ビジョン策定委員長として、大阪体育大学が開始したDASHプロジェクトを統括する藤本淳也氏。前編では、DASHプロジェクト創設の背景を伺った。後編では、プロジェクトが目指す長期的なビジョン、そして大学スポーツの新たなモデルについて提言いただい…

ビジョン策定委員長として、大阪体育大学が開始したDASHプロジェクトを統括する藤本淳也氏。前編では、DASHプロジェクト創設の背景を伺った。後編では、プロジェクトが目指す長期的なビジョン、そして大学スポーツの新たなモデルについて提言いただいた。

 

DASHプロジェクトのモデルになった事例はありましたか。

1つはNCAA加盟大学のアスレティック・デパートメントです。その学生アスリートハンドブックを参考にしました。アメリカの大学スポーツはビジネス面が注目されますが、軸となる活動は学生アスリートの教育と管理です。彼らの成績は常にチェックされ、一定の成績を修められなかった学生は試合に出場できません。一方で、スポーツ科学、学習、ライフスキルなど、彼らをサポートする多くのプログラムが整っています。本学では、10年以上前から学習サポート、教職サポート、キャリアサポート、スポーツ科学サポートが存在し、それぞれ機能していました。これからは、DASHプロジェクトとして、よりシステマティックにサポートしていきます。

もう一つは、JISS(国立スポーツ科学センター)とNTC(味の素ナショナルトレーニングセンター)です。特に、JISSですね。スポーツ科学で世界レベルの選手やコーチを支えるその仕組みは、本学が目指すべきモデルそのものでした。本学にJISSと共同で研究やサポートをしている研究者が本学に複数いたこと、JISSの元研究員が本学教員にいたこと、日本のトップアスリートを育てたコーチが学内にたくさんいたことなども大きな要因でした。そして、2014年に岩上先生が学長に就任され、本学だからできる、本学が取り組むべき仕組みづくりのリーダーシップをとっていただいたことでこれ以上ない条件が整ったのです。

 

JSCとの提携により、DASHプロジェクトは官学の連携が取れた仕組みとしてスタートしていますが、今後は産との連携は考えていられるのでしょうか。

今は実績を作ってシステムを充実させていくことが第一ですが、2019年を目安にDASHプロジェクトを「DASHセンター」として組織化することを目指しています。そのプロセスにおいて実績を積み、成果を発表し、本学の価値を高めていくことによって、多くの企業とパートナーシップを結ぶことができればいいですね。共同研究、プログラムや製品の共同開発、人事交流、教育プログラム開発など、いろいろな可能性があると思います。もちろん、地域の拠点として自治体との連携もこれまで以上に強化したいと思います。

DASHのセンター化と外部機関との連携は、スポーツビジネス人材の育成にも繋げていきます。センター組織の運営、スポンサーの獲得、大学ブランドと学生アスリートブランドの創造とそのプロモーション業務、アスリートと地域活動業務などに学生と院生が関わる仕組みを作ります。本学には、スポーツマネジメント専攻の学生と院生がいます。トップアスリートやコーチに近い立ち位置でスポーツマーケティング・マネジメント関連業務を担うことで、スポーツビジネス人材としての力を培っていく機会となるでしょう。

 

DASHプロジェクトが目指すものとは。

繰り返しになりますが、人材育成です。プロジェクトの柱としてはアスリートを育て、ハイパフォーマンスを支えことです。しかし、目指すところはこのプロジェクトを通して、アスリート、コーチ、研究者、各分野のサポートスタッフ、地域の指導者などの人材を育成していくことです。F1レーシングカー開発とサポートで培った知識や技術、マインド、そして人材が市販車開発に落とし込まれ、消費者のニーズに合った車が市場に出ていくようなイメージです。DASHプロジェクトは、トップアスリートのサポートとハイパフォーマンス研究にかかわった人材が競技力の向上だけでなく、学校教育や地域の青少年・中高齢者の運動・スポーツでも活躍する、そんな役割を果たすことを目指しています。

もう1つは、大学スポーツの在り方を自ら問い、議論し、改善し、改革をけん引することです。特に、学生アスリートの教育です。競技力の高いアスリートたちを迎え入れている大学は、彼らが自主的に勉強できる環境を作り、社会に貢献する社会人に育てる責任があります。それが、大学スポーツの価値創造にもつながるのです。本学は、一般教養担当の教授が学生アスリートの修学を支援するシステムを構築し、成果を上げています。そして、すべての運動部の部長・監督を本学教授陣が務めることで、日ごろから学生アスリートの修学指導も行っています。DASHプロジェクトでは、一般教育担当教授、専門教育担当教授、運動部の顧問や監督、そして職員が一丸となって、学生アスリートと向き合い、未来のスポーツ界を創造する人材として送り出すことを目指していきます。

 

50年後を見据えて立ち上がったプロジェクトが目指す長期的なビジョンがあれば教えてください。

2016年3月、独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)と提携をさせていただきました。まずは、総合的な力を高めていくことでスポーツ振興とハイパフォーマンスの西の拠点としての役割を果たせる存在になれればと思っています。西日本にいるトップアスリートが本学で測定やトレーニングができ、データを共有する場を提供出来るように発展させます。

次に、アジアのスポーツ界も視野に入れながら発展を目指すことができれば、と考えています。本学は関西国際空港まで30分の場所にあります。すでにシンガポールから短期間でトレーニングにくるアスリートもいます。今後はアジアのスポーツ界の発展に貢献できる存在になりたいですね。

そして、50年後。生徒、学生、院生、研究者、教員、職員、卒業生など、DASHに関わり、DASHで育った人材が、スポーツのあらゆる分野で活躍し、日本そして世界のスポーツを支えている、そんなビジョンを思い描いています。開学から50年間、本学は多くの人材をスポーツ界に輩出してきた実績があります。DASHは次の50年間、学内の充実と学外との連携によって、それをさらに加速できるシステムになると思います。

 

そのビジョンにおける藤本先生の役割はなんでしょうか。

ひとつは、大学ブランドと学生アスリートブランドの構築と管理です。私の専門はスポーツマーケティング・マネジメントです。この分野の研究者、大学院生、学部生と共に研究と実践で取り組み、人材育成につなげたいと思います。

もうひとつは、ビジョンとDASHプロジェクト推進のためのシステム作りですね。その第一歩として、スポーツ界での実務経験の豊富な人材をDASH担当ディレクターとして迎えました。彼は、本学大学院スポーツマネジメント分野の修了生で、巣立って、活躍して、帰ってきてくれました。彼を中心に実効性のあるシステムづくりを目指したいと思います。

そして、私の役割というよりも私の世代の役割として、DASHプロジェクトを軸に次の世代にいい形で本学の発展を引き継ぎたいですね。開学50年を振り返ってもみても、体育・スポーツ界のあるべき姿を教職員が一丸となって追求し、進むことができるのが本学の強み。「DASHプロジェクト」を軸に「大体大ビジョン2024」を推進していきます。

文:新川諒