2015年で50周年を迎えた大阪体育大学はこれから先の50年を考え、大学スポーツの在り方を追求する「DASHプロジェクト」を開始した。DASHとは、「Daitaidai Athlete Support & High Performance」…

2015年で50周年を迎えた大阪体育大学はこれから先の50年を考え、大学スポーツの在り方を追求する「DASHプロジェクト」を開始した。DASHとは、「Daitaidai Athlete Support & High Performance」の頭文字をとったものだ。大学が目指す新たな人材育成プロジェクトについて本校の教授を務める藤本淳也氏に話を伺った。

 

DASHプロジェクト創設のきっかけを教えていただけますか。

2年前に国立スポーツ科学センター(JISS)と味の素ナショナルトレーニングセンター(NTC)のセンター長を務めた経験のある岩上安孝先生が学長に就任したのが契機となりました。

大阪体育大学は1965年に開学し、昨年でちょうど50周年を迎えました。これまで多くの人材をスポーツ界に輩出してきましたが、これからの50年間の大学発展を考えるうえで、まず今後10年間のビジョンを立てるという方針が岩上学長から出され、私がビジョン策定委員会の委員長を任されました。

そして、この委員会で素案をまとめ、学内での意見交換会を重ねて策定した「大体大ビジョン2024」。その中核事業として位置づけ、10年後の本学のあるべき姿として描かれたのがDASHプロジェクトです。

大阪体育大学には、スポーツ科学の各分野で世界的に活躍する研究者が多くいます。近年、本学に採用された若い研究者もひじょうに優秀です。そして、これまでにそれぞれの運動部の依頼に応じる形で研究者が個人でチーム(運動部員)をサポートする事例と実績は多くありました。しかし、現在のトップアスリートやチームのサポートがそうであるように、複数のスポーツ科学分野の専門家が連携してアスリート個人をサポートするシステムは本学にはありませんでした。そこで、本学のスポーツ科学のすべての「力」を「アスリート」に結集するプロジェクトとしてDASHが発案されました。

これは、アスリートを研究者チームが支えてパフォーマンスを高めるとともに、ハイパフォーマンス研究や大学生アスリートのサポートの在り方を追求し、そのプロセスにおける実践と知識修得を通してアスリートとそのサポート人材を育成する仕組みです。

 

DASHプロジェクトでアスリートを育成していく利点はどこにあるのでしょうか。

まずは本学から世界で活躍する選手を輩出し、支えていくことを目指しています。しかし、本学がアスリートの育成を強化していく最大の利点は、このプロジェクトを通して本学が得意とする人材育成力がさらに強化そして加速できることです。

本学には大学院前期博士課程(修士課程)と後期博士課程(博士課程)があります。そして、学部にはスポーツ教育学科と健康・スポーツマネジメント学科がある体育学部、そして、小学校と中学校、特別支援の教育者を養成する教育学部があります。このプロジェクトが展開する学習、スポーツ科学、キャリア、ライフスキル・マネジメントなどのアスリートサポートプログラムには、研究者だけではなく各分野の大学院生や学部生が関わることができます。彼らはトップアスリート対象のハイパフォーマンス研究と様々なサポートの実践に学内で関わり、学ぶ機会ができるのです。

専門的な立場でアスリートと関わる経験は、大学院生や学部生が社会に出た後に大きく役立ちます。大学院生はクオリティの高い研究に早期に関わった経験を、学位取得後のキャリアに生かすことができます。また、体育教員やコーチを目指す学部生もその経験を持って学校教育やスポーツの現場に出ていくことができます。DASHプロジェクトは、アスリートを中心に多くの研究者、コーチ、教育者、そして様々なサポート人材の輩出にも繋がる仕組みとなります。

 

一方でアスリート側のメリットを教えていただけますでしょうか。

トップアスリートとして高みを目指していくためのサポートが約束されることです。スポーツ科学サポートについては、学内の研究者と本学スポーツ科学センターが協働し、各競技のコーチやサポートスタッフの支援、その体制づくりがおこなわれます。

学生アスリートに対しては、学習サポートやキャリアサポートもこれまで以上に充実して提供します。学生の本分は学業です。それが疎かになることがないように、例えば日本代表としての長期遠征時には、特別補講の実施やEラーニングでサポートしていくことを積極的に検討しています。そして、これまでにも多くのアスリートサポートの実績を積んでいる一般教養の研究者による個別の学習指導体制や監督・コーチとの関係もより強化していきます。

キャリアサポートは、これまでもキャリア支援センターが学生1人ひとりの志望進路に合わせたサポートを実施してきました。今後、特に競技力の高い学生アスリートは、希望進路先の企業や団体、大学院などとも連携を取りながら、卒業後の活躍を目指したキャリア支援を充実させていきます。そして、卒業後も所属先と連携しながら、継続して彼らのパフォーマンス向上を支援していきます。

DASHプロジェクトで支える学外トップアスリートのスポーツ科学データ、学生アスリートのスポーツ科学と学習、キャリア、ライフスキル・マネジメントのデータは、一元管理するシステムを構築中です。それらの情報は随時アップデートされ、情報を必要とする者が必要とする時に確認し、アスリートのサポートに活かせるようにします。特に、オリンピアンやパラリンピアンについてはJISSとの連携において情報を共有できるよう整備を目指しています。

 

日本では少子高齢化が進み、大学として次の世代の人材との取り組みも考えていられるのでしょうか。

はい、DASHプロジェクトはジュニア、ジュニアユース世代のアスリートとそのコーチのサポートにも力を入れていきます。

本学には、同じ敷地内に大阪体育大学浪商中学校・高等学校があり、優秀な中高生アスリートが学んでいます。しかし、これまでは大学の資産を中高生アスリートとそのコーチに結び付けることが出来ていませんでした。中高生アスリートを指導している先生方と共に中高大連携の強化を進めており、現在、中高生10人をDASH登録アスリートとしてサポートシステムの構築に入っています。

これは、人材育成にとっても重要な取り組みです。DASHは、ジュニア期からジュニアユース間のアスリート育成とパフォーマンス向上に関する研究を推進することができます。縦断的な研究データとパフォーマンスデータは、この世代の指導と研究の発展に不可欠です。そして、サポートと研究に関わった大学院生や学部生がこの世代のアスリートを育て、サポートしていく、という人材育成のモデルにしたい、と思っています。

それから、これはまだ個人的な思いではあるのですが、将来、中高齢者アスリートも視野に入れていきたいですね。例えば、中高齢者が自らスポーツ科学やトレーニング法を学び、練習できるような環境を学内に整備し、地元からマスターズ大会で日本記録や世界記録を出す選手がでてくる。そのプロセスに本学研究者や大学院生が関わり、研究成果をスポーツ界に公表していく。これも地域の拠点としての本学の使命のように思います。

文:新川諒