アン・シネ(29歳/韓国)の本気度が伝わってくる瞬間だった。 昨年末に行なわれた日本女子ツアーのクォリファイングトーナメント(QT)のファイナルステージ(12月3日~6日/埼玉県)において、アン・シネは最終日を「70」で回って、通算イ…

 アン・シネ(29歳/韓国)の本気度が伝わってくる瞬間だった。

 昨年末に行なわれた日本女子ツアーのクォリファイングトーナメント(QT)のファイナルステージ(12月3日~6日/埼玉県)において、アン・シネは最終日を「70」で回って、通算イーブンパーの25位でフィニッシュ。今季ツアーにおける第1回リランキング(7月末)までの出場権を手にしたのだ。

「とにかく、試合が終わるまで順位がわからなかったのですが、来年(2020年)は、ツアー前半戦の試合にはほぼ出られるということなので、すごくうれしいです!」

 自らの手でようやく勝ち取った日本ツアー出場権。QTを終えた直後、アン・シネは素直にその喜びを爆発させた。



QT25位となって、今季前半戦の出場権を得たアン・シネ

 韓国の”セクシークイーン”がやってくる――。

 そんなニュースによって、日本の女子ゴルフ界を賑わせたのは、2017年。タイトなウエアとミニスカートで男性ファンを魅了し、連日メディアを騒がせたのは、もう3年も前のことだ。

 当時は、週刊誌などのグラビアを飾り、写真集まで発売された。さらに、Yahoo!検索大賞 アスリート部門賞を受賞し、テレビのバラエティー番組にも数多く出演した。

 その際、彼女のゴルフに関して語られることはほとんどなかったが、アン・シネは「(女子プロゴルファーとして)プレーだけでなく、外見にも気を配り、”魅せる”こともプロフェッショナルの仕事」と強調し、嫌な顔を見せることはなかった。

 そうした状況のなか、彼女は日本でプレーすることにこだわった。韓国ツアーのシードを持たなかったこともあるが、彼女が選択したのは、母国ではなく、異国の地でのプレーだった。

 しかし、2017年シーズンは主催者推薦を含めて14試合に出場したが、シード獲得はならなかった。同年のQTも振るわず、翌2018年シーズンには、レギュラーツアー出場はわずか6試合にとどまった。

 その結果、シード獲得も叶わなかったが、同年のQTでは51位となり、2019年シーズンは21試合に出場した。ただ、その2019年シーズンも、ニッポンハムレディスの13位タイが最高位。予選落ち11試合(棄権1試合もあり)と、アン・シネがプレーで脚光を浴びることはなかった。

 ゴルフの調子も決していい状態にはなく、彼女は崖っぷちに追い込まれていた。しかも、昨年から日本女子プロ協会の会員でなければ、QTが受けられないようになった。そのため、アン・シネは日本のプロテスト受験を余儀なくされた。

 とはいえ、アン・シネは韓国ツアー3勝の実力者。メジャー大会(KLPGA選手権)も制している。今さら、プロテストを受けることには抵抗があったはずだ。実際、彼女はプロテスト受験に向けて、相当な迷いがあったという。

「プロテストを受けることについては、本当にどうしようか迷いました。ただ、QTもそうですが、私はもう、目の前のことに立ち向かっていかなければ、次がありません。ここを通過しないと、試合に出られなくなる――そうやって、追い詰められたことで、開き直ることができたというか、プレッシャーもなくなり、逆に気持ちが楽になりました」

 そして、アン・シネは、プロテストを15位タイで一発合格。そのまま、QT突破も決めた。

 プロテストやQTは、まさしく一発勝負の世界。「うまい」「強い」と言われる選手であっても、その時の調子次第では、結果を残せないことが多々ある。そういう意味では、彼女の底力をあらためて痛感させられた。

 また、10代や20代前半の選手が集うプロテストやQTにあって、そこで一緒にプレーするアン・シネからは、かつて華やかな場所にいた、という奢りやプライドは微塵も感じられなかった。自らが生きる場所を確保するために、ただがむしゃらに、ひたむきにプレー。結果、日本ツアー参戦3年目にして、初めてツアーの出場権を自力でつかむことができた。

「日本でのツアー生活は、とてもやりやすくて、ファンのみなさんも温かく、『もっとここにいたい』という気持ちが、年々強くなっていました。だからこそ、来年(2020年)も日本でプレーできることに喜びを感じています」

 2020年シーズンについての目標を聞くと、意外にも謙虚な答えが返ってきた。

「『目標を立てないこと』が目標です。何かを達成しようとして、そこを意識しすぎると、疲れが増して、失敗すると思うんです。出場する試合で、1試合、1試合ベストを尽くしていく。そこに、力を注ぎたいと思っています」

 プロテストを経て、QTで結果を残すまで、アン・シネは相当な苦労をしてきたのだろう。それが痛烈に伝わってくるほど、彼女の言葉は真摯であり、そこにはゴルフに対して真っすぐな気持ちが表れていた。

「来年(2020年)は、日本の試合にたくさん出られるので、ファンのみなさん、日本でたくさんお会いしましょう!」

 初のシード権獲得と、ツアー初優勝に向けて、ようやく準備が整ったアン・シネ。今季こそ、グリーン上で躍動する”セクシークイーン”の姿を堪能したい。