャレンジしているFC東京の選手たちの気持ちはポジティブだ。キャンプ中のチームの雰囲気は明るく、新たなシステムをモノにしていかなければいけないという強い意気込みも、選手たちの表情から十分に伝わってくる。

 今後も当然、うまくいかないことが出てくるだろう。リーグが開幕してからも課題が出てくるに違いない。その時、FC東京には立ち戻ることができるシステムがある。だが、昨季逃したタイトルを手にするためには、4-3-3もあきらめずに続けていけるかどうか。

 高萩が言う。

「(新システムに挑戦し続けるのか)それを決めるのは、監督の判断なのでわからないですけど、自分は攻撃の選手がそろっているなかでは、そうやって(新システムを貫いて)いくほうがいいかな、と思います。ただ、今はまだ、このシステムについて、まったくつかめていないんで(苦笑)。ほんと、これからですね」

 新たに導入した4-3-3システムの完成度をどこまで高めることができるのか。それが、今季のFC東京の行方を占うことになる。