「自分ではじいたところを、(相手に)つめられているので、あれは忘れられないですね。(得点を決めた)ドウグラスがスタンドに飛び込んでいく姿や、GKの上福元(直人)や選手たちが抱き合っている姿。そのシーンは頭から離れませんでしたよ」 横浜FCの…

「自分ではじいたところを、(相手に)つめられているので、あれは忘れられないですね。(得点を決めた)ドウグラスがスタンドに飛び込んでいく姿や、GKの上福元(直人)や選手たちが抱き合っている姿。そのシーンは頭から離れませんでしたよ」

 横浜FCのGK南雄太(40歳)はそう言って、2018年シーズンのプレーオフを振り返っている

 横浜FCはこの年、3位で昇格プレーオフに進出。東京ヴェルディを相手に、引き分けでも次ラウンドに進むことができた。だが、アディショナルタイム6分だった。コーナーキックを、ゴール前に上がっていた敵GKに合わせられ、そのこぼれ球をFWに押し込まれて、失点を喫した。

「今シーズン(2019年シーズン)も、ことあるごとに思い出しました。とくに序盤は、呪いのようにアディショナルタイムに失点していたので。ヴェルディ戦から始まったトラウマだなって」

 南は自嘲気味に笑い、こう続けた。

「(最終節で愛媛FCに)勝った瞬間、昇格が決まって、すべて払拭できた気がしました。もしあのままだったら、引退しても覚えていたでしょうね。間違いなく」

 昇格には人生を左右するだけのドラマがあるのだ。



最終節で愛媛FCを破り、J1昇格を決めた横浜FCの南雄太

 2019シーズンの横浜FCは苦難のスタートを切った。第13節まで4勝3分け6敗と負け越し。昨シーズンからチームを率いていたブラジル人監督、タヴァレスは成績不振で解任されることになった。

 下平隆宏監督が就任してからは、徐々にチームの調子は上向いた。自由で放任に近い指導から、相手のプレーを研究したうえでのトレーニングに変更。ウィークデーは相手の戦いに応じ、丁寧にラインを設定し、徹底的にポジションを確認した。

 チームはポゼッションにかじを切ったが、ビルドアップの練習は緻密だった。相手の陣形が1トップ2シャドーか、2トップか、そしてどのようにプレスするかを想定。それを回避するべく、ボールを動かした。そのトレーニングを重ねるなか、お互いの距離感がよくなって、ポジション的優位を取れるようにもなったのだ。

「(中盤まで)クリアに入れ」

 下平監督はそう繰り返したという。場当たり的でなく、ロジカルに相手の前線のプレスを回避。相手のラインを越えるトレーニングを積んだ。

 すると6月29日、第20節のファジアーノ岡山戦からは破竹の7連勝。一時はプレーオフ圏外にいたが、上位に浮上した。

「7連勝した時くらいから、いいサイクルに入っているな、と思いました。やっていることを選手が信じられるようになった。下さん(下平監督)が言ったことがよく当たるので。それで結果が出ると自信になるし、それで勝って、また自信を深めて。その繰り返しでしたね」

 南はそう言って変化を説明している。

 7連勝後も、横浜FCは10試合負けていない。ただ、5つの引き分けを挟んでおり、勝ち切れない試合も続いた。周囲では不安の声も出たが、昨シーズンを知る守護神は動じていなかった。

「自分は引き分けをポジティブに考えていました」

 南は言う。

「長いシーズン、悪い時期は必ずあるから、悪いなりに勝ち点を取れているのは大きいと思っていました。やっぱり、負けないのは大きい。勝ち点1が最後に重みになってくるはず、と思っていました」

 ただし、第34節のFC岐阜戦でアディショナルタイムに追いつかれたあとは、選手同士でとことん話し合ったと言う。昨シーズンのプレーオフでも、チームは引き分けでも十分な状況にもかかわらず攻めに出て、そのたびにボールを奪われ、攻め込まれた。結果、失点して敗れたのだ。

「(昨シーズンのプレーオフで)高い授業料を払った、と思っていたので、それでやられるのはおかしいと、ジリジリしていました。後ろから見ていると、ボールを持ったら無理に攻めず、動かすだけでもいいのに、と。ただ、前の選手は『シュートまでいきたい』という考えもあったようで、そこでとことん話し合えたのはよかったですね」

 台風の影響で延期になった第37節の京都サンガ戦こそ、連戦を強いられて3-0と大敗したものの、チームは力強く攻勢に出た。その後は5連勝の快進撃。攻守のバランスが改善され、この間の失点はわずか1だった。

「後ろで守っていて、やられる気がしませんでした。いくら集中しても最後にやられる感じがあったのに、不思議ですね。自信を持って戦えるようになっていました」

 2位争いをしていた大宮アルディージャが下位に取りこぼし、間隙を縫うように単独2位に躍り出た。そのままフィニッシュし、昨シーズンの無念を晴らすことになった。2020年は13年ぶりのJ1となる。

「自分にとっても11年ぶりのJ1で、展望どころではありません」

 南はそう言って快活に笑う。

「残留するのは大変なことだと思いますよ。補強もあると思いますが、まずは在籍する選手がJ1の選手として切り替わらないといけない。メンタルの変化から、すべての水準を上げられるように。今シーズンの大分トリニータのように、J2で勝ち続けてきた勢いを出せれば……」

 南にとっては2009年以来のJ1となる。40歳でレギュラーとして光射す舞台に戻る。それは人生の華となる。