東海大・駅伝戦記 第79回 箱根駅伝で連覇を目指した東海大だったが、残念ながら総合2位に終わった。青学大の強さが際立ち、3分02秒もの差をつけられた現実は厳しく、王座奪還は容易ではない。来年の箱根に向けて新たなチームづくりを進めつつ、強化の…

東海大・駅伝戦記 第79回

 箱根駅伝で連覇を目指した東海大だったが、残念ながら総合2位に終わった。青学大の強さが際立ち、3分02秒もの差をつけられた現実は厳しく、王座奪還は容易ではない。来年の箱根に向けて新たなチームづくりを進めつつ、強化の見直しも考えていかなければならないだろう。



箱根駅伝で1区の鬼塚翔太(写真左)から襷を受け取る2区の塩澤稀夕

 昨年、東海大が優勝したタイムは10時間52分9秒で、今回の青学大は10時間45分23秒だ。わずか1年で6分46秒も短縮された。単純に来年も大幅に短縮されるかどうかはわからないが、このまま超高速化が進めば、一気に10時間40分前後になる可能性もある。

 もはやアベレージの駅伝は通用せず、序盤から突っ込んでそのまま勢いで押す、いわば「リミットフリー」の駅伝になるだろう。

 選手の消耗度は非常に激しくなるので、スピードを磨きつつ、距離を踏むという、どちらも高次元でミックスしていかないと戦えなくなる。そのため従来の練習カリキュラムを変更するなど、見直しが必要になってくる。

 すでに両角速監督のなかには構想があり、これからスタッフとミーティングして対策を練るという。もともと優勝の方程式をつくらない主義なので、より斬新な取り組みが見られるはずだ。

 チームづくりで言えば、黄金世代と呼ばれた4年生が抜けることになる。今回の箱根でも10区間のうち6区間を4年生が走り、6区の館澤亨次と8区の小松陽平は区間賞を獲得した。

 彼らはレースだけでなく、普段の練習でも下級生たちを引っ張ってきた。能力が高い彼らと一緒に走ることで、普段の練習から質の高いトレーニングが可能になり、その日々の積み重ねが下級生の成長につながった。また、競技への姿勢や取り組みにも大きな影響を与え、松崎咲人(1年)も阪口竜平から多くのことを学んだという。

 大きな影響力を及ぼした世代が抜けると、一時的に喪失感が生まれそうだが、戦力に関しては思ったほど心配なさそうだ。

 昨年の出雲駅伝、全日本大学駅伝という2つの駅伝において、中心となっていたのは塩澤稀夕、西田壮志、名取燎太の”3年生トリオ”と2年生の市村朋樹だった。当然、新チームでも3年生の”黄金トリオ”が軸になる。

 とりわけ期待がかかるのが塩澤だ。

 塩澤にとって、2019年は飛躍の1年となった。出雲、全日本、箱根の3大駅伝すべてを走り、ケガなくシーズンを終えることができた。箱根では2区を任され、設定タイムを大幅に超える走りを見せた。だが、初めて走ったことで、逆に箱根の怖さを知ったという。

「2区はつなぐことが大事だと言われていたので、気負いすぎず、ほかの選手との差も意識しすぎず、自分の力を出し切ってつなげればいいと思っていました。(1区の)鬼塚(翔太/4年)さんから襷をもらった位置がすごくよかったので、気持ちよく走ることができました。ただ、初めて箱根を走って、思っていたとおりに進まないのが箱根駅伝なんだということがよくわかりました」

 その経験を踏まえて、自らチームを牽引していくことになるが、不安はなく、むしろ新しいカラーのチームをつくりたいと意欲的だ。

「負けてしまったことは悔しいですけど、連覇して、またすごい注目を浴びながら走るよりはチャレンジャーとして戦っていけるし、気負わずに走ることができると思うんです。それに黄金世代がいなくなるので、ここから1年で成長した選手を使うしかなくなります。実績の少ない選手ばかりですが、この1年で大きく成長すると思うし、それを期待しながら練習していきたい。

 新しいチームにガラリと変わりますが、来年の箱根は自分と名取、西田が頑張って区間新で区間賞を獲るぐらいの走りができれば、相乗効果で今年の青学のように初めて箱根を走る選手が区間新を出すようなチームをつくり上げることができるんじゃないかと思います」

 今回、他大学では岸本大紀(青学大)、田澤廉(駒澤大)といった怪物級の1年生が出てきた。東海大もこの春に入学してくる新1年生への期待はあるが、これまでいたメンバーも黙っていない。

 鈴木雄太(3年)は「次は絶対に自分が走る」と決意を新たにし、米田智哉(3年)も気持ちは同じだ。また竹村拓真(1年)は、来年、西田の区間配置によっては山上りの5区を担当する可能性もある。今回、エントリーされながらも箱根を走れなかった選手たちは、順調に伸びていけば、来年の箱根メンバーの最有力候補である。

 また、今回エントリーされなかったが、可能性のある1年生がいる。ひとりは飯澤千翔だ。

 飯澤は1500mのスペシャリストでロングは未知数だが、距離を踏んで箱根に絡んでくると面白い。スピードのある選手なので、メドが立てば7区、8区あたりで起用できる。

 もうひとりは金澤有真で、練習の消化率がよく、秋シーズンは好調を維持していた。このまま順調に成長していけば、間違いなく次の箱根は狙えるはずだ。今シーズン、3年生を筆頭に下級生が4年生を突き上げてチームを活性化させたように、上級生に刺激を与える下級生の存在は絶対に必要だ。

 そういう意味で、今回箱根を経験した松崎はその筆頭になるだろう。

「今回、阪口さんや中島(怜利)さんとか力のある選手がいるのに、僕が箱根を走らせてもらった。なんとしても、その経験を生かしたい。今、塩澤さんや名取さんが注目されていますが、先輩たちに勝っていけるようなイメージで練習していけばいいと思っています」

 今回、箱根を経験し、実績を残した。これをステップに飛躍できれば、エースになる可能性は十分にある。

 箱根を経験した選手は「もっと」と気持ちをたぎらせ、箱根を走れなかった選手たちは「次こそは」と意欲を燃やしている。だが、未知数な彼らがどのくらい本気になって練習に励み、結果を出し、箱根の椅子を取りにくるのか。王者・青学大に勝つには、相当な覚悟が必要になる。

 はたして、塩澤ら”黄金トリオ”に続く選手がどれだけ出てくるのか。新戦力の台頭と新たな強化の確立が、王座奪還の両輪になる。