アメリカ・ニューヨークで開催されている「全米オープン」(8月29日~9月11日/ハードコート)の女子シングルス決勝で、第2シードのアンジェリック・ケルバー(ドイツ)が第10シードのカロリーナ・プリスコバ(チェコ)を6-3 4-6 6-4…

 アメリカ・ニューヨークで開催されている「全米オープン」(8月29日~9月11日/ハードコート)の女子シングルス決勝で、第2シードのアンジェリック・ケルバー(ドイツ)が第10シードのカロリーナ・プリスコバ(チェコ)を6-3 4-6 6-4で下し、初優勝を果たした。

 月曜日に発表される世界ランキングで1位に浮上することが決まっているケルバーは、新女王の座をそれに相応しい華やかな勝利で飾ることになった。

 決勝の序盤、ケルバーはドロップショットを拾うため前方へダッシュし、それをすくうようにして、ダウン・ザ・ラインのコートの角へとウィナーを放った。

 アーサー・アッシュ・スタジアムの観客たちは歓声をあげ、ケルバーは、あたかも対戦相手のプリスコバに『私がナンバーワンよ』と思い出させるかのように、右手を上げ、人差し指を振る仕草でそれを祝った。

 その通り、彼女は世界ナンバーワンだ。グランドスラム大会で2度優勝したプレーヤーでもある。

 「これは私にとって大きな意味を持つことよ。子供の頃、私はいつも、いつの日かナンバーワンになること、グランドスラム大会で優勝することを夢見ていた」と、28歳のケルバーは言った。

 彼女は月曜日に、WTAランキングで現在の2位から一つ階段を上り、セレナ・ウイリアムズ(アメリカ)に替わってナンバーワンの座につく。

 「今年はすべての夢が実現したの」

 2016年以前には、一度もグランドスラム大会の決勝に進出したことがなかったケルバーが、1月の全豪オープンでセレナを倒して優勝し、6月のウィンブルドンではセレナに敗れたものの、準優勝だった。

 今回2つ目のグランドスラム・タイトルを獲得したことは、ケルバーがこれまでに行ってきた数々の変革が成果を上げたということである。

 フィットネスコーチであるトーベン・ベルツの指示のもと、長い時間をジムで過ごしたという。これまでよりも長く、より強度を増し、より密度の濃い練習を行ってきた。サービス力を向上させ、主にカウンターパンチを行う代わりに、自分から攻撃を仕掛けていく姿勢をつくった。そしてメンタル・コーチを通して得たのは、コート上でのよりポジティブな姿勢だ。

 「もちろん、これから皆が、失うものは何もないというメンタリティで、私を倒そうと向かってくるでしょうね」とケルバー。「私は、そのチャレンジを受けて立つつもりよ」。

 土曜日の決勝でケルバーは、プリスコバに第3セットでワンブレークされ、1-3とリードを奪われていた。しかし、そこから挽回して勝利をつかんだのだ。プリスコバはこの大会まで、グランドスラム大会で3回戦を超えたことがなかった選手だ。

 「いい様子には見えなかった」と、この劣勢についてベルツ・コーチは言う。「しかし、それがまた彼女の強さでもあると思う。というのも、彼女は、まだ自分にはチャンスがあると思ったなら、それをつかもうとし、思いきって飛びついていくことのできる選手だから」。

  ケルバーは、彼女のアイドルであり、お手本でもあるシュテフィ・グラフ以来のドイツ人全米チャンピオン、そしてドイツ人の世界ナンバーワン・プレーヤーとなった。グラフは決勝前に、ケルバーにテキストメッセージを送ってきて激励したのだという。

 準決勝でセレナを倒し、ケルバーの1位を確実にしたのは、この日の彼女の対戦相手であるプリスコバだった。セレナの世界1位の在位期間は、グラフとタイ記録となる186週で、2013年2月から続いた記録だが、ついに終わることになった。

 ケルバーは3週間前の全米前哨戦であるシンシナティ決勝でプリスコバに敗れていた。

 しかし、この決勝の出だしに主導権を握ったのは、ケルバーのほうだった。ベースライン沿いを走り回り、すべてのボールにラケットを伸ばして、地面をかするくらい膝を低くして、ボールを拾いまくる彼女のディフェンスは、模範的というよりほかはない。

 ケルバーは、ポイントを終わらせようとしているプリスコバに、2回、3回、4回と余計にラケットを振らせた。序盤のプリスコバはそのことに煩わされ、第1セットだけで17本のアンフォーストエラーをおかしている。これは、わずか3本しかアンフォーストエラーをしなかったケルバーと比べ、14本も多い。2時間7分の試合の終わりには、プリスコバはケルバーよりも30本も多い、合計47本のアンフォーストエラーを記録している。

 「アンジーと対戦するときは、ミスを待つことはできないのよ」とプリスコバ。「彼女は何もただでは与えてくれない」。

 ケルバーはコイントスに勝ち、リターンを選んだ。おそらくその理由は2つあった。ひとつは彼女のサービスは、強みであふれている彼女のテニスの中での最大の課題であること。もうひとつは、プリスコバに早い段階で“ナーバスさ”のテストを課すという理由だろう。それは理に適ったことだった。いずれにせよ、その決断は効果を生んだ。プリスコバは、最初のポイントでダブルフォールトをおかし、最初のゲームをケルバーにブレークされることになった。

 しかし、プリスコバも踏ん張りを見せた。そして、つかんだ最初の4つのブレークポイントをふいにしてしまったあと、5つ目をものにした。ケルバーの頭上を超えてベースライン近くに落ちるロブボレーのウィナーを決めた。4-3とリードしたプリスコバは、観客席にいるコーチのほうを見て、拳を突き上げながら歓喜の叫びを挙げた。

 試合は素晴らしいポイントと、緊迫した瞬間、多くの感動に満ちたものとなり、プリスコバはサービスをキープして、第2セットを取り返した。これはケルバーがこの大会で落とした、唯一のセットだった。

 ケルバーは第3セットの出だしでもブレークを許し、悔しさ余って、ラケットをコートにバウンドさせた。そして数分後、彼女は1-3とリードされた。

 しかし、今度はケルバーが根性を見せた。彼女は奮起してブレークバックし、3-3と追いつくと、そのまま勢いを保って試合は終わった。

 最後のポイントが決まったとき、ケルバーは仰向けに倒れ、それから観客席にるコーチのもとへ、壁をよじ登った。

 「間違いなく、いま彼女はナンバーワンになるに値する、と言うことができる」とプリスコバ。「セレナが長く占めていた王座がついに替わる、素敵な変化だと思うわ」。(C)AP