昨年10月、バルセロナ。ヨハン・クライフスタジアムで、バルサのセカンドチームであるバルサBを取材していた時だった。現地…

 昨年10月、バルセロナ。ヨハン・クライフスタジアムで、バルサのセカンドチームであるバルサBを取材していた時だった。現地のスペイン人記者は、わけ知り顔でこう洩らした。

「(安部)裕葵は悪くないね。頭がいいし、ゴールに向かう強度がある。同じ日本の西川潤も、18歳になったらバルサBに来るらしいよ」

 欧州では、18歳未満のEU外選手の移籍が禁止されている。法の厳格化にともない、18歳になるのと同時に契約するやり方が一般的になった。久保建英のレアル・マドリード移籍もこの形だ。

 そしてスペイン人記者の予測どおり、西川のバルサ移籍が秒読み段階に入っているという。今年2月、西川は18歳の誕生日を迎える。そこがXデーになるだろう。



昨年のU‐17ワールドカップでもそのプレーが注目された西川潤

 セレッソ大阪の強化指定選手である西川(桐光学園)は、昨年行なわれたU-17ワールドカップでも、アタッカーとして抜群の存在感を示している。グループリーグでは、オランダ、セネガルを撃破する得点を記録。ゴールだけでなく、そのパスからも得点を生み出していた。

 西川は左利きのアタッカーで、キープ力やプレービジョンに優れる。左足キックは強烈で、かつてバルサに在籍したリバウドに似ているところがある。スマートな選手で、相手のタイミングを絶妙にずらしながら、ゴールに迫れる。トータルプレーヤーとして、攻撃ポジションならどこでも収まり、まさにバルサ好みの選手だ。

 西川の入団が決まった場合、バルサにとっては安部裕葵に続く2人目の日本人選手となる。はたして、バルサの思惑はどこにあるのか?

 2部B(実質3部)に所属するバルサBの当面の目標は、2部昇格にある。第20節終了時点で3位。4位までのプレーオフ出場圏内に位置している。ちなみに、安部は3トップの一角のポジションを確保しており、主力のひとりだ。

 しかし、バルサBが後半戦を勝ち抜くのは簡単ではない。

 チームのエースであるリキ・プッチは、トップチームに帯同する可能性が高くなった。トップチームの監督に新たに就任したキケ・セティエンは、第20節のバダロナ戦も積極的に視察。ラ・マシア組を登用する考えを持っている。

 痛しかゆしで、バルサBは結果を出すほど戦力ダウンを余儀なくされるのだ。そこで、即戦力になる選手と将来性のある若手を、冬のマーケットで補充する必要を迫られている。

「昇格に向け、バルサは”革命”を準備」

 スペイン大手スポーツ紙『マルカ』は、そんな小見出しで報じている。育成部長であるパトリック・クライファート、バルサBの技術委員長のホセ・マリア・バケーロの動きは活発だ。

 即戦力としての獲得になりそうなのが、アルバニア代表FWのレイ・マナイだろう。まだ22歳ながら、インテルやグラナダなど6チームを渡り歩き、今シーズンは2部のアルバセテで3得点を挙げている。バルサBはアレハンドロ・マルケス、アベル・ルイスの2人の9番タイプが不振で(ルイス・スアレスがケガにより今シーズンの復帰は絶望的となり、2人にはトップ昇格の可能性もある)、安部が1トップを務める状況だけに、ひとつのオプションとして期待される。

 もうひとりの即戦力候補が、21歳のブラジル人MFマテウス・ペレイラだろう。現在はユベントスからの期限付き移籍で、フランス1部ディジョンに在籍。左利きで、ボランチだけでなく、左サイドでもプレーできる。マルケスとの交換トレードになる可能性もあるという。

 そして西川と同じく有望な若手としては、アルゼンチン人CB、サンティアゴ・ラモス・ミンゴとの交渉も続けている。18歳の左利きで、バルサBのウルグアイ人CBセルヒオ・アラウホがトップに帯同した場合、補強は急務だ。所属先のボカ・ジュニアーズは引きとめに必死だが、『エル・ムンド・デポルティボ』紙は「ほぼ契約済み」と報じている。

 バルサの強化策は明らかである。

<バルサのプレー環境で逸材選手の能力を引き上げ、昇格を狙う。同時に、頭角を現した選手はトップチームへ。トップでは力が足りない選手も、市場価値を上げ、欧州の有力クラブに高く売り払う>

 バルサBの課題は、来月で28歳になるセルジ・ロベルト以降、下部組織出身の選手がトップに定着できていない点にあるだろう。

 すでにチャンピオンズリーグで活躍するホープ、ダニ・オルモは、下部組織からバルサBに昇格せず、ディナモ・ザグレブとプロ契約した。トップチームと連係が取れなくなったことで、逸材が流出し、底が抜け始めているのだ。

 そこで、あらためてバルサBを2部に引き上げ、選手に経験を積ませ、トップに引き上げるサイクルを作り直す必要がある。そのためには、補強が欠かせない。西川も、底上げを担うひとりになるはずだ。

 もっとも、西川はバルサ入団が決まっても、今年の夏までは日本でプレーし、来シーズンからのプレーになるのではないか。東京五輪代表に滑り込むにも、Jリーグでインパクトを与えることが一番の近道。昨年の久保のような大躍進を見せられるか。

 いずれにせよ、安部に続く”日本人2人目のバルサ選手誕生”まで、カウントダウンに入った。