文=鈴木健一郎 写真=鈴木栄一JX-ENEOSに大敗した後も「勝てないわけじゃない」皇后杯のファイナルラウンドでも、圧倒的な強さで優勝まで駆け上がったJX-ENEOSサンフラワーズ。勝ち続けてもなお勝利に貪欲で、ここ数年を見ても大崎佑圭の引…

文=鈴木健一郎 写真=鈴木栄一

JX-ENEOSに大敗した後も「勝てないわけじゃない」

皇后杯のファイナルラウンドでも、圧倒的な強さで優勝まで駆け上がったJX-ENEOSサンフラワーズ。勝ち続けてもなお勝利に貪欲で、ここ数年を見ても大崎佑圭の引退、渡嘉敷来夢のWNBA挑戦、吉田亜沙美の引退と復帰と、主力選手がチームでの活動に100%入り込めない状況がありながらも勝ち続け、その間に若手が台頭している。Wリーグで11連覇、皇后杯はこれで7連覇となったが、その『1強時代』はまだまだ続きそうだ。

そんな『女王』を倒す1番手は、代表経験者も才能ある若手も擁するトヨタ自動車アンテロープスだろう。だが、そのトヨタ自動車は皇后杯の準決勝でJX-ENEOSに48-82と大敗した。

第1クォーターこそインサイドの主導権を明け渡さないタフなディフェンスでJX-ENEOSを苦しめたが、得点が伸びない。我慢比べの展開の中で、先に集中が途切れたのはトヨタ自動車だった。渡嘉敷に連続得点を許したところからディフェンスで踏ん張れなくなり、一気に試合の流れを持っていかれた。

桜花学園から加入して3年目を迎えた馬瓜ステファニーは、ここに来てプレータイムを伸ばして主力の一人に定着しつつある。この試合でもフットワークとウイングスパンを生かし、JX-ENEOSのエース宮澤夕貴にシュートチャンスを与えず、また鋭いヘルプでインサイドのディフェンスも助けた。

「ディフェンスは効いていましたが、守れているのに点が取れないので焦ってしまいました。今までやってきたことを出すだけでいいのに、相手に合わせてしまった部分が多かったと思います」と、ステファニーは試合展開を振り返る。

いまやトヨタ自動車に限らず、選手の大多数がJX-ENEOSの優勝しか見たことがないという状況、どうやれば『女王』を倒せるのか──。それでも、まだ21歳のステファニーはJX-ENEOSをリスペクトしていても恐れてはいない。「結局は気持ちの部分で、勝てないわけじゃないと思っています」と、大敗に終わった試合の直後にもかかわらず淡々と言う。

「負けるかもしれないって自分たちが勝手に思ってしまったり、勝ちたい気持ちが出すぎて前のめりになったり。心のどこかにそういうものがあって、そこに付け込まれるんじゃないかと思います。ここ『あの人に勝ちたい』って思うんじゃなくチームでもっと一つになって戦うことができれば勝てると思っています」

「ディフェンスとリバウンドをやるんだ」

良くも悪くも物怖じせず、相手に飲まれることのないステファニーは、『日本のエース』へと成長した宮澤に対しても激しく粘り強くディフェンスするし、その激しいディフェンスから良い形でオフェンスへと転じるプレーも多々見られる。タレント揃いのトヨタ自動車にあって、ここに来てプレータイムが伸びているのもうなずける。

「プレータイムはもらっていますが、他の選手に比べると貢献はまだ違うと思っています。オフェンスにはあまりかかわっていないので。でも、ディフェンスを買われてエブリンと交代で出させてもらっているので、そこは責任を持ってプレーするようにしています。その点で役割が明確になり、迷いなくプレーできているのが、入った頃と比べての成長です」

桜花学園では3冠を達成し、鳴り物入りでトヨタ自動車に加入した。高校のスター選手であることに加え、姉のエブリンがすでに日本代表に定着していたことで、期待も大きかった。それでもオールラウンドな能力を持つことが逆にマイナスとなって、コート上で迷いが出て最初はプレータイムが伸びなかった。

「1年目は毎日を過ごすのでいっぱいいっぱいで、何をすべきか考える暇もなかった感じです。2年目になって、ようやく自分のやることに目を向けて、ディフェンスとリバウンドをやるんだということが明確になって、『これが自分の仕事だ』、『この部分では絶対に負けない』と意識するようになりました。今ようやくそこにオフェンスがついて来るようになってきているので、そこも極めて自分の成長にしたいと思うようになっています」

「日本に3x3をもっと浸透させていく」

JX-ENEOSでセンターを務める梅沢カディシャ樹奈は桜花学園の同級生。「試合が始まる前に、絶対にやめてね、打たないでね、とかめっちゃしゃべりました(笑)」という梅沢との対戦が、ステファニーには刺激になっている。「お互いチームに入って変わった部分がすごくあります。樹奈も桜花の時はパワーはあったけどフィニッシュは苦手だったのに、今はゴール下がすごく上手くなったしメンタルも強い選手になりました。自分もムーブの中で動くとか、高校時代にはなかったプレーをするようになっているので、そんな新しい自分たちが戦うのはすごく楽しいです」

梅沢は『女王』JX-ENEOSで経験は浅いながらも先発を務めてメキメキと力をつけている。ステファニーは5人制と3人制の代表に呼ばれており、特に3人制ではエースと呼んでもいい立場になりつつある。今回も皇后杯が終わればナショナルトレーニングセンターへと向かい、3x3日本代表の強化合宿に加わっている。

「3x3は東京オリンピック予選まであと2カ月しかないし、それまでに合宿をたくさんやれるわけでもないので、まず自分が今いる状況の中で何ができるか、何をすべきかを考えて次の行動をしなければいけないです。まずは予選突破ですが、オリンピックに出るとなれば日本に3x3をもっと浸透させていくことも大事になります」

過密スケジュールが続くが、「慣れたって言い方はおかしいけど、呼んでもらえること自体がすごくありがたい」とステファニーは言う。「私たちWリーグでやっている選手は後から3x3に入って来たわけでもあるし、応援してくれる皆さんのためにという気持ちもあるし、いろんな人の思いを背負いながら合宿でも大会でもプレーしています」

「3x3も5人制も、自分の仕事はリバウンドとディフェンスです。誰が相手でもその部分では負けずに頑張りたい」。桜花学園では井上眞一監督が「今までで一番ちゃらんぽらんなキャプテン」と手を焼いたステファニーだが、精神的にも大きく成長し、2020年の主役になるかもしれない。伸び盛りの彼女がこの1年でどれだけステップアップするのか楽しみだ。