【月刊・白鵬】2020年・特別編(後編)現役の横綱として、2020年東京五輪を迎えることを、大きな「夢」として、今年も年明けから日々精進している白鵬。あらためて昨年の出来事を振り返りつつ、現在の心境を語る--。精力的に稽古をこなす横綱・白鵬…

【月刊・白鵬】2020年・特別編(後編)

現役の横綱として、2020年東京五輪を迎えることを、
大きな「夢」として、今年も年明けから日々精進している白鵬。
あらためて昨年の出来事を振り返りつつ、現在の心境を語る--。



精力的に稽古をこなす横綱・白鵬の挑戦は続いていく

 昨年はケガに泣いた1年でありましたが、いいこともたくさんありました。

 9月には、申請していた日本への帰化が認められて、私はモンゴル人「ムンフバト・ダワージャルガル」から、日本人「白鵬翔」になったのです。

 私はかねてから、将来は相撲協会の親方になって、弟子を育ててみたいという夢を持っていました。親方になるためには、日本国籍を取得しなければいけませんから、晴れて日本人になれて、とてもうれしく思っています。

 ただ、これは決して簡単なことではありませんでした。モンゴル人力士の先駆者である旭天鵬関(現・友綱親方)は、2005年に日本に帰化されましたが、その時も、モンゴル国内では批判の声が上がりましたからね。

 旭天鵬関ご本人は、母国を捨てるとか、そういうことではなく、将来を見据えての決断だったのですが、なかなか周囲の人たちには理解してもらえなかったようです。

 そういうこともあって、私もいろいろと悩みましたが、亡くなった父も、最終的には私の思いに賛同してくれました。日本人になることへの迷いはありませんでしたから、本当によかったと思っています。

 ともあれ、モンゴルと日本--2つの祖国を持つ意義はとてつもなく大きいものだと思っていますし、「どちらの国にも迷惑をかけない生き方をしなければいけない」と、あらためて気持ちが引き締まりました。

 その後、秋場所(9月場所)を迎えて、その初日には、太刀持ち・炎鵬、露払い・石浦を従えての横綱土俵入りを、両国国技館で行なうことができました。念願叶って……というのは、まさにこういうことなんでしょうね。その際は、とても感慨深かったです。

 しかし、その初日の取組で、私は北勝富士に寄り切りで敗れてしまいました。場所前から何となく右手小指に違和感を覚えていたのですが、検査の結果、まさかの骨折と判明。2日目からの休場を余儀なくされてしまったのです。無念ながら、同部屋の力士を従えての”自前の土俵入り”も、わずか1日だけで終わってしまいました。

 敗戦、休場は、かなりショックでした。ただ、年齢を重ねるということは、こういうことなのかもしれません。思わぬケガや、予期せぬことが起こりやすいというか……。

 そうしたこともあって、私は昨年から新しい治療法にチャレンジしてきました。春場所(3月場所)で上腕筋を痛めた時もそうでしたが、「再生治療」と言って、自分の血液を採取して、それを痛めた部分に注入する治療を行なっています。

 それが、私の体には合っているようで、上腕筋を痛めた時は「もう治らないかもしれない……」と思って落ち込んでいましたが、その治療によって完治。新たなチャレンジは、吉と出ました。

 おかげで、右手小指の骨折も早々に回復し、私は9月末には九州場所(11月場所)に向けて再始動。いつまでも休んでばかりはいられませんからね。

 そうして、10月の秋巡業は皆勤。各地でいろいろな人たちと触れ合うことができ、多くのファンから生の声を聞かせてもらって、大いに刺激を受けました。とても楽しく、充実した時間を過ごすことができて、休場続きの私にも、ファンの方々は温かい声援を送ってくださいました。そんなファンのためにも、九州場所では絶対に優勝しなければいけない、と気持ちを新たにしました。

 また、2018年の九州場所、私は全休でした。九州のファンのみなさんにお会いするのは2年ぶり、ということもあって、余計に気合が入っていましたね。

 その結果、九州場所では2日目に黒星を喫したものの、以降は順調に白星を重ねて、14日目に優勝を決めることができました。

「手術して、病院のベッドにいる頃には、もうこういう場に立てないんじゃないかと不安でした。(だから、優勝できて)最高です!」

 優勝インタビューで、私はそう語りました。令和元年の締めの場所で、最高の形で復活することができて、本当に胸がいっぱいでした。

 さらに、横綱土俵入りを務めている2人の弟子、炎鵬(8勝7敗)と石浦(9勝6敗)もそろって勝ち越し。千秋楽の夜は、久しぶりに美味しいお酒を飲むことができました。

 体にさまざまな不安を抱えながらも、私が前進できるのは「(将来ある)若手力士の”壁”になってやろう」という強い思いがあるからです。

 実際、関脇・朝乃山、小結・阿炎など、次の大関、横綱を狙える逸材が次々に頭角を現しています。とくに、昨年の夏場所(5月場所)で平幕優勝を果たした朝乃山のことは、2年前から注目していました。

 というのも、私と相撲の型が似ているんですよね。貪欲に稽古して、上を目指していってほしいと思います。

 さて、いよいよ初場所(1月場所)が始まります。前頭5枚目と番付を上げた炎鵬の活躍も楽しみですが、私も万全の態勢が整っています。横綱として、その仕事を全うしたいと思います。

 その後、2月には私の主催している少年相撲大会『白鵬杯』が開催されます。今年で10回目を迎えるこの大会は、日本のみならず、相撲を愛する少年たちが世界各国からやって来て、熱戦を繰り広げます。彼らの一生懸命な姿には、いつも心を打たれます。

 幕内の阿武咲のように、この大会に出場した少年が成長。幕内の土俵で活躍していることは、本当にうれしい限りです。

 そうした少年たちの「夢」を育む手伝いが少しでもできればと思っていますが、彼らに負けず、私もたくさんの「夢」を抱いて、これからも前へ、前へと突き進んでいきたいと思っています。