蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.75 サッカーの試合実況で日本随一のキャリアを持つ倉敷保雄、サ…
蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.75
サッカーの試合実況で日本随一のキャリアを持つ倉敷保雄、サッカージャーナリスト、サッカー中継の解説者として長年フットボールシーンを取材し続ける中山淳、スペインでの取材経験を活かし、現地情報、試合分析に定評のある小澤一郎――。この企画では、経験豊富な達人3人が語り合います。今回は、今季のチャンピオンズリーグ(CL)のグループステージ総括を行ないます。

チャンピオンズリーグはベスト16が出そろい、2月から決勝トーナメントが行なわれる
――今季のCLは、2月18日から再開するラウンド16の対戦カードが決定しました。そこで今回は、お三方に注目カードのプレビューをお願いしたいと思います。まずはその前段階として、日本人選手の活躍を含めた今季のグループステージを総括していただけますか?
<グループステージは5大リーグクラブの
ラウンド16独占という結果に>
倉敷 ラウンド16に勝ち上がったのは、イングランド勢とスペイン勢が4チーム、イタリア勢とドイツ勢が3チームずつ、そしてフランス勢が2チームですから、現在のフォーマットになって初めて5大リーグのクラブが独占したわけです。極めて順当な結果といえそうですね。
中山 昨季はアヤックス(オランダ)とポルト(ポルトガル)、一昨季はポルト、バーゼル(スイス)、シャフタール(ウクライナ)、ベシクタシュ(トルコ)などが16強入りしていたことを考えると、年々地域格差が広がってきた印象です。とくに近年はイングランド勢が完全復活して、今季と昨季は4チームが、一昨季は5チームも勝ち残っています。今季の場合は大方の予想どおりの展開で、敗退した有力チームはアヤックスとインテルの2チームくらいでしょう。
倉敷 アヤックスは10ポイントも獲得したのに(笑)。昨季はホームで抜群の強さを誇っていたのに、今季はホームで2敗。これが痛かったですね。このチームは決定力がないので、たくさんチャンスをつくってそのうちのいくつかを決める必要があるわけですが、ダヴィド・ネレスとドゥシャン・タディッチがノーゴールに終わったことも敗因のひとつでしょう。
ゴール前の最終的な仕事ばかりでなく、最終的に状況を見極める選手にも欠けました。たとえばラセ・シェーネ(ジェノア/イタリア)であり、フレンキー・デ・ヨング(バルセロナ/スペイン)であり、マタイス・デ・リフト(ユベントス/イタリア)ですね。キャプテンに相応しい3選手を移籍で手放した今季は、経験値で言えば昨季よりマイナスだったかもしれません。
小澤さんは今季のグループステージをどのように見ていますか?
小澤 全体的に、最近のCLはクラブの年間予算がそのままラウンド16に反映されるような格差の時代に突入していて、トップクラブからスーパーリーグ構想の圧力をかけられるなか、UEFA(ヨーロッパサッカー連盟)も現状を受け入れるしかないのだと思います。そういう意味では、分配金のことも含め、近年のCLは少しいびつな形になっていて、今季はそれが明確になった印象ですし、実質的に今のフォーマットでも欧州のメガクラブが構想するスーパーリーグ化が実現してしまったように見受けられます。
倉敷 できるだけ広い地域のクラブが出場できるようにCLを改革したのは、ミシェル・プラティニ前UEFA会長の時代でしたね。しばらくはそれほど大きくないクラブにもチャンスがありましたが、結局ぐるりと巡って、結果的に小澤さんがおっしゃったスーパーリーグ構想に近い形になりました。
中山 プラティニが改革に着手した時代のCLは、西ヨーロッパのマーケットだけではスポンサー収入が頭打ちになっていたことと、ちょうどロシアを中心とする東ヨーロッパの経済成長が著しかった背景もあって、そこに目をつけて新たなスポンサー獲得と広い地域でのファン拡大を狙ってレギュレーション改革に踏み切りました。プラティニにとっては、それによって会長選挙の票集めにもつながりますしね。
ただ、近年はその東ヨーロッパ経済の資源バブルも終わってしまい、さらに世界経済そのものが一極集中型になったことで格差はますます拡大してしまいました。サッカーのビッグクラブは、超お金持ちたちにとって絶好の投資対象でもあるので、結局、サッカー界も超格差社会の映し鏡のようになっている気がします。
2021年から開幕する予定の「UEFAヨーロッパリーグ2」も、UEFAがクラブ間格差のバランスをとるために無理やりつくった印象がありますし、アレクサンデル・チェフェリン現UEFA会長は難しいかじ取りを強いられていますよね。
倉敷 時代が変化するのは常ですが、今回はとくに種をまいた段階で予測した近未来とは違ってきました。お金先にありきはよくない。2022年のカタールW杯もそうですが、いろいろなことを早く決めすぎている気がします。未来予想図を描くのがとても難しい時代です。
小澤 現行フォーマットで言うと、昨季から主要リーグは国内リーグ戦の4位のチームまでが本戦にストレートインするようになったので、その影響も大きいと思います。有力クラブがプレーオフで敗退するようなケースが減りましたし、主要リーグ勢は本戦のベスト16入りを果たす確率が確実に上がりました。
中山 そもそもこのフォーマット自体は、プラティニがFIFAゲート(汚職事件)で失脚し、会長不在の間にヨーロッパクラブ連盟が自分たちの意見をUEFAの新会長が決まる前に通してしまった。そのあとに会長になったチェフェリンは、それを受け入れるしかありませんでした。ある意味、大きなクラブにとっては思惑どおりの流れになっていますよね。
倉敷 現行フォーマットでやってもこの状態ならばスーパーリーグにする必要はないでしょう。もはやスーパーリーグの状態です。3大リーグに4席が確保されている現行フォーマットのままでいいのではないでしょうか。
中山 少し前に話題になったのが、新しいフォーマットでは週末にCLを開催する案が、UEFA内で議論されているというニュースでした。もちろん各リーグは反対していますが、現在の流れからすると、UEFAはスーパーリーグ構想に対抗するためにCLの週末開催に踏み切るのではないかと見ています。でも、国内リーグ戦の伝統が壊れてしまうのは、個人的には疑問に感じます。週末にリーグ戦を見に行く人々の生活習慣は、クラブの大小にかかわらず、深く根付いているものですから。
<ビッグクラブのサッカーが守備を強化し
カウンターも使えるようになっている>
小澤 最近のサッカーの中身で見ても、ヨーロッパ内での底上げが急速に広がってきていて、CL本戦に出場するクラブは自国リーグの上位チームなので、ほとんどのチームが「ポジショナルプレー」と言われるようなサッカーをしています。
逆に、それらの各リーグの上位チームがCLを戦うときは、自分たちよりも明らかに格上の相手に対してジャイアントキリングを狙うようなサッカーができない。ガラタサライなどがいい例ですが、普段の国内リーグでは攻撃的に戦うチームが、急にCLで守備的に戦えないのだと思います。
今季では、ザルツブルク(オーストリア)やスラヴィア・プラハ(チェコ)のサッカーは、それでも見ていて面白かった印象はありますが、それ以外のオリンピアコス(ギリシャ)、ベンフィカ(ポルトガル)といったチームは期待はずれのサッカーと結果でした。ヨーロッパ全体としてサッカーのレベルは上がっていると思いますけど、CLの舞台では格差が広がって見えてしまうのは、サッカーの質的均衡化にも原因があるのではないでしょうか。
倉敷 そうなってくると、CLを見る楽しみは新しい戦術の進化を見ることや野心を持った監督の登場あたりに絞られそうですね。負けてしまいましたが、アヤックスのエリック・テン・ハーグ監督が見せた、9人になってからの戦い方はとても面白かったです(4節チェルシー/イングランド戦)。バルセロナでもない、バイエルン(ドイツ)でもない、一体どのクラブの系譜を継ぐ指導者なのかな、と思いながら見ていました。
個人的にはジョゼ・モウリーニョがそうだったように、自身のプロモーション力に長けた監督に大暴れしてほしいと期待しています。ポルトの時代から売り出したモウリーニョは追いかけて見るのが面白かった。今季はスパーズ(トッテナム/イングランド)の監督になりましたから、CLでもまた彼らしい話題を提供してくれるに違いありません。
小澤 そうですね。それと、もうひとつ最近の傾向だと、優勝候補に挙がるようなビッグクラブのサッカーが、守備の強度も高くてカウンターも狙えるスタイルに進化していることも、中小クラブが勝てなくなっている原因のひとつだと感じます。リバプール(イングランド)、バイエルン、ユベントス、マンチェスター・シティ(イングランド)、パリ・サンジェルマン(フランス)などは、格下がやるような堅守速攻型のカウンターもできてしまいます。
逆に、それで勝っていたディエゴ・シメオネのアトレティコ・マドリード(スペイン)などは、そこで違いを生み出せなくなってしまい、グループステージではユーベ相手に手も足も出ないような完敗を喫してしまいました。そのほか、ドイツ勢ではドルトムントやレバークーゼンなどは監督がボールを握るサッカーを好むため、同じような現象で苦戦していた印象です。
倉敷 バルサとドルトムントと同じグループだったインテル(イタリア)の敗退にも触れておきたいですね。アントニオ・コンテという類稀な能力を持つ監督が就任し、国内リーグでも開幕から入場者数が激増していた。人気も注目度も高かっただけに、ここでの敗退にはフロントもがっくり肩を落としているでしょう。
中山 最終節で1.5軍のバルサに負けてしまったことが誤算でしたね。ただ、実力的には2位ドルトムントとの差は感じませんでした。
倉敷 実力差はほとんどないでしょう。あと少し選手層が厚くなれば来季はいけるかな? と期待できます。今季はラウタロ・マルティネスがすばらしい才能を開花させ、ロメル・ルカクという決定的なアタッカーで勝負したわけですが、思ったほど得点が取れませんでした。それと失点の多さですね。9失点はインテルのチームカラーを考えれば多すぎるでしょう。コンテはセンターバックを中心に時間をかけて整備したいはずですが、今回は守備のバランスを崩して攻めなければバルサやドルトムントには太刀打ちできなかった。そこに敗退の原因があった気がします。
中山 振り返ると、初戦のホームでのスラビア・プラハ戦で1-1のドローを演じてしまったことが最後に響きましたね。それと、勝てば勝ち抜ける可能性を残していた最終節のバルサ戦で、ステファノ・センシやアントニオ・カンドレーヴァを欠いていたことも影響したと思います。ただ、今季のインテルは秋口あたりからゴールを決めきれずに勝ち点を落とす傾向があったので、バイオリズム的な部分でも負ける要素はあったのかもしれません。
それと、個人的にはコンテのサッカーの場合は両ウイングバックがキーマンだと思っていて、その点では左のクワドォー・アサモアの故障離脱も誤算のひとつになりました。今季はラウタロとルカクの2トップのコンビネーションでもゴールを決められるようになっているだけに、ここで負けてしまったのは残念ですね。シーズン後半戦になれば、もっと安定した強さを見せられる気がします。
小澤 最近の傾向として、グループステージの日程がビッグクラブに有利に組まれているような気がしませんか? たとえばインテルのグループで言うと、バルサの初戦の相手はドルトムントで、最後がインテル戦です。少し前までは、有力チームの対戦は3~4節に組まれているケースが多かったと思いますが、最近は最初と最後に組まれています。
このパターンだと、仮にビッグクラブがスタートで躓いても、2節から5節までの格下との対戦で挽回しやすくなります。今季だと、初戦でパリに負けたレアル・マドリード(スペイン)などはその恩恵にあずかった印象があります。
中山 たしかに! アトレティコとユーベのグループも、リバプールとナポリ(イタリア)のグループも、初戦で直接対決のカードが組まれています。このスケジュールの組み方には、何か恣意的なものを感じますね(笑)。
<画期的だった南野のリバプール移籍
プレースタイルはチームに合っている>
倉敷 UEFAもいろいろ考えているんですね(笑)。
最後に、日本人選手の活躍ぶりにも触れておきましょう。今季はガラタサライ(トルコ)の長友佑都、ゲンク(ベルギー)の伊東純也、そしてザルツブルクでは南野拓実が活躍してくれました。3チームともグループステージで敗退してしまいましたが、南野はCLでの活躍が認められた格好でリバプールに移籍を果たしました。これはすごく画期的なことですね。
中山 リバプールは現世界チャンピオンなわけですから、これは2012年の香川真司のマンチェスター・ユナイテッド(イングランド)に匹敵するか、それ以上の大きな移籍だと思います。
小澤 長友と伊東はチームのパフォーマンスに引っ張られる形でよさを出せませんでしたが、南野は違いを見せましたからね。このところ日本代表でのパフォーマンスも突出していた印象がありましたし、この移籍は彼の成長の証といえるでしょう。
中山 プレースタイルとしては、南野がユルゲン・クロップ率いるリバプールに移籍することは頷ける部分がありますよね。彼は生粋のゴールハンターではなく、ハードワークしながらポイントポイントでゴール前に顔を出してシュートを決められる。ザルツブルクのような攻守の切り替えの激しいサッカーのなかで運動量も落ちないので、クロップのサッカーには適した選手だと思います。これまではCL予選で負けていつもELでプレーしていましたが、6年目にしてようやく手にしたCLのチャンスをものにした格好です。
倉敷 ザルツブルクというクロップの好きな、戦えるタイプのサッカーをするチームでプレーしていたことも大きかったですね。
中山 あとは、入ったあとです。アメリカの大学じゃないですけど、むしろここからが本当の勝負ですよね。
小澤 入ってからが難しい。ただ、われわれメディアやファン、サポーターが評価する基準も入ってからどれほどのプレー、パフォーマンスを見せてくれるのかという視点に移るべきだと思います。入ることはもちろん難しいのですが、今や移籍マーケットは国籍関係なしにグローバル化していて、日本人選手でも色眼鏡なく純粋に現時点での選手のレベルや直近の活躍をチェックしたうえでクラブは査定しています。
中山 香川真司のケースに似ているところはあるんですけど、リバプールで常時試合に出場するのは簡単なことではない。ただ、プロとしてやっている以上、目の前にリバプール移籍の話があったら、そこに行かなければプロではないとは思うので、素直に今後の期待をしたいと思います。
そういえば、クロップが面白いコメントをしていました。南野の補強は「競争ではなく、違ったオプションとして迎え入れる」と。つまり南野はサディオ・マネ、モハメド・サラー、ロベルト・フィルミーノとの競争ではなく、オプションとしての起用を考えているのではないでしょうか。
倉敷 アレックス・オックスレイド=チェンバレンのようなイメージでしょうか。香川のユナイテッド移籍のケースでは、彼を呼んだアレックス・ファーガソン監督が辞めてしまった不運がありましたけど、クロップは契約も更新しているのでその心配はなさそうです。そういう意味では、クロップの下でじっくり学びながらレベルアップしてほしいですね。
では、次回からはラウンド16を展望していきたいと思います。