リバプールの本拠地アンフィールドに南野拓実が姿を現すと、約6年前の試合を思い出した。

 2013年7月26日、マンチェスター・ユナイテッドがアジアツアーで日本を訪れ、セレッソ大阪と親善試合を行なった時のことだ。英国在住の筆者は日本に戻り、この一戦を大阪の長居スタジアムで取材した。

 うだるような暑さのなかで行なわれた試合は、2−2の引き分け。セレッソ大阪の2点目を決めたのが、表情にあどけなさが残る当時18歳の南野だった。



アンフィールドでリバプールデビューを果たした南野拓実

 ペナルティエリア外から右足でミドルシュートを放つと、ボールはゴール右上にきれいに吸い込まれた。取材ノートを読み返すと、先発したマンチェスター・UのDFリオ・ファーディナンドが「南野は将来的にプレミアでやれるかも」とコメントしている。そして南野も、「世界のああいうレベルのなかでやりたいという夢が、子どもの頃からある」と話していた。

 あれから6年半——。

 南野はセレッソ大阪からザルツブルクを経由し、リバプールの地に降り立った。2013年当時、おそらくリップサービスも含まれていたファーディナンドの言葉は、現実のものになったのだ。2015年に現役を引退したファーディナンドも、国内リーグの優勝回数で争う「宿敵リバプール」に、大阪で対戦した南野青年がやって来るとは夢にも思わなかっただろう。

 その南野が、新天地リバプールで第一歩を踏み出した。1月5日に行なわれたエバートンとのFAカップ3回戦。12月31日にチームに合流し、1日付けで晴れてリバプールの一員となった24歳の日本代表は、入団からわずか5日後の試合で先発メンバーに入った。

 試合前、リバプールの選手たちがアンフィールドのピッチに足を踏み入れると、熱心なサポーターが集う「KOPスタンド」から地鳴りのような歓声が鳴り響いた。南野はその声に応えようと、スタンドに向かって拍手。選手たちが互いの健闘を誓い合うためハグを交わしていくと、背番号18もアダム・ララーナ、ディボック・オリジの順で抱擁していった。

 ちょうどそのタイミングで「You’ll Never Walk Alone」の大合唱がアンフィールドで始まった。この時、南野は少しばかり感慨に浸っていたという。

「試合が始まる前に、『あぁ、リバプールの選手の一員になったな』って。あらためて、というほどでもないですけど、『やっと試合できるな』っていうワクワクした気持ちがありましたね」

 この日のリバプールは、若手中心のメンバー編成だった。ケガ人が続出しているのに加え、クラブW杯と年末年始の過密日程をこなしたことで、レギュラーメンバーは疲労困憊の状態だ。そこでユルゲン・クロップ監督は、カップ戦でレギュラー陣に休養を与えた。

 世界最高峰と謳われるモハメド・サラー、サディオ・マネ、ロベルト・フィルミーノの3トップは、いずれもスタメン外となった。レギュラー陣と呼べるのはCBのジョー・ゴメスぐらいで、若手中心の「急造チーム」でエバートンとのマージーサイド・ダービーに挑んだ。

 そのなかで、南野は4−3−3のCFに入った。2トップ一角のセカンドストライカーならあるが、日本代表やザルツブルクでも南野のCF起用はほとんど記憶にない。ただ、このポジションで起用したあたりに、クロップ監督が24歳の日本代表を獲得した理由が見えた。

 試合序盤から、南野はピッチを広く走り回った。CFといっても前線中央にとどまることはなく、中盤まで降下してボールを受けたり、サイドに開いてパスを引き出した。まさにその役割は、レギュラーCFのフィルミーノと重なった。

「ゼロトップ」としてピッチを広く動いてパスを引き出し、高い技術を生かして攻撃のリズムを作る。そして守備時になると、相手CBにプレスを仕掛けた。南野は言う。

「合流して時間もあまりなかったし、監督も『いつもどおりの自分でプレーすればいいよ』って言ってくれた。そのまま、いつも自分がやっているとおりにプレーしようと思ってゲームに入りました。

 オフェンスの部分ではすんなりスペースを見つけて、そこに顔を出すことができた。ボールが来ない場面は何回かありましたけど、それを続けていけば、たぶんチームメイトはわかってくれると思う。ディフェンスの部分で、もう少しセカンドボールの位置やプレッシングに行くタイミング、誰に行けばいいのかというあたりを、もうちょっと頭の中で整理できればよくなる」

 そんな南野のプレーでキックオフから際立っていたのが、「スペースの見つけ方、入り方、生かし方」だった。

 前半26分には、南野がサイドの味方に一度ボールを預け、自らペナルティエリア内のスペースに飛び込んでパスを要求。後半15分にも、中盤でオリジがボールを持つと、南野はダイアゴナルランでDFライン背後のスペースに侵入した。

 いずれもチャンスに結びつかなかったが、パスが通っていれば決定機になっていた。持ち味であるゴール前での決定的な仕事はできなかったものの、随所に「南野らしさ」は見せた。

 それらの動きを踏まえてクロップ監督のコメントを聞くと、決してお世辞ではないことに気がつく。52歳のドイツ人指揮官は熱っぽく語った。

「南野? スーパー・アウトスタンディング(極めて優れていた)。我々が求めていた選手であり、我々が獲得を望んでいた選手だ。

 知らないチームのなかでやる最初の試合だったし、練習も一緒に2回ほどしかできなかった。だが、サッカーの理解とスキルはすばらしい。姿勢も非常によかった。さまざまな局面でプレスを先導するプレーもできていた。とても気に入っている」

 後半25分の交代時には、アンフィールドの住民たちが南野をスタンディングオベーションで温かく迎えた。そんな本拠地の雰囲気に、南野は「最高ですね。サッカー選手として、これ以上ない最高のスタジアムだと思う。ダービーでファンも熱かった」とうれしそうに語った。

 だが、現状に満足しているわけではない。口をついて出たのは反省の言葉だった。リバプールの一員として、いかにチームに貢献していくか。世界最高のチームで高みを目指す、と誓った。

「選手として、このチームの一員になれたことはうれしく思う。でも、もうその時期は過ぎた。今日もピッチの上で、何かを示さなければいけなかったと思う。個人的に今の気持ちは、やっぱりゴールかアシストの結果を残したかったというのが一番です」

 夢の舞台には辿り着いた。だが、それだけで満足していられない。ここからが本当の勝負だと、南野は気を引き締めていた。