密着してわかったロスパーダ関西

兵庫県西宮市。
毎年の初め、福男を決める神事が行われる西宮神社がある。
高校球児たちが真剣勝負を挑み、熱いドラマが生まれる甲子園がある。
酒の産地として名高い灘五郷の西宮郷と今津郷がある。
2018年、そんな西宮市を拠点として関西初のパラアイスホッケーチーム、「ロスパーダ関西」が誕生した。
 
「ロスパーダ」の名前は、ギリシャ語で「勇気」を意味する「θάρρος(サロス)」とイタリア語で「剣」を意味する「Spada(スパーダ)」に由来する。
2本のスティックを双剣に例え、前へと勇敢に突き進む姿をイメージして付けられたという。
 
パラアイスホッケーは、下肢に障がいがある人のために「アイスホッケー」のルールを一部変更して行うスポーツ。パラリンピックの正式競技の一つで、日本は1998年長野大会から参加しており、比較的その歴史は浅い。
選手たちはスレッジ(競技用のそり)に乗り、2本のスティックで漕ぐようにしてリンクを滑りながらパスやシュートを駆使して互いのゴールを奪い合う。
 
夕闇迫る11月の土曜、ロスパーダ関西の拠点であるひょうご西宮アイスアリーナで練習の様子を見学させてもらった。

 ▲ひょうご西宮アイスアリーナ

建物入口で小学生やスタッフらしき女性、若い男性など数名のメンバーが集まり、年齢もさまざま、立っている人や車いすの人、皆が仲良く会話している。
歩み寄ると、皆にこやかに挨拶をしてくれた。
 
さっそくパラアイスホッケーの面白さをたずねてみると、「めちゃくちゃ面白いですよ!」とメンバーのひとりが即答してくれた。
 
やがて人が集まり、大人たちが手分けして建物横の倉庫から道具を取り出し、場内に持ち込む。
ガラス張りのロッカールームを過ぎてスケートリンクへと通じるドアを抜けると、眼前に高いドームの天井と白いリンクが広がった。

▲壁には大学やフィギュアスケート選手の垂れ幕も見える
 
スケートリンクの一般営業の終了を知らせる『蛍の光』が流れ始めた頃、いよいよロスパーダ関西の練習開始だ。皆それぞれの準備に取りかかる。
選手が着替えを始め、大人たちは道具を取り出して綺麗に並べ始めた。
「リンク前のこの辺りはみんながスレッジに乗るため混雑するので、道具を取りやすいように予め並べておきます」(マネージャー:伊藤紅子氏)とのこと。

ロスパーダ関西は監督、コーチの他にマネージャー2名とトレーナー2名がチームをサポート。
選手の親御さんも一緒になり、みんなで選手たちをサポートしている。
 
チームはいたって和気あいあいとした雰囲気が漂う。
町井清監督も、手早く身支度を整えながらリンクサイドに現れた坂本義仁選手(手術後のためリハビリ中)を気遣う。

準備を終えた選手たちが、リンクへ次々と漕ぎ出していく。
監督も選手に続いて軽快にリンクへと飛び出していった。

場内はひんやりとした空気に包まれている。事前に聞いてはいたが、すぐに足元が冷えてきた。
「練習中、選手たちは汗だくになりますよ」と、トレーナーの角田慎司さんが笑って教えてくれた。
角田さんの普段の仕事は作業療法士。リハビリを担当した選手を通じてチームの存在を知り、活動に参加しているとのこと。
 
選手たちは思い思いにスレッジを漕ぎながらウォーミングアップを済ませ、広々としたリンクで二手に分かれて練習が始まった。

一方のメンバーはまだ小学校低学年あたりか、スレッジを漕ぐ姿が可愛らしい。
リンク横で見学していたお母さんによると、
もともと下のお子さんがパラアイスホッケーを始め、それを見ていた上のお子さんも興味を持ち、一緒に練習に参加するようになったという。

パラアイスホッケーの面白さの一つは、健常者も一緒にプレーができること。
日本代表選手にはなれないが、国内クラブチーム選手権大会など国内で開催される大会は健常者でも出場できる。
障がいの区別だけでなく、年齢や男女の区別もない。
以前、アイススケートをしていたという女の子も健常者でチームに参加している。
パラアイスホッケーは究極のダイバーシティスポーツと言えるかもしれない。
 
練習後半、全員が参加してミニ試合が始まった。

間近でリンクを見ていると、弾かれたパックが飛んできたときのドンという衝突音が胸に響き、なかなかの迫力がある。
選手同士がパックを競り合って目の前で壁に激突するときは、自分に当たらないと分かっていても思わず後ろに退がってしまうほどだ。
それもそのはず、パラアイスホッケーはアイスホッケー同様にボディチェックが認められており、その激しさゆえに「氷上の格闘技」と呼ばれている。
 
ミニ試合でも、選手たちは真剣だ。
パスを受け取ろうとしてあと少しのところでパックに手が届かず、悔しそうな表情に思わずこちらも力が入る。
パックの行方を追いかけて、選手たちが盛んに声を掛け合う。

90分間の練習を終え、選手たちが上気した顔で戻ってきた。
片付けをしながら、監督やコーチ、トレーナー・マネージャー、選手の保護者たちが互いに会話を交わし笑顔を見せる。選手だけでなく、ここにいる全員がロスパーダ関西のメンバーだという一体感があった。

ロスパーダ関西のクラウドファンディングページはこちらから)
https://www.spportunity.com/hyogo/team/385/invest/462/detail/

国内パラアイスホッケーの現状と試練

日本のパラアイスホッケー代表チームは、2010年のバンクーバーパラリンピックで銀メダルに輝いた。
しかし日本全体の競技人口が約70名という少なさも影響し、近年はメダルから遠のいている。
また、クラブチームの練習はスケートリンクの営業時間外に行われるため、活動時間は基本的に夜が多い。
深夜0時を過ぎてから活動しているチームもあり、どうしても参加可能な選手が限られることも競技人口が伸び悩む一因となっている。
 
元々はアイスホッケーのレフェリーをしていたという町井監督。その活動を通じ、パラアイスホッケーのレフェリーを務める機会が訪れた。
初めて試合を見たとき、
 
「どう表現したら良いのかわかりませんが、『本当に障がい者なのか』と思いました」
 
氷を削るジャッという音、スレッジ同士がガツンと激しくぶつかる衝撃。もつれ合ったまま、時には壁に激突する。
パックを奪い合って敵味方のスティック同士が激しく交差し、カンカンという硬い音がリンク上に絶え間なく響き続ける。
 
パックのスピードは海外の選手になると時速100kmを超えるという。
漠然と「障がい者向けのスポーツ」と思っていただけに、その衝撃は大きかった。
今もパラアイスホッケーに関わる一番の理由は、「純粋にスポーツとしての面白さに魅了されたから」だそうだ。
 
ロスパーダ関西の創設は、元々は月一回の体験会が発端だった。
関西でもパラアイスホッケーの輪を広げようという話が出たのをきっかけに、関西在住だった町井監督と元日本代表コーチの青木栄広さんらが主となり、体験会を開催することになった。
協会からスレッジやスティックをレンタルし、乗り方やスティックの使い方などを教えた。
 
そのうち、体験会に毎回参加するリピーターが現れた。
アイスホッケーの経験者が参加し始めた。
ある程度メンバーが揃う見込みが立ったとき、体験会はパラアイスホッケーのチームとして新たなスタートを切った。
 
創設間もないチームを率い、毎年12月に行われる国内クラブチーム選手権大会で勝利を挙げることが当面の目標だ。日本代表メンバーが在籍しているとは言え、まだ選手層も薄く、勝利までの道のりは長い。
だが、町井監督の夢はまだその先に続く。
 
「やっぱり、パラリンピックの代表になる選手を輩出したいという思いはあります」
 
町井監督はロスパーダ関西の監督であると同時に、日本代表チームのコーチでもある。
国内チームの全体的なレベルアップを図ることにより、3年後の北京やその先のパラリンピックでのメダル獲得につなげたいと考えている。
ロスパーダ関西のキャプテンを務める濱本雅也選手と坂本義仁選手は今年開催された世界選手権に日本代表のメンバーとして選出されており、この他にも和田昌也選手、伊藤樹選手と有望な選手が控えている。
興味を持つ人が増え、競技人口が増えれば選手層が厚くなり、再びメダルを狙えると町井監督は話す。


 

志をともに〜チームを応援するための「ヒト」「モノ」「カネ」〜

パラリンピックの正式競技とは言え、日本でのパラアイスホッケーはまだまだマイナーなスポーツ。ロスパーダ関西も、人材と資金確保の難しさがチーム発展の行く手を阻む。
 
活動場所であるスケートリンクを押さえることができるのは、予算の都合上、月に1回が限度。
パラアイスホッケーは1チーム5人+ゴールキーパー1人の計6人で行われる。体力の消耗が激しいため、試合中は2〜3セットを随時入れ替える。十分な練習を行うにはメンバーが20~30名程度欲しいところだ。
 
現在、ロスパーダ関西に所属する選手の数は14名。
メンバーは絶賛募集中で、選手が友人を連れてきたり体験希望者が来たりするなど人数が少しずつ増えつつあるものの、まだ十分とは言えない。
また、スレッジは1台約10万円で、今のところは協会の協力を得て道具の準備ができているが、人数が増えれば今度は新たに道具の調達が必要になり、チームが資金不足に陥るという悩ましい状況にある。
 
創設当初は多くのメディアに取り上げられ、スポンサーからの資金も集まった。
しかし、支援はその後続かず、新たなスポンサーがなかなか見つからない。
選手たちが会費を出しあっているが、それでも当初の手元資金はじわじわと減りつつある。
 
パラアイスホッケーに興味を持った方、パラスポーツに関心がある方、以前アイスホッケーをしていたという経験者の方、このプロジェクトにぜひ力を貸して頂けないだろうか。
金銭的支援だけでなく、もちろん、チームを宣伝してくれる営業活動でも有難いし、周囲への声かけ、SNSでのシェア、どのようなところでもロスパーダ関西の名に触れてもらえれば有難い。

▲期待の新星、涼やかな目元のFW伊藤樹選手

ロスパーダ関西の守護神、GK大西航選手(仲間のユニフォームを着用中!)
 
また、チーム強化のため、切磋琢磨しあえるビジターの練習相手も募集している。
先述の通り、国内であれば健常者もチームの一員として選手権に出場することが可能だ。
アイスホッケーの経験者ならなおのこと、
「アイスホッケーはスピードが速いので、代表クラスの選手にとっては非常にありがたい練習パートナー」(マネージャー:荒木美晴氏)。
アイスホッケー×パラアイスホッケーのミックスにより、ロスパーダ関西はより充実した活動が可能になるだろう。
 
チーム練習は随時見学可能とのこと。体験参加も受け付けており、練習日はFacebookのロスパーダ関西公式ページで確認できる。
リンクは夏でも極寒のため、厚着するのをお忘れなく。
 
今年の国内クラブチーム選手権大会は、ロスパーダ関西と今年9月に誕生した東海アイスアークスの連合軍で出場予定。
メダルを目指し、未来に向かって熱心に練習に励む姿に、是非熱い声援を送りたい。
 
 
▼ロスパーダ関西を応援しよう!クラウドファンディングのページはこちら
https://www.spportunity.com/hyogo/team/385/invest/462/detail/

▼一般社団法人 日本パラアイスホッケー協会のサイトはこちら
http://sledgejapan.org/

▼スポチュニティとは?
https://www.spportunity.com/about_us/

 

ライターの紹介

森田 裕子

関西在住のコラムライター。自分が感じた面白さをできるだけそのまま伝えられたらと思います。